第三十章 襲撃検討会 1.提案
~Side ネモ~
刺客たちの襲撃をどうにか撃退した翌日、本当なら学園へ向けての帰途に就く予定だったんだが――
「やっぱり、帰るのは一日延びるみたいだよ」
「まぁ……捕縛した刺客の訊問とか護送の手配とか、屍体の検分とか……色々やるべき事は多そうだからね」
さてそうなると、延びた一日をどうするべきかという話になるわけだが……
「どうしたら良いと思う? ネモ君」
おいジュリアン、何だってそんな話を俺に振ってくる?
「いやぁ……先生方はあのとおり後始末に天手古舞いだし……生徒たちで何か考えた方が良くないかと思って」
そりゃ筋の通った提案だが……何でみんなこっちを見てるんだよ?
「今回の一件は、言ってみればネモが企画したようなもんだろ? だったら、〆もネモが提案すべきじゃないのか?」
「おいカルベイン――その言い方じゃ、俺が刺客を雇って襲わせたみたいに聞こえるだろうが。ちったぁ考えてから発言しろ」
〝口は災いの元〟って諺を知らんのか。
「い、いや……そんなつもりじゃなかったんだが……」
「言い方はともかく、カルベイン君の指摘にも一理あるだろう。有益な時間潰しの一つや二つ、ネモ君なら心得てるんじゃないか?」
急にそんな事言われてもなぁ……折角の機会だから、現場検証の真似事でもするか?
「現場検証?」
「何ですの? それは」
「いや……こういう言い方が適切なのかどうかは判らんがな……要は、折角稀有な体験をしたわけだから、今回の出来事を多角的に分析しちゃどうかって事だ」
「分析……って?」
「おぃおぃネモ、それって学生の手に負える事なのか?」
エリックのやつ、早速腰が引けてやがんな。ま、大方「多角的」だの「分析」だのってワードにビビってんだろうが……
「学生の身でできる事だけをやろうってんだ。差し当たっては、事態の推移を時系列に沿って再現する事からだな」
「時系列に沿って再現……」
「あぁ。何しろ全員がばらけていたから、全容を俯瞰していた者がいないわけだ。それで、各自の体験や報告を基に、事態がどう動いたのかを再現しておこうって事だ。さっき訊いてみた限りだと、個別に事情聴取って事もしねぇようだし、全員の証言を擦り合わせておいても問題は無ぇだろ」
そう提案してやったら全員が乗り気になった。特にAクラスの連中なんかは、部屋に閉じ籠もってただけで、何がどうなったのかまるで判っちゃいないからな。
「……ネモ、〝差し当たって〟と言っていたが、その後は何を考えている?」
おっ、さすがにコンラートのやつは気付いたか。
「いやな。折角だからここは攻守ところを変えてみて、刺客側はどう動いていれば襲撃を成功させ得たのかを、一つ考えてみちゃどうかと思ってな」
「……刺客側の視点から、事態を反省するわけか……」
「……思うところが無いでもないが……面白そうではあるな」
「その戦訓を基に、今度は防衛側の問題点を曝こうというんだね?」
「察しが良いな、リンドローム。そこまでやらんと面白くないだろう」
「面白いって……」
「お偉方の計画にヘマが無かったかどうか、粗探しをしようってんだぞ? これが面白くなくて何だってんだ?」
――そう言ってやったら、俄然全員が大乗り気になった。こういうところは年相応だよな。……言い出しっぺの俺が言うのもどうかと思うが。
「よし。じゃ、昨日の班毎に分かれて、見聞きした事を纏めてくれ。それを時系列に従って並べて、事態の推移を再現するぞ」
「「「「「――おぅっ!!」」」」」