第二十九章 暗くなるまで待って 5.キャンプハウス 02:30~02:49
~No-Side~
キャンプハウスの中では、突入した男たちが悪態を吐いていた。
「――くそっ! 何だってこんなにゴチャゴチャと――」
「模様替えでもしてたってのか!? 家具の位置が想定とは違う!」
襲撃に際して予め屋内の見取り図くらいは手に入れていたようだが……実際の状況はそれとは大きく異なっていた。あちこちに荷物が放置してあるし、幾つかの戸口などは、家具によって半ば塞がれている。何でまたこんな状態になっているのか……
「……いいから貴賓室を目指せ! 目標はそこにいる筈だ!」
「おぃっ!? 直通ルートが塞がってる!」
「……クローゼット……か? 何でこんなところに……」
「呆けてる暇は無い! 迂回路を目指せ!」
「こっち――うわっ!?」
「――どうしたっ!?」
「足許に気をつけろ! 小荷物が散らばってる! 逃げる時に持ち出そうとして、そのまま置き去りにしたようだ!」
「……なんてお行儀の悪いガキどもだ……」
想定外にキャンプハウスの奥へと引き摺り込まれた刺客たちであったが……
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~Side ???~
「――ぐっ!」
右手を進んでいた仲間が、くぐもった悲鳴とともに沈黙した。
「どうしたっ!?」
問いかけに答えて飛んで来たのは、短い矢だった。……クロスボウか!
「気をつけろ! 待ち伏せだ!」
「何っ!?」
「くそっ! 罠かっ!」
……してやられた。やつらはこっちの動きを読んで、予め襲撃に備えていたらしい。……この家具の配置もそのせいか。こっちの動きを掣肘すると同時に、身を隠すための防壁ともなる。だが、防壁にできるのはこっちも同じ……!!
「全員立ち止まるな! ここは殺し間だ!」
「何っ!?」
「ぐわっ!」
――くそっ! 安全な物陰に見えて、実際は狙撃の的って事か!
「作戦変更! 手当たり次第にぶっ放して、キャンプハウスもろともぶっ潰せ!」
――02:35 迎撃戦闘開始――
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~Side バンクロフツ隊長~
おぃおぃ……坊主の言ったとおりの展開か? 確かに、考えてみりゃ頷ける判断だが……小僧っ子の分際で、能くもここまで知恵が回るもんだぜ。生き残りの四人がバラバラに散ってこっちの攻撃を分散させ、一人でも突破しようって魂胆だろうが……
「くそっ! 何で魔法が通じない!?」
お生憎だったな。坊主の入れ知恵で、ハウスの中はガチガチに抗魔法攻撃のエンチャントをかけてあんだよ。壁だろうが柱だろうが家具だろうが、掠り傷でも付けられたら褒めてやらぁ。
「煙幕を張れっ!」
――ちっ! 面倒な悪足掻きをしやがって……クロスボウを無効化しようってか? 仕方ねぇ。
「全員抜剣! 白兵戦用意!」
ま、こっちはまだバリケードの後にいるんだ。不意を衝かれる事ぁ無ぇが……そうそう楽はさせてもらえんか……
「各員、通路を固めろ! 特務騎士団の名にかけて、一人たりとも奥へ行かせるな!」
「「「「「おぅっ!」」」」」
「ぎゃっ!」
……何だ!? 誰かやられたのか? 慌てて声のした方を見ると、煙の際に賊が一人ファイアーボールを喰らって倒れていた。
……嬢ちゃん……幾らスライムが位置を教えてくれるからって、無茶な真似はしねぇでほしいんだがな……
註.バンクロフツ隊長の言う〝抗魔法攻撃のエンチャント〟は、建物が魔法によって破壊される事を阻止するものです。屋内での魔法使用を阻止するものではありません。