第二十九章 暗くなるまで待って 4.外 02:20~02:30
~Side ネモ~
――第二班の連中が予定どおり脱出したか。
安全確保の後に、非戦闘員の生徒たちを避難誘導させる手筈になっていたが……何とか上手くいってるみたいだな。とにかくハウス内の人数を減らさないと……ゲームでは屋内での乱戦になって、戦えない生徒を守るために奮闘していた生徒が犠牲に――というシナリオだった筈だ。人数が多過ぎて襲撃側も迎撃側も思うように動けず、キレた刺客側がテロ行動に走ったんだよな、確か。
その悲劇を避けるために、戦闘に向かない生徒たちを早々に脱出させたんだが……今のところは上手くいってるか。ジュリアンだかアスランだか知らんが、目当ての目標がいない事は判ったようで、襲って来る気配は無いな。ま、そん時ゃ俺たち第一班が、横撃を喰らわす手筈になってるんだが。
……想定どおりに進んでるみたいだから、今のうちに見届け役の身柄を確保しておくか。
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おぉ……来る途中に片付けた斥候もそうだったが……だらしなく伸びてんな。単なる威圧だけじゃなくて、麻痺か石化みたいな効果もあんのか。……思ってたより凄いんだな、俺の【眼力】。
おっと――そんな事に感心してる暇は無いんだ。来る途中に確保した斥候には、自決用の呪いがかけてあったとか言ってたしな。こいつだって同じかもしれん。念のため【鑑定】して……あったよ、呪い。……ひょっとして……悪神様に貰った毒破壊のオプションで解呪でき……たな。
……「解呪」って言うより「壊呪」って気もするが……ご丁寧に、呪いを解呪したんじゃなくて、最初から呪いなんかかけられてなかったようになってるし……。さすが悪神様お薦めだけの事はあるな……
……まぁ……〝終わり良ければすべて良し〟って云うしな。……深くは考えまい……
……深くは考えないつもりだったんだが……何でSPが貰えてるんだよ……
これはアレか? 悪神様お薦めのオプションを使って、結果的に王国側を騙す事になるからなのか?
……もういい……考えるのはよそう……
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~No-Side~
キャンプハウスから離れた物陰に、生徒たちが脱出する様子を窺っていた男たちがいた。
「……脱出しているのは普通の生徒のようだな。目標らしい姿は見えない」
「一般生徒を先に脱出させて、自分たちは最後に脱出するつもりか?」
「くそっ! 王家の矜持だか何だか知らんが、面倒な真似を!」
「だが――逆に見ればこれは最後のチャンスだ。屋内に残っている護衛も生徒も半減している。今を措いて突入の機は無いぞ」
一人がそう言って周りを見廻すと、やがて全員が頷きを返した。
「……そうだな。ここにこうしていても始まらん」
「どうせ捨てる予定の命だ。後生大事にとっておいても仕方がない」
「よし! やろう!」
「いいか? 飽くまで善意の救援者を装って、建物内に突入する。間違えるな?」
相談が纏まったところで、全員が駈け出した。
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「おぃっ! 無事か? 一体何があった!?」
突然駆け着けてきた見ず知らずの男たち。声をかけられた少女は怯えたように黙り込む。その様子を見て、
「我々はこの近くの者だ。火の手が見えたので駈け付けた。――全員脱出したのか?」
「あ……まだ中に殿下……いえ……生徒たちが……」
知りたかった答えを聞いた男たちが頷き合う。
「よしっ! 我々が救出する! 君たちはここで待っていろ!」
六人の男たちがキャンプハウスに突入するのを見送って、今まで黙っていた少女がもう一人の少女に話しかける。
「はぁ……ネモさんの計画も計画ですけど、クラリスさんも能く咄嗟に、あんな小芝居が打てますね……」
「商人の娘たる者、あのくらいできなきゃ話にならないのよ。レベッカも腹芸の一つくらいできるようになりなさい」
「無理です。わたし、すぐ顔に出る質なんで」
他愛無い言い合いをしていた二人に、親衛騎士の制服を纏った初老の男性が近寄って来た。
「……上手く誘い込んだか?」
「あ、先生」
「ご覧のとおりです」
「よし、手筈どおりに包囲を布く。ネモたちも追っ付け駆け着ける筈だ」
――02:30 不審者集団、キャンプハウスに突入――