第二十九章 暗くなるまで待って 3.外~キャンプハウス 02:13~02:19
~Side ネモ~
さて……ヴィクのやつが教えてくれたのはあの辺りだが……いるな、見届け役。逃げられる前に仕留めておきたいが……いけたわ。この距離でも卒倒させられるって、えげつねぇな【眼力】。
(「おぃネモ、どこまで走ればいいんだ?」)
ナイジェルのやつが訊いてくるが、
(「そりゃ状況次第だな。連中がこっちに向かって来るかどうかで決まるが……どうなんだ? ヘクト」)
周辺警戒の能力を買われてこっちに廻された、Bクラスのヘクトってやつに話を振ったところ、
(「――あ? あ、あぁ……大丈夫だ。やつらはこっちを放置するみたいだ」)
(「こっちを見張っていそうなやつらは? いないのか?」)
(「い、いない。完全にフリーだ」)
ふむ……見届け役の事は気付かなかったか。手っ取り早く【眼力】で仕留めたからな。だったら――
(「よし、だったらそろそろやつらの包囲に廻るか。姿勢を低くして散開しろ。奴らが逃げないように、背後から固めるぞ」)
(「「「おぅっ!」」」)
ばらけたところで見張りに出会した事にして、投石杖で石でもぶつけておくか。適当な事を並べ立てておけば、何とかなるだろ。
(「奴らがキャンプハウスに突入したら、俺たちも前進して包囲を狭める。遅れるんじゃねぇぞ」)
(「「「おぅっ!」」」)
――02:15 ネモたち第一陣、予定の位置に移動――
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~Side ドルシラ~
『まだ もたもたしてるー』
「賊どもはまだ動いていないそうですわ」
ヴィクさんからの報告を、マクルーア隊長に伝えます。
「よしっ! 第二班、行けっ!」
「おぅっ!」
学園の警備陣と親衛騎士団の方々が出るみたいですわね。火魔法で玄関の近くまで燃えているように偽装してますから、その明かりで騎士団の姿ははっきりと判る筈です。事を起こすかどうか、賊たちも悩ましいところでしょうね。
こちらが常に先手を取って動いてやれば、賊の選択肢を一方的に狭める事ができる。……ネモさんの作戦ですけど、ここまで上手く進んでいるのは、ヴィクさんがいての事ですわね。スライムの感覚がここまで鋭敏だなんて、不勉強にも存じませんでした。従魔として人気というのも解りますわね。
『ヴィクさん、そろそろこっちへ来てくれませんこと?』
『わかったー』
先程飛び出したのは警備員と親衛騎士団の方たちで、消火と外の安全確保を終えたら、生徒たちを順次安全な場所へ誘導する――のだと、賊どもには思えるでしょうね。実際には先行した方たちの半数近くは、親衛騎士の衣服を着用した先生方なんですけど。
屋内戦に向かない先生方には、この後脱出する生徒たちの保護をお願いする手筈になっています。私たちAクラスは別として、戦闘に向かない生徒たちは先に脱出させる予定です。血迷った賊が見境無く攻撃する可能性がある――というのがネモさんの一番の懸念でしたから、それを避けるために早めに避難させる事にしたのですわ。
そして……私たち籠城班は、放火された部屋に立て籠もる予定です。あの部屋は密かに内側から、先生方が防火の魔法付与をかけてありますから、実のところ火災からは一番安全な場所になっています。それ以外にも抗魔法攻撃のエンチャントをガチガチにかけて下さいましたし、窓からの侵入は炎それ自体が防いでくれますしね。……ネモさんも、能くこんな知恵が回るものですわね。……即席のパニックルームとかおっしゃってましたけど。
――さて、賊どものお手並み拝見ですわね。
本日21時頃、死霊術師シリーズの新作を公開する予定です。宜しければこちらもご笑覧下さい。