第二十九章 暗くなるまで待って 2.キャンプハウス~外 02:07~02:15
~No-Side~
辺りを警戒しつつ闇に紛れてキャンプハウスに接近した人影は、窓の下に積んである薪に油をかけて火口を置くと、【着火】で火を着けた。始めブスブスと燻っていた炎がやがて大きくなるのを見届けると、人影は素早くその場を離れた。
――02:07 状況開始――
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~Side ネモ~
『マスター あいつ ひをつけたよー?』
『予想どおりの場所にか?』
『うんー よそうどおりー』
『よし。この後はお嬢の指示に従ってくれ。適当なところで見張りを切り上げたら、こっちへ戻ってお嬢のガードに就け』
『はーい』
念話でヴィクへの指示を終えたところで、傍らのバンクロフツ隊長に報告する。今後の行動の最終確認ってやつだ。
(「予想どおりです」)
(「まぁったく……坊主は千里眼でも持ってんのか? 空恐ろしいくれぇに読み当てやがんな」)
……確かに【眼力】を持っちゃいるが、どっちかと言うとゲームの知識が大きいんだがな。……口に出せないのはどっちも同じだが。
(「買い被りですよ。それより、ある程度火が大きくなったら飛び出しますから、後の事はお任せしますよ? ……外の様子は、ヴィクからお嬢に伝えさせますんで」)
(「あぁ、手筈どおりにやるさ。……そろそろじゃねぇのか?」)
(「はい、それじゃ……」)
合図をすると、生徒たちが――少し態とらしい気もするが――火事に気が付いた風を装って騒ぎ出す。その声が段々大きくなったところで、俺たち第一陣が外に討って出る……惑乱して外に逃げ出したという体裁で。
「行くぞ」
「おぅっ!」
――02:12 ネモたち第一陣、屋外に出撃――
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~Side ???~
生徒たちは想定より早く火事に気付いたようで、キャンプハウスに灯りが点いて騒ぎ立てる気配がした。――と、いきなり玄関から数人の子供たちが喚きながら飛び出した。
(「――っ! 予想より早いぞ!」)
(「目標は!? 中にいるのか!?」)
(「判らん!」)
くそっ! 【暗視】スキル持ちの斥候が先にやられたせいで、状況が判らん! 通りがかった善意の救援者を装ってハウスに突入する予定だったが……
(「飛び出たのは子供だけのようだ! 護衛がいないところを見ると、目標はまだハウスの中の筈だ!」)
(「どうする!? あの小僧どもを放って置くと、助けを呼びに走るんじゃないのか!?」)
……完全に想定を覆された。
(「……ここで手勢を分けるわけにはいかん。……監視役に後を任せるしかあるまい。全員を始末するのは無理でも、助けを求めに行くのを妨害するくらいならできる筈だ」)
監視役には、事の成就の如何を本部に報告するという重要な任務があるのだが……事ここに至っては、已むを得まい。
「おぃっ! 火の廻りが早い! 玄関の方まで燃えているようだぞ!?」
声が高いと言いかけて止めた。確かに、玄関の直ぐ近くまで炎に照らされて明るくなっている。火の手が玄関に廻るようだと、目標がどこから脱出するのかが読めなくなる。……今のうちに突入すべきか? だが……
「……まだ中には大勢が残っている筈だ。今突入したところで、首尾好く目標を探し当てて始末できるかどうか判らん……」
「しかし……このままだと……」
くそっ! 目標が脱出するか、もしくは生徒の大半が外に出たのを見計らって、消火か救援のふりをして突入する予定が……
「おぃっ! 騎士団らしい連中が出てきた! 生徒を脱出させるようだぞ!」
くっ! ……もはや一刻の猶予も無いか?