第二十七章 郊外キャンプ~三日目~ 3.会議は踊らず
~Side ネモ~
その晩、またしても俺とヴィクは先生方にドナドナされて、警備計画の会議とやらに参加させられた。まぁ、ちょっと気になる事もあったから、大人しく蹤いて行ったんだが……案の定、三馬鹿が捕まった事で緩んだ空気が広がっていた。
……楽観してるところ悪いけど、あいつらは真打ちじゃなくて前座なんですがね?
「……すると、ネモは警戒を緩めるべきではないと言うのかね?」
――と言うか、前世のゲームの記憶では、三馬鹿の襲撃なんて妙なイベントは無かった筈だ。刺客の襲撃は最終日の夜、数名がキャンプハウスに侵入するというイベントだった。スライムとかは登場しなかったからな。
「今回の作戦が認可されるに当たっては、上層部も襲撃を示唆する何らかの情報を掴んでいた筈です。あの三馬鹿は、上層部が想定していた犯人像に合致するんですか? それに、行きがけに捕獲した斥候は、今回の三馬鹿と何か接点があるんですか?」
そう言ってやると、護衛さんたちは改めて考え込んだ。
「……そう言われると、確かに妙だ。我々が事前に受けた説明では、襲撃犯はそれなりに経験を積んだ者たちが想定されていた」
「標的像も食い違うな。俺が受けた説明じゃ……その……特定の生徒さんが狙われるような事を言っていた。まぁ、これについちゃそっちの坊主から、敵が狙いを変更する可能性が指摘されたんだが……にしても、端っから無差別な攻撃を目論んでいるたぁ言われなかった」
「要するに……ネモ少年はあの三馬鹿は、飽くまで紛れ込んだイレギュラーであると考えているんだな?」
「真打ちはまだ姿を現してねぇってか?」
「少なくとも、その可能性を軽視するべきじゃないと思います」
そう言うとオーレス先生は、
「ふむ……この場はあの三馬鹿――この言い方は実にしっくりくるな――が吐いた情報を共有するのに使おうと思っていたのだが……その前に、想定される襲撃への対処を考えておいた方が良さそうだな」
そう言って――先生、何で俺の方を向くんですか?
「ネモから何か提案は?」
「……一介の生徒が関わるには重過ぎる案件であり、自分のごとき若輩者が、かかる重責に相応しいとは……」
「いいからとっとと吐いちまえ、坊主」
……何気に人使いが荒いな、この人たち。
「……最低でも、部屋割りの見直しと、家具などの配置変更はしておくべきでしょう」
「家具の配置変更?」
「刺客一味がキャンプハウスを襲うとして、ハウス内部の間取りを調べていないとは思えません。であれば――」
「……事前に配置を変更しておけば、その裏をかけるという事か……」
「机とか椅子をとっ散らかすだけでも充分と思いますけどね」
「悪くねぇな……坊主、お前、どこでこんな悪知恵を身に着けた?」
「身に着けるも何も……これくらい、少し考えれば判るでしょう?」
空っ惚けて躱したんだが、幸いそれ以上の追及はしないでくれた。……まぁ、それ以外に話し合う事が多かったせいもあるんだが。
・・・・・・・・
予想される襲撃への対策が一通り出揃ったところで、オーレス先生から三馬鹿の自供内容が説明された。それによると――
「あの連中、到着日の夜にスライムを放ったんですか」
「我々が疲れているであろう隙を衝こうとしたようだ」
「生意気に、一応考えてはいたようだな」
「しかし……そいつら、スライムの移動速度を舐めていたとしか思えん」
生物担当のダンウィード先生が呆れているが……
「そうなんですか?」
「あぁ……そう言えば、ネモはスライムを見たのは初めてだったか……。スライムは基本的にあまり移動しない生物なんだよ」
「まぁ……何となく解ります」
「そんなスライムを敵陣へ嗾けようとは……奇抜な発想だと恐れ入るしか無いね」
「……カメで突撃隊を作ろうとするようなもんですかね?」
「どちらかと言うと、カメの方がまだマシかもしれん」
『めんどくさーい』
俺の意識を通じて議論を聞いているヴィク本人からも駄目出しがでたか……やつらの計画って、最初の段階から破綻してたんじゃねぇのか?
ただまぁ、連中が白状した内容には、聞き捨てにできないものもあったわけだ。
「あのディオニクスも連中の仕業だったんですか」
「ヘマをしでかして逃げられたがな。もしも成功していれば、王都は大混乱に陥っただろう」
ゲームの「王都魔獣戦」のイベントだと……確か、一味は逃亡して潜伏って事になってた筈だ。……一応の辻褄は合ってるのか。
「どうも連中、他にも色々と仕込んでおったようだ。騒ぎになっておらんところをみると、悉く失敗したようだがな」
「今は頑として口を割らねぇが――何、遠からず訊き出してみせてやらぁ」