第二十七章 郊外キャンプ~三日目~ 2.目下の敵
……いや、何だか大層な剣幕でこっちへ向かって来るやつらがいるな――って事には気付いていたんだ。
……ただ……足の運びとか見た限りじゃ、どう見ても刺客には見えない……と言うか、運動と名の付くものには程遠い連中にしか見えなかったから、エルや騎士さんたちとも視線で合図を交わした上で、警戒しつつ静観してたんだが……
「――なぜだっっっっ!?」
「「「「「「……は?」」」」」」
青筋マークが浮かんでいそうな剣幕でいきなり喚き立てられたら、そりゃ俺たちだって面食らうわ。
事情が解らず揃って首を傾げていたところへ――
『あー ヴィクをつかまえてたひとー』
『……何?』
ヴィクを捕まえていた? ……って事はつまり……どういう事なんだ?
肩にいるヴィクと目の前のオッサンたちを交互に眺めていたら――
「わ……我々が手塩にかけて創り出した『インヴィクタ』を……貴様っ! 何をした!?」
「……は?」
俺に向けて突き出した指をプルプルさせて、真っ赤になって怒ってるんだが……おぃオッサン、軽々しく人を指さすなって習わなかったのか? ――てか……大丈夫か? 今にも頭の血管切れそうだぞ?
「なぜ怯えない!? なぜ慄かない!? なぜ狼狽えない!? 貴様らの力の及ばぬ存在を前にして!」
「自分たちの無力に気付いていないのか!? 脅威に気付いていないのか!?」
三者三様に喚き立てているんだが……
(「えーと……」)
(「とりあえず、ヴィク君を嗾け……ようとしたのが彼らだというのは確定したね」)
(「ですが……一体何を狙っての事でしょう?」)
(「……ビックリさせたかったみたいだが……」)
どうしたものかと困惑していると、お嬢のやつが――
「……そちらの貴方、エイブル家のご長男じゃございませんこと? 後のお二方は、ベーク家とチャーリング家ですわよね?」
エイブル、ベーカー、チャーリー……旅行会社のフォネティックコードだったか? いや……第二次大戦以前の米軍のコードだったっけか……
そんな事を考えていると……
「……エイブル家? たしか不行跡で取り潰された元・貴族だな?」
「ベーク家とチャーリング家という家名にも聞き憶えがあります。やはり無能と乱行で廃絶させられた貴族家であったと……」
ジュリアンとコンラートが解説してくれた。
「要するに三馬鹿の逆恨みか?」
はっきりそう言ってやると、三馬鹿は怒って掴みかかろうとした。
……信じられるか? 殴りかかるでも、斬り付けるでも、況してや魔法を撃つでもなく、単純に掴みかかろうとしたんだぜ? まぁ、すぐに騎士さんたちが取り押さえたが……
――こいつらが襲撃イベントの犯人じゃないってのは、少なくとも俺の中では確定した。
「くそっ! くそっ! くそっ! あと一歩のところで――!」
「神は我等を見捨て給うたのか!」
とことん履き違えた恨み言を喚いてるが……こいつら、出発点から間違ってるのに気付いてないのか?
「……教えてもらいたいんだが……何でスライムなんか使ったんだ?」
ちょいとばかり下手に出て訊いてやると、
「はんっ! これだから物を知らん下層民は困る!」
「そのスライムはただのスライムではない。魔力を吸収する特別なスライムなのだ!」
「素よりスライムに斬撃は効かぬ! そこへもってきて、魔法攻撃すら無効化してしまう魔獣なのだ、そのインヴィクタは!」
「貴様らを絶望の淵に突き落とすべく創り上げた芸術品を!」
「貴様らを破滅に導くべき災厄の使者を!」
「「「なぜ手懐けているのだ!?」」」
いや……そんな事で文句言われてもなぁ……
「そもそもの出発点が間違ってるだろうが」
「「「何だと!?」」」
……能くハモるな、こいつら。合唱団出身か?
「スライムってのは、捕食性じゃなくて雑食性じゃないのか? 少なくとも、こいつは攻撃するような素振りは見せなかったぞ? 掴まえてみても大人しいもんだったし……適当な餌と魔力を与えてやれば、お行儀良くしてるんじゃないのか?」
お前らだってそうやって飼ってたんだろうと言ってやると、三人とも言葉に詰まっていた。……自分たちがやっていた事を、何で他人がやらないと思うんだ?
「だ……だが、貴様ら魔術師なら、魔獣と見れば魔法で攻撃するだろうが!? 理不尽な攻撃を受ければ、そいつとて――」
「喜んでたぞ?」
「……何?」
「だからな? こいつ的には魔力を分けてもらったという感じらしくて、喜んで近寄って来たぞ? 別に攻撃態勢なんかとらずに」
そう言ってやると、三馬鹿はあんぐりと口を開けて……そのまま暫く絶句していた。性質とか向き不向きってもんを考えろよ。
タイトルの読み方は、「めしたの敵」でも「もっかの敵」でもお好みで。