第二十六章 郊外キャンプ~二日目~ 5.台所太平記(その2)
~Side ネモ~
「――うわっ!」
「……一気に剥げるものですのね」
あ? ……そう言や、こいつらの前で蛇を捌いて見せた事は無かったっけな。
「……頭を落とされ、皮を剥がれ、内臓を抜き取られても……それでもビチビチと動くものなんだね……蛇って……」
「……おぃネモ……【収納】って、生き物は仕舞い込めないんじゃなかったのか? なのに【収納】から取り出した蛇が動いているのはなぜなんだ?」
納得がいかないという顔付きのエルだが、俺にもその辺は判らんな。多分、個体としての生死と組織や細胞としての生死は別という事なんだろうが……そうすると、植物なんかの生死はどう判定するのかって気もするんだよな。ものによっては、挿し木とか組織培養とかできそうな気がするし。
ただまぁ、俺としては能く判らないなりに、こう答える事にしている。
「蛇ってのは生命力が強いからな。身体の末端まで死が行き届くのには、時間がかかるんだ」
「……そうか……」
――前にお嬢に説明した時もそうだったんだが……なぜかこれで大抵納得するのが不思議だよな。
「……私たちは大分慣れましたけれど……皆さん、一気に遠離っておしまいになりましたわね……」
「彼らを責める気にはなれないねぇ……」
・・・・・・・・
結局、俺たちは別室で作業しろという事で隔離された。先生方の言いつけで蛇肉を加工してるってのに、釈然としない気がするな。
「……まぁ……僕たちもそれについては同感だけど……さすがに他の生徒を怯えさせてまではねぇ……」
「ここは我々が度量を見せるべきだろう」
コンラートの言う事にも一理あるか。……少なくとも、そう思ってた方が気が楽だな。
「一人当たりの分量は、これでいいのですわよね?」
「あぁ。マーディン先生がちゃんと計算してくれた。この分量なら、一年生でも精が付き過ぎって事にはならんそうだ」
「……だが、携帯食料としては物足りなくないか?」
「まぁな。今回のこいつは食糧ってより、おやつみたいなものと考えておいた方が好いかもしれん。もしくは酒のつまみだな」
「なるほど」
「ネモ君、チップというのはこれでいいのかい?」
俺とエルが下拵えをしている間に、他の連中には燻煙用のチップを用意してもらっていた。使えそうな木がキャンプハウスの近くにあるのは確認済みだったからこそ、俺も燻製なんて案を出したわけだが、当初より大勢の分を作る事になったんで、枝とかを追加で集めてもらったんだ。生枝では火の着きが悪いので、先生方の魔法だか錬金術だかで乾かしてもらっている。こちとら一年全員の分を用意させられるんだから、それくらいの手助けはしてもらわなくちゃな。
「……思ったよりは煙が出ないんだね」
「専用の道具も無いし、一回に燻せる肉の量は限られてるんだ。無駄に燻してもしょうがないからな」
その代わり、何度もこれを繰り返さなきゃならん。……護衛の騎士さんたちの手も借りるか。俺たちだけでなんてやっとれんわ。
……おっと、そろそろ最初の分は頃合いかな。
「できたぞ。誰か試食してみるか?」
「では、私が」
……真っ先に名告りを上げたのがお嬢かよ。胆が据わってんな。
「ネモさんのお手並みは存じてますもの」
先陣切って試食を買って出たお嬢のGoサインが出たところで、他の連中も燻製を口にした。……そこまで警戒するようなもんじゃないだろうが。
「ふむ……これなら生徒たちに食べさせても問題無さそうだな」
「……オーレス先生……試食の時だけしれっと現れないで下さいよ……」
「責任者として一応は味も確かめておく必要があるからね。ネモ班は御苦労さま。レシピをくれたら、後は我々の方でやるから、上がってくれ」
「……いいんですか?」
「無論。全員分の携帯食を一班だけに調理させるような真似はせんよ」
おぉ……予想よりも早く終われそうだ。これは純粋にありがたいな。
「先生。指定の分量だと、かなりな肉が余るようですが?」
おっと……コンラートの言うとおりだった。確認しておいた方が良いな。
「問題無い。余った分は騎士団が受領する事で話が付いている」
……いつの間にそんな話になったのか……さすがに先生方は抜かりが無いもんだ。
筆者の別作品「ぼくたちのマヨヒガ」、本日21時に更新の予定です。宜しければこちらもご笑覧下さい。




