第二十六章 郊外キャンプ~二日目~ 3.奇食の報酬
~Side オーレス教授~
マーディン先生から忠告されてはいたが……ネモめ……まさか本当にあんなものを持ち出すとは……メデューサボアだと? Cランク相当の魔獣ではないか。間違っても初等部の生徒が単独で討伐するようなものではないと言うに……
……ネモのやつ……アレを「食材」と言い張るつもりか?
意見を聴こうと思って振り返ってみれば、ダンウィード先生もクロード先生も絶句しとる……無理もない話だが……これはいかん。このまま放って置くと、生徒たちにアレを使って昼食を作らせる流れになる。――断じて拙い。
総じて魔獣の肉は魔素を濃く含み、魔力量の成長や身体機能の発達・向上に効果がある。だが、それ相応に調理の難度も高い。況してや材料がメデューサボアともなると……
毒牙と毒腺のある頭部は既に切り取られているようだが……確かメデューサボアは……
「先生方、メデューサボアの血肉は、確か特別な処理が必要だったのでは?」
振り返って確認してみたところ、やはりそうだった。
「魔素が濃いですからな。慣れない者が捌くと、場合によっては魔素酔いを起こすかもしれません」
「余り大量に食べるのはお薦めできませんな。況して、彼らはまだ子供です」
「滋養強壮の効果自体は高いのですが……」
ふむ……昼食は手軽に作れるスープかシチューのようなものを考えておったのだが……
「それですと、全体的に魔素が濃過ぎる食事になりそうですな」
「体調を崩して、午後の実習に出られない生徒が増える事も……」
「……それ以前に、具にアレが入っていると思えば、食の進まない生徒が多いのでは……」
……うむ……当初の予定は完全に崩されたとみる他あるまい。一体どうすれば……
む? 生徒たちから質問が飛んでおるな?
「ネモ、その蛇とか、本当に食べられるのか?」
質問したのはBクラスのレオ・バルトランか。他の生徒たちも知りたいだろうて。
「大丈夫だ。自慢じゃないが、俺はこの歳までずっと蛇を食ってきたんだからな。お蔭でこんなに丈夫に育ったんだ」
そうネモが答えた途端に――生徒たちが騒めいたが……?
「あ……」
「……これは拙いかもしれません」
む? Aクラス担任のアーウィン先生が狼狽えておるが……?
「どうしたのかね? アーウィン先生」
「あぁ、オーレス先生……いえ、うちのクラスの連中は、ネモが色々と規格外なのを知っているわけです。その原因が蛇の肉だという事になると……」
……あ……
「【生活魔法】の件は措くとしても、Aクラス以外にもネモの武勇伝は知れ渡っていますからな」
「ネモに肖ろうとして、蛇肉に執着する生徒が出る事も……」
「食べない生徒との差が大きくなりそうですな」
……いかん。これは益々好くない状況になってきた。
「……要は、生徒たちが平等に、かつ、多過ぎない程度に、蛇の肉を食べれば宜しいのでは? ……全く食べないという選択肢も与えてやった上で」
「うむ? それはそうだが……何か案があるのかね? バイロン」
うちの上級警備員のバイロンか。……そう言えば先日の作戦会議でも、中々有用な意見を出していたな。――ちなみに、生徒たちに食べさせないという選択肢は無しだ。見逃すには惜しい効果だからな、あの肉は。
「はい。本日の調理実習、後半は携帯食料の作製だと伺いました。携帯食料なら――」
「あ……」
「全員に均等な量を配れる。しかも、その分量もこちらで決められるか……」
「どうしても食べたくない者は、家に持ち帰るという選択肢もあるな……」
ふむ。確かにこれは名案だ。……いや、他に解決策は考えられん。
「ただ……ネモが持ち込んだのはメデューサボアだけではありません。他の蛇も含めれば、全員に分けても余りそうですな」
「マーディン先生、他の蛇の薬効は?」
「ちゃんと処理した後の肉だけ見れば、似たようなものですな。違いが出るのは内臓や毒の部分ですから」
「余るってんなら、ウチの隊に分けちゃあもらえませんかね?」
話に入って来たのはバンクロフツ隊長だった。
「……特務騎士団にかね?」
「ウチは職務柄、飯は携帯食って事が多いんでね。滋養強壮の効果が高いってんなら、打って付けなんで」
「……そう言われると、我々としても看過はできないな。もし余るようなら、親衛騎士団の方にも融通して戴けるとありがたい」
ふむ……マクルーア隊長まで話に乗ってきたか。どうやら携帯食料に加工した蛇肉の処分先は決まったようだな。