幕 間 一日目の夜
~No-Side~
ネモが――従魔となったヴィク共々――教師たちに引っ張られて行った後、ネモ班の班員たちはジュリアンの部屋に集まって相談していた。お題は本日の出来事である。
「……曲者の事も気にはなるけど……そっちは僕たちじゃどうにもできないからね。考えても仕方がないわけだ。それより気になるのは……」
「ネモさん……ですわよね?」
口火を切ったジュリアンに応じたのはドルシラ嬢。そして、
「スライムを拾った途端、いきなり【従魔術】が生えたとか……怪しいと言えば怪しいんだけど……」
「それはコンラートが説明したんじゃなかったか? 魔力を与えてもらったのが切っ掛けとなって、スライム……ヴィク君はネモ君に好感を持ったんだろう?」
「いえ……殿下、まさにその点がおかしいのですわ」
「だが……ネモがおかしいのはいつもの事だろう……でしょう?」
「ネモさんに関してはエルメインさんのおっしゃるとおりですけど、いつもならそのおかしさは掴みどころが無かった筈。ですが、今回は明らかに不自然な点がございますわ」
「……魔力量だね?」
「はい」
あの時――ネモはヴィクに対して、中級魔法数発分に相当するような魔力を与えていた。普通の魔術師なら、魔力の消耗が酷くて卒倒しているレベルである。なのに……ネモは平気な顔をしていた……
「アスラン様はネモさんを【鑑定】なさいましたわよね? ネモさんの魔力量は、どれほどでございましたの?」
「……【鑑定】持ちの矜持として、個人情報を勝手に漏らすような真似はできないな。ただ……多い事は多いけど、そこまで異常なほどではない――とだけ言っておくよ」
アスランが口に出さなかった内容を要約すると、【鑑定】の結果と実情が食い違っている――という一語に尽きる。こういう場合、真っ先に疑われるのは鑑定結果であるが……
「いや……僕の【鑑定】だけならまだしも、学園の鑑定水晶まで欺けるとは思えないんだけど?」
やんわりとしたアスランの反論に、居並ぶ面々も困惑を隠せない。
「……確かに、学園には王族を始め貴顕の入学や訪問も多いですから、万一の事が無いよう、鑑定水晶は王国でも一二を争うものが配備されている筈です」
「ネモさんも入学時に【鑑定】を受けた筈ですわよね」
「その後で魔力量が増えたんじゃないのか?」
「でしたら、アスラン様の【鑑定】に示されないのは変でしょう?」
「それもそうか……」
「どのみち【従魔術】の事もあるし、学園へ戻ったら再鑑定という事になる筈だ。その時に判明するだろうが……」
違和感が拭えないのは、どうにも収まりが悪い。
「……一つ、考えられる仮説があるんだけどね」
「アスラン様?」
「ネモ君は鑑定に現れてこない能力……多分だけど、魔力の回復速度が並外れて高いんじゃないか?」
「あ……」
「確かにそれなら……」
確かに、消費した傍から魔力が回復しているというのなら……あの馬鹿げた魔力放出量も納得できる。【鑑定】では魔力の回復速度までは表示されないため、これは盲点となっていた。
「確認のしようは無いけど……これも報告しておいた方が良いかな? ……ネモ君の承諾を得た上でだけど」
ジュリアン王子の提案は、満場一致で採択されたのであった。
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~Side ???~
「……偵察に赴いた二人からの連絡は……」
「無い」
「敵の手に落ちたと判断するしか無いようだな……」
――闇の中で数名の男たちの声がする。
「……どうする?」
「愚問だな。我々には最早、残された道は無いだろう」
「……だな。予定どおり仕掛けるしかない。毒使いの二人を失ったのは痛いが……」
「そこは肚を括るしか無いだろう。逃げ延びる事を考えなければ――成功の見込みは小さくはない」
「刺し違えるか……それも一興」
「とにかく……その方針で動くとしよう」
――やがて、男たちの声が途絶えた。