第二十五章 郊外キャンプ~初日~ 10.作戦会議の夜(その3)
~Side オーレス教授~
「新たな情報が出てくるまでは、この件はこれまでとしたい。どう考えても、このスライムが襲撃の尖兵とは思えんからな」
……カサヴェテス先生から機嫌良く魔力を分けてもらっている様子をみる限り、とても危険だとは思えんからなぁ……お、ネモに呼ばれて戻って行く。……カサヴェテス先生、残念そうだな……
「では……スライムとは別に、本命が我々を襲撃するとして――どこを狙って来ると思う? ネモ」
「……そういうのは本職の方々が判断する事じゃないんですか? 俺のような学生じゃなくて」
「その本職そこのけの分析を、マーディン先生の前でやってみせたのはネモだろう。今頃になって人畜無害そうな表情を取り繕っても無駄だ。キリキリ意見を吐きたまえ」
傷付いた少年のような表情を浮かべているつもりかもしれんが……不気味なまでに似合っとらんぞ。
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~Side ネモ~
何とか逃げようと奮闘したんだが、結局は面倒な立場を押し付けられた。オーレス先生、伊達に長年教官をやってるわけじゃないな。
しかし……刺客一味が襲って来る場所って言われてもなぁ……
本当のところを言えば、襲って来る場所の見当は付いている。ゲームと同じ流れだとすると、最終日の夜にキャンプハウスを襲う筈だ。けど、馬鹿正直にそんな話を持ち出すわけにもいかん。正気を疑われるのがオチだ。
となると……何か尤もらしい説明をでっち上げなきゃいかんのだが……ゲームのテキストではどうなっていたかな……?
「……大きく分けて――昼の実習中に襲って来るか、夜にキャンプハウスを襲って来るか、この二つに分けられると思います」
……仕方ねぇ。それっぽい事を喋っている間に、考えを纏めよう。
「まず昼の場合ですが……草原で採集している時は、見通しが良くて奇襲は難しいと考えられます。林の中では見通しは悪くなりますが、それは向こうにとっても同じ事。攻守ところを変えて、逆に待ち伏せされる危険性も考えているでしょう」
「ふむ……生徒たちも勘定に入れれば、人数だけならこっちの方が上だ。子供でも見張りぐらいはできるだろうしな。……そう考えると……やつらとしても二の足を踏みたくなるか……」
「放った斥候が戻らない事で、彼らも襲撃計画が漏れたと気付いた筈。その一方で、斥候を失った事による情報の不如意もあるでしょう。この状況を、果たして彼らはどう評価するか」
「……まともな指揮官なら撤退を選ぶ。ただ……」
「今回を逃すと、次の機会がいつやって来るか……ってのが問題だな」
――そう。標的がアスランにせよジュリアンにせよ、それとも大穴でレオにせよ、警備万全な学園を出る事はそれほど多くない。況して今回のように、襲撃にお誂え向きの場所にやって来るなんて機会は……
「千載一遇の好機……そう判断するだろうな」
「あちらさんとしても、引くに引けねぇ状況ってわけだ」
「ネモだったな。それで?」
「坊主はどう判断してんだ?」
……だから……その考えを今纏めてる最中なんだよ……
「事この段階に至っては、彼らも完璧な奇襲など、考えてはいないでしょう。ならば強襲の中に、どれだけ奇襲要素を盛り込めるか。言い換えると、彼らが主導権を握れるのはどの部分か」
「……襲撃のタイミングか」
「昼間の草原では、気付かれずに接近する事自体が難しい。昼間の森林では、いつ林内に入るかの主導権はこちらにある。とすると……」
「夜襲……か……」
「そういう事になるのではないかと」
――よしっ! どうにかそれっぽい説明を付けたぞ!
先生方と護衛さんたちは額を集めて相談してるが、ここから後は生徒の出る幕じゃない。一歩引いて見物させてもらうぜ。
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「――ネモ」
「はい?」
結論が出たみたいだな。
「君の見解を尊重した上で、なお念のために一つ頼まれてくれ」
「……内容によりますね」
「そう構えてもらわなくても結構だ。大した事じゃない――明日以降の野外実習では、レオ・バルトランの班と一緒に行動してほしい」
「……Bクラスのバルトランですか?」
「そうだ。武闘会の件では連んでいたから、互いに気心は知れている筈だ。夜襲を最大限に警戒するとしても、昼間の襲撃の危険性が皆無なわけではない」
「……狙われそうなウチの班と一緒にする事で、護衛の効率を上げようと?」
「そういう事だ。念のために、護衛を専門とする親衛騎士団が警護に就く。特務騎士団は周辺の捜索と監視に廻ってもらう」
さぁて……これはどうしたもんかね。……俺としちゃあ、一緒に動く主役組が増えるなんざ、面倒以外の何物でも無いんだが……
「……解りました。ただ、一応班員と相談してからお答えさせて下さい」
――この辺りが落としどころだろうな。