第二十五章 郊外キャンプ~初日~ 9.作戦会議の夜(その2)
~Side オーレス教授~
強かな冒険者そこのけの異端児の発言に、王都から来た騎士団の二人は目を白黒させていたが……もう顔見せも充分だろう。そろそろ本題に入る頃合いだ。
「そろそろ本題に入りたいんだが」
「あぁ、そうでした……」
「司会をお願いします」
さて、まずは……そうだな。ここへ来る途中にネモが仕留めた曲者の事を話しておかねばなるまい。
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「……死んだ? 二人ともですか?」
「王都への護送中にな。先に言っておくが、賊徒どもの手の者が口封じに――というのとも少し違う。覚悟の上の自決のようだな」
「……奥歯に毒を仕込んでいたとか?」
――奥歯に毒? ネモは何を言ってるんだ?
「何の事を言っているのか解らんが……毒ではなく呪いの一種らしい。一定時間内に解呪しないと、命を奪うというものだったようだ。にも拘わらず、二人とも粛々として死んでいったようだから、これは覚悟の上という事だろう」
そう言うと、さすがにネモもショックを受けたようだ。
「賊どもが誰を、或いは何を狙っているのかは判らんが……そこまでの覚悟を抱いている以上、我々も甘い期待は捨ててかかるべきだろう」
「刺客による襲撃はある――そう考えて備えるべきだとおっしゃるんですな」
「そういう事だ。ネモの言うように、刺客どもが殿下たちだけでなく、一般生徒を巻き込む可能性についても考慮せねばなるまい」
「しかし……生徒全員を護るには、人員が足りませんが」
「今から王都へ伝令を送っても、間に合うかどうかは微妙なところですな」
「そもそも、上層部は増援を寄越さないんじゃ?」
ネモは疑いの声を上げるが、そのネモに対して――
「一刻を争う時に、愚物に対して一々具申などはせんものだ」
「こっちに来てる部下どもがヘマして腹を壊したんで、慌てて交代を送ってもらうだけさ。外聞も悪いし、一々お偉方にお伺いを立てるまでも無ぇだろう」
――護衛隊の指揮官はどちらも有能と見える。ネモも感服しているようだ。
「こういう状況だから、賊どもに関する情報は、この際何でも知っておきたい。そこでネモ、君がスライムから訊き出したという例の話をしてもらいたい」
「はぁ……構いませんが……」
改めて全員の視線が、ネモの肩にいるスライムに集まったな。特に騎士団の隊長二人は、初めて耳にする情報だろう。
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「……つまり何か? そのスライムは……どこでどうやって生まれたのかは判らんが……賊どもに飼われてたってのか?」
「いや……そこがどうも微妙なんで、俺としても皆さんに報告したものかどうか判らずに、オーレス先生にだけ相談したんですが……」
ネモも困っているようだな。確かに微妙な情報だし、今は事情が事情でもある。
「所詮は学生の攻撃だとしても、物理攻撃も魔法攻撃も通じないのは確かです。俺たち全員が見たわけですからね。なので潜在的には脅威なのかもしれませんが……結局はスライムですからねぇ……」
そう言うと、ネモは肩にいるスライムを抱え上げた。スライムは温和しく為すがままになっている。そのままダンウィード先生に手渡したが……先生も戸惑ったようだが、そのままスライムを受け取った。……スライムは相変わらず温和しいものだ。
「……なるほど……お行儀良くしてるもんだな」
「これなら……適当な餌と魔力でも与えてやれば……飼育するのも、どこかへ運んで行って放すのも――問題無くやれそうな気がするな、確かに」
「でしょう? だから、こいつを飼ってたってやつらが、何を考えてたのか判らないんですよ」
「確かに……刺客としては妙な行動だ」
「そもそも、そいつらが刺客の一味なのか――って話になんな」
「それを狙っての事ではないでしょうか?」
――学園の警備責任者のバイロンか。……それというのは?
「……こっちの判断を攪乱するのが狙いだと?」
「現に我々は、敵の動きを看破しかねているわけですから」
「……失ってもたかがスライム一匹。こっちの足並みが乱れてくれりゃあ御の字――ってわけか」
「あり得ない話じゃないな。そうすると……その三人というのも刺客の一味か」
なるほど――と納得しかけたところで、ネモが遠慮がちに割って入った。
「ただ……スライムの言うには、その三人は固定した面子で、他の者が来る事は無かったみたいなんですよ」
「……だから何だってんだ?」
「その三人は、深い事情も知らされずに踊らされた……謂わば囮の可能性もあるかと」
むぅ……その可能性も無視できんか。
「つまり……このスライムに気を取られていると……」
「真打ちは別にお控え遊ばしてる――ってわけかい」
……頃合いか。