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第二十五章 郊外キャンプ~初日~ 8.作戦会議の夜(その1)

 ~Side ネモ~


 怒濤の調理実習――どうにか実食まで()()けた――を終え、夜の講義も終了した後になって、俺は先生方に呼び出しを喰らった。


 自炊の時の騒ぎは俺のせいじゃないし、ヴィクの事か【従魔術】の事かと(いぶか)しみながら来てみると……


「……警備の作戦会議って、一生徒が参加するようなもんじゃないと思うんですが……」

「まぁ、とりあえず細かい事は()くとして――事情が事情だけに、ネモの意見を聴きたい」

「はぁ……」


 いや、意見って言われても……


「出発前にマーディン先生の(もと)を訪れて、色々と有益な具申を行なったそうじゃないか。その勢いで、警備に関しても知恵を貸してくれ」


 ニヤニヤと俺の方を見て言うのは、博物学のオーレス先生だ。フィールドワークにも詳しいベテランという事で、今回のキャンプでも引率の責任者を任されている。ちなみに今回のキャンプには、各クラスの担任の他に、生物学のダンウィード先生、本草学のクロード先生、薬学のマーディン先生、魔法実技のカサヴェテス先生といったお歴々が講師として参加している。

 クラス担任の先生方は、生徒たちの面倒を見ていてこの場にはいない。その代わり、警備の責任者っぽい方々が参加していて、不審げな目で俺の方を見ていらっしゃる。ぶっちゃけ、居心地悪い事この上無いんだが……


「あぁ、紹介しておこう。こちらの端から、本学園の上級警備員にして今回のキャンプでは学園側の警備責任者を務めるマークス・バイロン、特務騎士団から来られたバンクロフツ隊長、親衛騎士団からお見えのマクルーア隊長だ。……お三方、これが先程から話しているネモです。学園始まって以来の異端児にして、期待の新人ですよ」


 ……先生……新手のイジメですか、それ? 三人とも、不審者を見る視線に拍車がかかってますから。


「最初に、このような会議が持たれるに至った経緯(いきさつ)を明かしておこう」


 そう言ってオーレス先生が教えてくれたのは、俺が密かに懸念していたような裏事情だった。


「やっぱり上層部は、反政府メンバーの一網打尽を夢見てるんですか」

「夢見……」

「……まぁ、概ねその理解で間違い無い。奸賊(かんぞく)どもを(おび)き出すために、大人数での警備案は却下された」

「大方、実務を知らない机上の秀才が計画を立てたんでしょう。目立たずに護衛を遂行するためには、複数のチームがリレー方式で交替しつつ、切れ目の無い警備を行なうのが基本です。必要となる人数は(むし)ろ多くなるのに、単純な頭で単純に考えて、参加人数を絞ったんですかね。それとも……」

「……それとも?」

「短絡したふりをして……護衛が失敗するように、(わざ)と警備に穴を生ぜしめたとか?」


 立案者が反政府メンバーの一人である可能性を指摘すると、護衛さんたちだけでなく先生方までギョッとしたみたいだ。……これくらい、最初に考えるもんじゃないのか?


「……いや……考え過ぎだろう。立案者は自分も知っているが、近視眼的な小役人だ」

「自分の『才能』を鼻にかけた、な」

「縮小案が通ったのは、一つには財務が人件費の増大を渋ったという事もある」

「結論を言うと、あいつらは単に(さか)しらぶってる無能なだけだ。国家転覆を企むような才覚は持っちゃいねぇよ」

「バンクロフツ君……その見解に異を(さしはさ)むものではないが……もう少し言い方を考えてはどうかね」

「でも、同意見なんだろ?」

「執行部の無能は罪じゃないんですか?」


 俺がそうコメントしてやったら――


「ネモ君とやら……」

「坊主も結構言うんだな……」

「こっちは命が懸かってるんです。言い方は悪いですけど、騎士さん数名の日給分で命を粗末に扱われるんじゃ、好い顔はできませんよ」


 言うべき事を言ってやると隊長さんたちは渋い顔で黙ったが……しかし、そういう事だと……


「面倒な話になるのを承知の上で、敢えて訊きます。この状況で護衛が成功すると、立案した秀才馬鹿は、自分が正しかったと誤解して増長するんじゃないですか? そうすると、今後も引き続いて馬鹿な計画を垂れ流すんじゃ?」


 そう訊いてみると、王都から来たという隊長さん二人はギョッとしたようだったが……ほんの少しだけ考え込んだ後でこう言った。


「それはそれ、これはこれだ。自分たちに(とばっち)りが来ようとも、殿下たちを危険な目に遭わせるわけにはいかない」

「坊主、俺たちゃこれでも本職(プロ)なんだよ」


 おぉ……格好良いな……。だったら、俺も学生としてできる事をしておこう。

 ……同級生(でんかたち)に、面白(おもしろ)可笑(おか)しい裏事情ってやつを、子供らしく、ついうっかりと、喋ったりしてな♪


「……坊主……お前、本当に魔導(・・)学園の一年生か?」

「……うちの隊にいる叩き上げの下士官がそんな感じだが……」

「異端児にして期待の新人だという理由が解っただろう?」


 悪かったな。こちとら二百年前に高校生を――途中までとは言え――やってたんだ。()ねたり()ねたり(ひが)んだりも、それなりに経験済みなんだよ。

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