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第二十五章 郊外キャンプ~初日~ 7.プロメテウスの嘆き 或いは 点火のご意見番(その2)

 ~Side ネモ~


 問1:()(くち)()き付けを用意した班は?

 答1:Bクラスで2班、Aクラスはゼロ(ネモ班を除く)


 問2:火打ち石など、魔力を使わない着火道具を用意した班は?

 答2:Bクラスで1班、Aクラスはゼロ(ネモ班を除く)


 A・Bクラスで両方の問題をクリアしたのは、俺たちを除くとアグネスのいる班だけ。……俺が頭を抱えたのも解るよな?


 庶民出身者の多いCクラスとDクラスは大丈夫のようだが、上流階級の出身が大半を占めるA・Bクラスはこの有様だ。


 こいつら……【着火(イグニッション)】で、力任せに火を着けようとしていやがった。



・・・・・・・・



「……だからな……薪に火を着けるにしても、最初は火花程度で充分なんだよ。こう……乾いた()(くち)に火を起こして……それから、燃え易いように細かくした()き付けに火を移してやって……その後で薪に火を着けるんだ」


 エルを助手にして着火の実演をやって見せたんだが……こいつら、火を起こす現場を見た事が無いのがほとんどだった。【着火(イグニッション)】を使えるやつも、実際に何かを燃やした事は無かったらしい。火を(おこ)すのは使用人のする事だ――とかでな。

 (もっと)も、国を抜け出す時に苦労しただけあって、アスランはちゃんと心得ていたようだが。……エルの教育が行き届いているな。

 しかし――プロメテウスから火を貰った民の後裔(こうえい)がこのザマじゃ、泉下のプロメテウスも浮かばれんぞ。見ろ、周りの護衛さんたちも苦笑してるじゃねぇか。


「なるほど……いきなり薪に火を着けようとしたのが(まず)かったのか」

「焚き付けはともかく、()(くち)というのは用意してこなかったぞ?」

「ネモ、その()(くち)というものは、どこで売ってるんだ?」


 ……もう()だ、こいつら……


「……こんなもん態々(わざわざ)買ってどうすんだ。各自ポケットの中を探ってみろ。糸屑とか綿(わた)(ぼこり)とかがあったら、それを使え。()~く乾燥したやつじゃないと使えんから、そこは注意しろよ?」


 他にも、所謂(いわゆる)(がま)の穂綿〟や()(ばな)(ほぐ)したものとか、パンヤなど一部の種子に付いている綿毛とか、乾燥した(きのこ)とかも使えるけどな。すぐに手に入るものと言えば繊維の屑だろう。そう言ってやると、全員慌ててポケットをひっくり返していたが……


「――駄目だ! 手入れが行き届いている!」

「出来の良い使用人はこれだから……」


 ……酷い言い掛かりだ。


「――待て! 縄を(ほぐ)して使えばいいんじゃないのか?」

「名案だ! 急げ!」

「確か……乾燥した木の皮が使えるとも聞いたぞ!」


 一部の生徒が林へ向けて走り出そうとしたが、さすがに教師陣に止められていた。


「……小屋の隅に(ほこり)とか溜まってないか!?」

「急げ!」


 ……まぁ、俺の【着火(イグニッション)】なら()(くち)()き付けも要らんのだが。そんな事を考えながら右往左往しているやつらを見ていたら、ジュリアンのやつが近寄って来て、


「ネモ君の【生活魔法】については、Aクラス以外の生徒には秘匿するよう言われてるからね。不用意に使ったら駄目だよ?」


 ――そう忠告してくれた。……危なかった。普通に使おうとしてたわ、俺。



・・・・・・・・



 ……実は、火魔法使いと【着火(イグニッション)】の相性は特に良くないらしい。聞けば魔力の使い方が異なるので、混乱して上手く使えない者が多いそうだ。

 火魔法というのは大雑把に言うと、魔力を熱エネルギーの形で発動し、加熱の結果として燃焼という現象を引き起こすものだ。ところが【着火(イグニッション)】は、対象物をいきなり燃焼させる。魔力によって生み出されているのは火でも熱でもなく、燃焼という作用――多分酸化反応――そのものだ。魔力はそれを触媒よろしく加速しているだけ。熱は燃焼の結果として発生する。火魔法とは原因と結果が逆で、どっちかというと闇魔法の【腐蝕】に近いかもな。……多分だが、ここらの違いを感じ取れない者が多いんじゃねぇのか。差し詰めレオなんざその筆頭だろう。


「それで……【生活魔法】持ちがいなかった班だが……」


 そのレオたちだが……俺の目の前に神妙な顔をして並んでいやがる。先生方からじっくりたっぷりこってりと絞られたらしい。ついでにそのまま指導に移ってくれりゃいいものを……何で俺に押し付けてるんですか? 先生方。


「まずバルトラン、ファイアーボールってのは、火の玉を〝飛ばして〟攻撃する魔法だ。目の前の薪に火を着けるのに、〝飛ばす〟必要がどこにある?」

「いや……つい、習慣で……」

「あとな、何でもかんでも魔法に頼ろうとするな。【生活魔法】ぐらいならともかく、魔力の消費を抑えねばならん状況ってのもあるんだぞ?」

「……イズメイル先生にも、そう言われた事はあるんだが……」

「コレがそういう状況を想定したものだと……少なくとも、そういう状況への対処を学ぶ機会だとは、思い至らなかったわけだな?」

「………………」


 まぁ……ゲームでもこいつは脳筋タイプだったからなぁ……


「はぁ……説教は後でたんとしてもらえ。とりあえず、ファイアーボールに頼らず火を着ける方法を教えてやる」


 メタルマッチやファイアースターターは無論、レンズで太陽光を集めて発火させる方法なんかも、()(かつ)に口走るわけにはいかん。木と木を擦り合わせて摩擦熱で発火させる、所謂(いわゆる)火鑽(ひき)り棒や火耕(ファイアー・プラウ)法も、素人の子供(ガキ)にゃハードルが高過ぎるだろう。

 現実的なのは火打ち石だ。雑貨屋でも普通に売ってるし、俺も常日頃から携帯はしている。……まぁ、【着火(イグニッション)】が便利過ぎて、使う機会はほぼ無かったんだがな。


「……こんな便利な道具があるのか……」


 レオのやつは随分と感動していたが……確かに【着火(イグニッション)】が使えないやつには便利だろうな。実際、そういう事情で売れてるんだし。……魔導学園の生徒なら、頑張って【生活魔法】を習得するのが正しいのかもしれんが……今現在の難局を打開するのには間に合わんわけだしな。


()(くち)()き付けの使い方は、さっき教えたとおりだ。火打ち石は貸してやるから、あとは自分たちでやってみろ」

「助かる!」


 ……肝心の料理に取りかかる前にこの騒ぎかよ。今からこんな調子で、ちゃんと昼飯にありつけるのか?

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