第二十五章 郊外キャンプ~初日~ 5.【従魔術】騒動(その2)
~Side ネモ~
……そう言や、ゲームでもアスランは【鑑定】持ちって設定だったな。ひょっとして、食材探しの時にも使ってたのか?
「【鑑定】してくれるってのか? そりゃ助かるが……スキル構成をバラしてよかったのか?」
「別に隠してるわけでもないしね。……じゃあ、【鑑定】してもいいかい?」
「あぁ、宜しく頼む」
ステータス値も偽装済みだし、ボロが出るような事も無いだろう。
「……ステータスが凄いね……あぁ、確かにあるよ【従魔術】……」
「やっぱり生えてたか。ありがとう、感謝する……って、どうした? リンドローム」
何か微妙な表情を浮かべてるんだが……
「あぁ……いや……称号がね……」
称号? ……あぁ……アレかぁ……
機密扱いの称号の方じゃなくって、こないだ生えた方の事だよな?
え~っと……ここで俺が称号の事を知っているのは不自然なのか?
……いや……アレが生えたのは、里帰りの時に大水蛇を纏めて狩った――と言うか、弟妹たちに狩らせた――後からだし……帰省中に水晶玉で確認したと言い立てれば大丈夫か?
「――ネモに称号?」
「やっぱり『視線の悪魔』とかですの?」
「おぃコラお嬢、妙な称号を勝手に付けるな」
「……ネモ君は、この称号の事を……?」
「あぁ。帰省中にな。だから気にするな」
「そうなんだ……」
「……ネモ、詮索好きの誹りを受けそうだが、敢えて訊く。……不名誉な称号とかじゃないよな?」
「闇堕ち称号とかじゃないから、心配するな、マヴェル。……名誉か不名誉かと訊かれると微妙だが……」
「やっぱり『バジリスクの申し子』とか、そういう……」
「違うっつってんだろ! はぁ……すまんがリンドローム、説明してやってくれ」
「い……いいのかい?」
「あぁ。俺が何を言っても、信じてもらえそうにないからな」
「さすがにそこまでの事は無いと……あぁ、解ったよ。それじゃあ僕の方から……ネモ君の称号は『蛇狩り職人』だよ」
「「「「――あぁ!」」」」
「納得したか」
……ったく……何でこんな個人情報を晒さにゃならんのだ。
・・・・・・・・
「ネモ君の称号の事は措いといて……【従魔術】のスキルって、こんなに唐突に生えてくるものなのか?」
ジュリアンが疑義を呈してくるが、それは俺としても訊きたいところだ。
「……どうでしょうか。ただ、仄聞するところによると――従魔術を持っていなくても、動物や魔獣の方が気に入れば従魔となる事もあるようです」
「「「「「――へぇ」」」」」
これは俺も知らなかったな。さすが生き字引だ。
「逆に、それが切っ掛けとなって、後から従魔術のスキルが生える事もあると聞きます。ネモはまさにこのケースではないかと」
……そんな事もあるのか……奥が深いな、【従魔術】。
「ネモ君が気に入られたというのは……」
「あれでしょうね、魔力を椀飯振る舞いした……」
「スライム相手に、軽く中級魔法数発分の魔力を与えていましたものね」
「下っ端魔術師なら、軽くひっくり返ってるだろうね……」
「……そこまで大袈裟な事だったか?」
「……ネモ君、そろそろ自分の非常識さ加減を自覚した方が良いよ?」
「ネモさんの出鱈目ぶりも、一段と堂に入ってきましたわよね」
……俺、ディスられてんのか? だったら、中級魔法数発分の魔力とやらを、しれっと吸収したヴィクのやつだって凄いだろうが。
「まぁともかく、これで正式にそのスライム……ヴィク君だっけ? ネモ君の従魔になったわけだから、ちゃんと報告しておくべきだろうね」
「あ……そう言やぁ、冒険者ギルドにも報告しとかなきゃ拙いよな」
「あぁ、ネモは冒険者ギルドで働いてるんだったな」
「それに、他の生徒たちにも周知させておくべきだね」
「そうだな……では改めて、従魔のヴィクだ。今後とも宜しくな」
『よろしくー』
「えぇ、宜しくお願いしますわね』
……うん? 今のお嬢の話し方……何かおかしくなかったか?
「お嬢……まさかと思うが……」
「えぇ。アスラン様の向こうを張るつもりはありませんけど、私も告知させて戴きますわね。実は私、【従魔術】の素養がありますの」
――おぃマジか!? そんな設定、ゲームにゃ出てこなかったぞ!?
「従魔と契約してはいませんけれど、飼っている小鳥と意思を通じるくらいの事ならできるのですわ」
……可哀想に……お嬢……ボッチで話す相手がいないからって、小鳥なんかと……
「……ネモさん? 何かおかしな事を考えてらっしゃいませんこと?」
大丈夫……大丈夫だぞ、お嬢。きっと孰れ多分恐らくいつの日か、お嬢にも心を割って話せる相手が……
「……ネモさん?」