第二十五章 郊外キャンプ~初日~ 4.【従魔術】騒動(その1)
~Side ネモ~
昼飯の材料を探していると、誂えたように蛇のやつが出て来た。ギルドから確保を頼まれた種類じゃなかったので、手早く狩って料理の下拵えに移る。何しろ肉も皮も毒も捨てるところがほぼ無いという、夢のような獲物だからな。俺としちゃ見過ごすわけにはいかん。頭とか骨とか一部の内臓とか、食えない部分はスライムに与えると、喜んで食っていた。手間要らずで助かる。
とりあえず、これで昼飯の具材は確保した。
――そう言ってやったら……コンラート・ジュリアン・アスランの三人が、血眼になって食材を探し始めた。エルは平気な様子だったし、お嬢も――意外にも――覚悟を決めてたみたいだが……貴族家の男子三人は覚悟が決まらなかったみたいだな。……見かけよりずっと美味いんだが……
ま、結局はあいつらが見つけた野草と干し肉でスープを作る事にしたけどな。
〝自炊の実習という以上、自分たちで確保できない蛇の調理法など、身に着けたところで役に立たない。それよりは干し肉の調理法の方がありがたい〟
――コンラートにそう正論で来られると、俺としても反論はしづらかったからな。【収納】に仕舞っておけば悪くはならんし、そのうち食わせる機会もあるだろう。
下拵えした食材――蛇じゃない分――の残りをスライムに食わせていると――
「……ネモ君はそのスライムを飼うつもりなのかい?」
アスランがそう訊いてきた。
「まぁ、ここまで懐いてくれてるんだからな。今更放り出す気にはなれん」
「……確かにな。肩に乗るスライムなんて、私は初めて見たぞ」
「名前はなんて付けたんですの?」
「……名前?」
お嬢がそう訊いてきたんだが……そうか……ペットと言えば名前だよな。
それはそうなんだが……
「……スライムの名前って、何て付けりゃいいんだ?」
こういう経験は初めてだからなぁ……犬とか猫とか小鳥とかなら、前世でも聞いた事があるんだが。
「いや……急に言われても……」
「スライムの名前なんて――考えた事も無かったよ……」
「こういうのは、やはりネモさんがお付けになるべきでしょう?」
「名付けるのに吝かじゃないが、どんな名前が良いのかが判らん。コロとかムクとかシロとかピーちゃんとかじゃ……おかしくないか?」
「……確かにおかしいな。俺にも解る」
「チビ……というほど小さくはないし……」
「……こういうのは、その個体の特徴から付けるんじゃないかい?」
「……プルプルしてるからプル――とか?」
「それだったら、ポヨポヨしてるからポヨっていうのもありでは……?」
「僕たちの全力の攻撃を退けた強者にかい?」
疑わしげなアスランの台詞に、他の連中まで考え込んだ。……確かにアスランの言うとおり、あまりファンシーな名前だと、こいつの実態に即していないかもな。
そんな事を考えていると……
『マスター なまえ つけてくれるのー?』
……〝マスター〟って、俺の事か?
『俺が付けちまって構わんのか?』
『うん つけてー』
こいつの名前ねぇ……そう言えば、こいつって「打倒されざる者」って呼ばれてたんだよな。ピッタリと言えばピッタリなんだが……そのままだと少しゴツいんだよなぁ……
『……ヴィクっていうのはどうだ?』
『ヴィクー?』
「うん? 何か言ったかい?」
「あぁ……いや、ヴィクっていうのはどうかと思ってな。インヴィクタってのをもじってみたんだが……」
「インヴィクタ……〝打倒されざる者〟か……」
「ピッタリと言えばピッタリですわね」
『うん いいよー』
会話と念話がごっちゃになって少し混乱していたんだが……スライム改めヴィクから同意の声が届いたタイミングで……
「……どうした? ネモ」
「あぁ……いや……何か……何と言うのか……スキルが生えたような感覚が……」
〝感覚〟どころか、はっきりと【従魔術】ってスキルが表示されている――ポップアップしたステータス画面にな。
コンラートのやつが〝スライムはテイムできない〟なんて言うから、【神引き】まで使ってスキルを取ったのに、こうも簡単に【従魔術】が生えるんなら……いや……待て? ひょっとして逆なのか? 【他心通】でヴィクと意思の疎通ができていたから、簡単に【従魔術】が生えたのか?
……どっちにしても、不審な挙動を見られたんだ。今更隠しておくのも無理だろう。幸い、他のヤバそうなスキルは隠してあるし……【従魔術】はカミングアウトする方針でいくか。
「スキルが生えたって?」
「このタイミングなら、【従魔術】とかかな?」
「判らんな。誰かに【鑑定】でもしてもらわんと……」
「あの……ネモ君……実は僕、【鑑定】スキルを持ってるんだけど……」
本日21時頃、死霊術師シリーズの新作「オーガの像」を投稿する予定です。宜しければご笑覧下さい。