第二十五章 郊外キャンプ~初日~ 2.はじめてのおはなし
~Side ネモ~
俺に懐いたスライムをお供にキャンプハウスに戻る道すがら、コンラートのやつが話してくれた内容は、俺にとっては驚くべき事だった。
「テイムできない? ……スライムがか?」
「真偽は定かでないが、そう言われている。原始的な生命体で【馴致】に応えるだけの知力がないのか、反対に高い知力を持っていて【馴致】を撥ね返すのか、それすら判っていないらしい」
――って……スライム、思いっ切り懐いてるみたいなんだが……
「あぁ、従魔とかじゃなくて、単に人に懐くスライムというのは時々いるそうだ」
そっちかぁ……こいつを飼ってると、そのうち【従魔術】とか生えるんじゃないかと期待してたんだが……コンラートの話を聞くに無理っぽいな……
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一旦自室へ戻ると、用心のため扉に鍵を掛ける。午前中の座学が始まるまではまだ少し時間があるし、この隙にさっき考えた計画を実行に移そう。
――計画というのはスライムの事だ。
折角懐いてくれてるスライムなんだから、ここは是非とも、もう一歩踏み込んだ付き合いをしたい。……ここまで俺に懐いてくれた生き物って、今までいなかったしな……
【従魔術】とか生えるんじゃないかと期待していたが、コンラートの話だとそれは難しいようだ。
――しかぁし! だからといって諦めるのは早ぁい! 俺には【願力】があるからな。スライムとの意思疎通を可能にする手段をお願いしてみよう。
前回【願力】を使用してから、まだ十日は経っていない。本来なら使用不可の筈なんだが……しっかぁし! 俺には前に貰ったガチャチケットがある! 今ここで使わずに、いーつ使うと言うのだ!!
そう意気込んで【神引き】に臨んだんだが……
「当たったのは――またもや悪神様のお薦めかぁ……何気に相性とか良いのか?」
【他心通】って……また物議を醸しそうなスキルが当たったな……。本来は六神通の一つで、他人の心を読み取る能力だよな。……スライム相手にも使えるのか……いや、そうじゃなくて……
「……こいつも隠蔽決定だよな。偽装スキルが大活躍……と、こっちも悪神様の手作りだったっけ……」
ちなみに、最高神様のお薦めは言語スキル、闘神様のお薦めは従魔術スキルだった。後々の拡張性とか使い勝手を考えたら、確かに悪神様のお薦めが一番なのかもしれないが……
「……これ……アクティブ設定とかにしとかないと、気付かないうちに本音を読んじまってバレる――ってオチになりそうだよな……」
ステータスの偽装を――色々と突っ込みたいところはあったが――済ませると、新たに得たスキル【他心通】を早速使ってみる。気付かないうちに心を読んでいた……なんて事にならないように設定――案の定と言うか、デフォルトではパッシブで発動する設定になっていた。油断も隙も無い――を変更し、アクティブ設定に変更した上で、さっき拾ったスライムとの意思疎通を試してみる。
『――おぃ、俺の言ってる事が解るか?』
『あー きこえるー』
思ったより幼い感じの声が――声でいいんだよな?――返ってきた。
『お前、どうしてあんなところにいたんだ?』
スライムは普通人家の傍になんか近寄らないって言ってたからな。今は事情が事情だし、理由があるのなら確認しておいた方が良いだろう。
『なんかねー こっちにおいしそうなのがー ありそうだったからー』
『……質問を変えよう。ここに来る前はどこにいた?』
『んー…… よくわかんないー よるのうちにー そとにだされたからー』
『……おいちょっと待て。外に出された?』
『そうだよー?』
〝出された〟と言うからには、こいつをどこかに飼っていて、その後そこから外に放したやつがいる――って事じゃないか。……こりゃ、エルの懸念が当たったかもしれん。
『前にいたのはどんなところだった? それと、お前を飼っていた……閉じ込めていたのは、どんなやつらだった?』
『んー…… なんかねー あかるいあなぐらみたいなところー にんげんがさんびきくらいー いたみたいー』
〝明るいあなぐら〟ってのは、室内という事だろうな。外の様子までは判らんか。しかし……怪しい連中が三人か。これって結構重要な情報だよな。
先生や護衛さんたちに話しておくべきかもしれんが……馬鹿正直にスライムから訊き出したなんて言ったら、追及されるのは明らかだ。【他心通】の事とか――況して【願力】の事なんか、口に出すわけにはいかんしな。
いや――そもそも何でスライムなんだ? 確かにこいつはちょっと変わってるみたいだが……所詮はスライムだしなぁ……。反政府活動とかとは無関係なのか?
……こりゃ、先にそっちを確認した方が良いな。
『おぃ、お前を閉じ込めてたやつら、お前の事を何か言ってなかったか? お前の事じゃなくてもいいが、何か憶えている事は無いか?』
『んー…… そういえばー いんう゛ぃくた とかいってたー』
――インヴィクタ? ……確かラテン語か何かで、〝打倒されざる者〟って意味だったっけ。前世で話題になってたヒアリの学名が、確かそんなのだった気がする。……なるほど。こっちでも同じような意味だとすると、物理攻撃も魔法攻撃も効かないこいつにはピッタリだな。
そうすると……やっぱりこいつの特性を把握した上で飼育して……放した事になるのか? もう少し事情を訊いておいた方が……
「おいネモ、そろそろ座学が始まるぞ」
――あぁ、もうそんな時間か。
「解った、今行く」
さて、講義の間こいつをどうするかだが……
『いっしょにいくー』
……うん。下手に目を離すよりは、その方が良いか。
拙作「転生者は世間知らず」、書籍化記念SSっぽいものを更新しました。宜しければご笑覧下さい。