第二十四章 郊外キャンプ~移動日~ 2.往路(その1)
~Side ネモ~
途中何度か休憩は入ったが、半日ほども馬車に揺られて着いたのは、前世で言えば首都近郊のキャンプ地という感じの場所だった。ここから残り六時間ほどは、キャンプハウスまで歩いて行く事になる。まぁ、荷物なんかは荷馬車に載せて、自分たちで担ぐんじゃないから楽なんだが……それでもセレブの坊ちゃん嬢ちゃんにはきついのか、あちこちから〝六時間も……〟と呻く声が聞こえる。
「たかが六時間で何をごねてるんだか……」
「全くだ」
俺とエルは呆れていたが、Aクラスの他の生徒――苦労人のアスランを除く――たちにとっては一大事らしい。CクラスやDクラスの生徒たちがケロリとしているのとは対照的だな。
「ただ只管に、脇目も振らず歩くだけなんて……」
「おぃカルベイン、何だったら途中で素材とか何とか採ってくか? 俺は最初からそうするつもりだが、興味があるなら付き合わせてやるぞ?」
「遠慮しておく……」
――軟弱者め。
エルのやつは興味があるみたいだが、あいつにゃアスランの護衛って本業があるからな。興味本位で勝手に動くわけにもいかんだろう。
――と、まぁそんな感じで、俺から見たらノンビリとしたペースで歩き出したわけなんだが……
・・・・・・・・
「……ネモ……」
「……哀れだから、気付かないふりをしててやれ……」
俺たちの後を見え隠れに蹤いてきてるのは、多分護衛さんたちだろう。本人的には隠密行動のつもりなのかもしれんが……さすがに馬車から降りてからず――っと同じ面子が蹤いてくれば、気付かない方が難しいぞ?
尾行の技術は悪くないと思うんだが……メンバーを交代させるって事には考えが及ばんのか? ターゲットに気付かれないように尾行するために、前世ではチームによるリレー形式を採っていた筈なんだが……
……ひょっとしてあれか? 現場を知らん上層部が、作戦に従事する人数を絞れば安上がりだし目立たない――とか、安直な発想をしたわけか?
隠密裡に事を運ぶためには、寧ろ複数のチームをリレー式に参加させるべきなのに……規模を縮小したら逆効果だろうが。……これだから机上の秀才ってやつは……
……ちらりと目が合ったら、護衛さんたち、気まずそうに目を逸らしたよ。気の毒に。
そうやって暫く歩いていると、視界の隅に気になるものが引っかかった。
――護衛さんたちよりも遠間から、こっちの様子を窺っているやつがいる。
中々に凝った偽装で姿を隠しているようだが、俺の【眼力】を欺く事はできなかったようだ。……てか、これだけ離れてても【看破】や【鑑定】が効くのか? ……ひょっとして、【遠見】の能力が被さって、射程距離が延伸されているんじゃねぇだろうな? だとしたら、この【眼力】って滅茶苦茶にチートな能力じゃねぇか。さすがユニークスキルだけの事はあるわ。
……いや、そうじゃなくてだな……
どうもあいつ、刺客一味の斥候役らしい。できればさっさと片付けておきたいんだが……距離があるから護衛さんたちが駆け着ける前に、間違い無くトンズラするだろうな。投石杖を使うにしても、構えた途端に警戒されて躱されるだろう。……それとなく護衛さんたちに伝えて、監視なり尾行なりしてもらうか? ……いや……待てよ?
この距離で【看破】が効いたんだから……ひょっとして魔眼系の能力も届くんじゃねぇのか?
――そう思って試しに使ってみたら……あっさりと届いたよ【眼力】。茂みの陰にいるんで判りにくいが、どうも卒倒したみたいだ。魔眼だか邪眼だか知らんが、しっかり意識して使うと、凄ぇ効き目だな。
これで片付いた……のはいいんだが……この後はどうしよう……さすがに放って置くわけにもいかんよな……?
暫く悩んだ後で、俺は投石杖で石を投げ付けておいた。キチンと頭部に命中したから、石が当たって卒倒したように見えるだろう。護衛さんたちも気付いて……と言うか訝って、茂みの方へ走って行ったから、すぐに曲者に気付くだろう。後の始末は護衛さんたちに任せればいいや。
誘き寄せて一網打尽という計画だったんだろうが、俺はそんな話は聞いてないからな。上の連中の思惑なんざ知った事か。我が身大事が俺の身上なんだよ。
エルが変な顔をしてるが……知らんぷりして先へ進むとしよう。