第二十四章 郊外キャンプ~移動日~ 1.出発前
~Side ネモ~
光の日――地球世界風に言えば日曜日――の朝、俺たちはキャンプに向けて王都を出発した。半日ほどは馬車に揺られて移動し、現地へ到着後は徒歩でキャンプ地まで歩くらしい。セレブの坊ちゃん嬢ちゃんの体力じゃ、その辺りが限界なんだろうな。
ちなみに、ドルクの親爺は出発までにククリを間に合わせてくれた。鉄菱――正四面体の飛礫の事な――と短杖だけでもきつかったろうにと思うと、少しだけ頭が下がる。特に短杖の方は、発注した後で投石杖の機能を追加するように頼んだんだが、そっちもちゃんと間に合わせてくれた。……まぁ、ブツブツと文句は言われたが。
「今日のネモの杖は短いんだな」
「林の中で長い杖なんか邪魔だろうが。けど、杖みたいなやつはあった方が何かと便利だから、短めのやつを誂えてきたんだよ」
前世にあったピッケルみたいなものも考えてはみたんだが、加工が面倒になりそうだったからな。鋳造でいいのか鍛造にすべきなのかも判らんし。キャンプが終わってから、必要と思ったら改めて注文すりゃいいか。ま、今回は山登りみたいなのは無いみたいだし、ただの棒でも充分だろ。
「棒かぁ……そこまでは思い付かなかったな……」
エリックのやつ、何だか悔しそうだな? ちゃんとした剣を提げて来てるんだし、たかが棒っ切れにそこまで対抗心を燃やさなくてもいいと思うが?
「いや、改めて考えてみれば、剣より棒の方が使い勝手が良さそうだし。ネモだって片手剣は持って来てるじゃないか」
「まぁ、藪を払うのに使えそうだしな」
短剣も持って来ているから、俺の出で立ちは短杖・片手剣・ククリという重武装になる。……クロスボウがあれば完璧だったな……。鉄菱と投げナイフは懐に仕舞い込んであるから、外から見ただけじゃ判らんだろう。
実は、片手剣を持って来るかどうかは最後まで悩んだ。藪漕ぎならククリもあるわけだしな。結局、どう使い分けすべきなのかの検証も兼ねて、両方持って来たわけだが……ちょっと物々し過ぎたか?
「剣を藪漕ぎに使うのか……」
コンラートのやつは、何か釈然としないような憮然とした面持ちだったが、
「……まぁ、実用本位の造りのようだし、冒険者たちは戦闘以外の事にも剣を使うと聞いているし……いいんじゃないかな?」
取りなすように割って入ったのはアスランだ。エルも後で頷いてるな。
「まぁ……魔導学園の生徒があまり物々しい剣を帯びていたら目立ちますから、片手剣くらいが丁度好いのかもしれません」
「目立つと言えば、ネモのあの変な棒の方がよっぽど目立つよな」
コンラートのやつはどうにか自分を納得させたようだが……おぃエリック、いつもながらお前は一言多いよな。
「い、いや……だから、あの変テコな棒よりかはまだマシだって……その長さなら、魔法使いの杖に見えなくもないだろうし……」
「……杖?」
――確かに前世の漫画とかでは、魔法使いを記号化する小道具として、長衣と杖は付きものだったな。しかし……
「……考えもしなかったな。――て言うか、みんなも杖は持ってないよな?」
そう言うと、なぜが呆れたような視線を向けられた。
「……ご存じありませんでしたの? ネモさん」
「魔導学園の生徒は、一年生のうちは杖を持てないんだよ。杖には魔法の威力を増幅する効果があるけど、一年生のうちからそれに頼るようでは駄目だから――という理由でね」
「自分の杖を持てるようになるのは二年生から。それも、最初の杖は自分で作る事になっている」
お嬢・ジュリアン・コンラートが口々に説明してくれた。何でも学園の案内書に書いてあるらしいが……んなもん、一々目を通すかよ。
「ネモのそれも、魔法の杖じゃないんだよな?」
「考え付きもしなかったな」
「まぁ、確かに魔法の杖には見えないな」
「寧ろ……形だけ魔法使いの真似をしてるみたいにも……」
「少なくとも、魔道具に間違えられる事は無いだろうね」
「残念ぶりが際立っていますわね」
――煩いぞ、お嬢。しかし、そうすると……
「重武装……と言うか、物々しい感じはしないって事でいいのか?」
「重武装も何も、武器と言えそうなものはその片手剣だけだろ? まぁ、魔導学園の生徒にしては物々しいかもしれないが、それは他の生徒も同じだからな」
俺の苦言が効いたわけでもないだろうが、剣とか短剣を持って来てるやつは結構いる。その他に、護身用の魔道具や護符の類も持ち込んでるみたいだ。くそ……金のあるやつはいいよな。こちとら武器を都合するくらいしかできなかったってのに。……あぁいや、【神引き】でスキルは貰えたんだが……
だがまぁ……変に物々しいと思われてないなら好都合だ。棒は武器とは見做されてないみたいだし、短剣も同じなのか? それとも、後腰に差しているせいで気付かれなかっただけなのか? ……まぁ、目立ってないならどうでもいいが。
(「いや……ネモが目立たないというのは無理があるんじゃないか?」)
(「武闘会であれだけやらかしておいて……今更よねぇ……」)
(「そもそも、身のこなしからして違うよな? 立ち居振る舞いに迫力があると言うか……」)
……何か後の方が騒がしいようだが、まぁ大した事じゃないだろう。
拙作「転生者は世間知らず」、本日発売の予定です。