第二十三章 郊外キャンプ~準備篇~ 8.神頼み
~Side ネモ~
何か知らんがマーディン先生が急に慌てだした事で、解毒剤の作り方教室はお開きになった。まぁ、差し当たって俺に作れそうな分は教わったからいいんだが……
もっと高級な解毒剤とかポーションは、既に何本か確保してあるからな。俺一人が買い占めるわけにもいかんから、必ずしも充分な数とは言えんが……ま、あの様子なら、他のクラスの面倒は先生方が見てくれるだろうから、俺は自分の事だけ考えてりゃいいか。
弾除けの魔道具とかについて聴きそびれたのは残念だが……いかん……何だか心配になってきた。
……市販の解毒剤だけで、本当に大丈夫なんだろうか。
セレブ組の連中なら、ラノベ定番の加護付きの指輪とか、その手のチート魔道具を用意できるだろうが……そんなもん、俺みたいな庶民には手が出ない。防具やら解毒剤やら、手持ちの資金も大分つぎ込んだからな。魔道具までは手が届かんわ。
【状態異常耐性】のスキルに加えて自前の加護が――大きな声では言えんが三つも――あるにはあるんだが……この加護って、どういう効果があるのか、今一はっきりしないんだよな。……加護を当てにして無茶をしないようにとの配慮なのかもしれんが。
まぁとにかく、自分でできるだけの事はやっておいた方が良さそうだよな。
――具体的には、【神引き】とか【神引き】とか【神引き】とか。
・・・・・・・・
肚を括るまでに少し時間が必要だったが、ここはやはり【願力】のお世話になるべき局面だろう。何しろ、下手をすると命が懸かってくるんだ。【願力】の発動条件は充分にクリアーしてるだろう。
――と言う事で、久々の【願力】となったわけだが……
「……いつもながら、当たってみるまで何を得たのか判らんというのがなぁ……」
最初の時は【神引き】チケット、二回目はスキルだったよな。どちらも有用なものだったし、それ自体はありがたいんだが……
「……下手なものを貰った場合、隠し通せるかどうか判らんというのがなぁ……」
どでかい乗り物なんかが当たった場合、隠し通せるかどうか微妙だしな。まぁ、今回は願い事が願い事だから、そんなに馬鹿デカいものが当たる事は無いと思うが……
「……まさか、救急治療室とかが当たったりしないよな……?」
そんなものが当たっても、どうにもならんのだが……。えぇい、いつまでもブルってたんじゃ始まらん。さっさとスキルを発動して……おぉ……回っとる回っとる……よし! ポチっとな!
……で……当たったのは……
「……うわぁ……『悪神のお薦め』かぁ……。前回のお薦めを見る限り、悪神様のお薦めは一癖ありそうなんだよなぁ……」
……確認の前に、外れた方の二つを見てみるか。……決して腰が引けてるとかじゃなくて、純然たる興味からなんだが……
「闘神のお薦め」は……特製解毒ポーションか。王道って感じだな。これだったら問題は無かった……いや……神さま特製のポーションだよな? これ。……ポーションって書いてあるけど、「エリクサー」とか「ソーマ」とか、そんなやつじゃないのか? 下手に使うと効果が高過ぎて大騒ぎになるという……ラノベではお約束の展開だよな? ……それを考えると使いにくいか……
では次、「最高神のお薦め」は……治癒魔法だったのか。これなら別に問題は……いや……それまで持ってなかった治癒魔法がいきなり生えるってのも、考えるまでも無く充分怪しいよな。ユニークスキルと言い張れれば良いんだが……説明文を読む限り、ユニークと言えるほど珍しいスキルではないみたいだ。――という事は、これが生えていた場合、どうにもこうにも説明できなかったわけか。秘匿するしか無いんだろうが……今回は下手をすると命が懸かってくるからなぁ……隠し通せるかどうか怪しいわけで、そうすると困った事になっていたかもしれんわけか。
外れた二つはそれぞれに難を抱えていたわけだが……そうすると「悪神のお薦め」は……
「……『眼力』への追加オプション? なるほど……これなら隠す手間は増えないわけか。で、内容は……〝毒破壊の機能を「眼力」に追加〟……って……何だよこれ!?」
説明文説明文……えぇと……毒の効果を「眼力」で破壊……って……バジリスクも真っ青じゃねぇか……
確かに……今までも魔法やスキルの発動をキャンセルする能力はあったらしいから、それを拡張しただけか。毒に冒された後の治療じゃなくて、毒の作用そのものを無効化するわけだから……それこそ神様の加護か何かがあったように見せかけられる……なるほど。
「これなら――俺が不必要に目立つのも避けられそうだな」
俺の事情を慮って下さったようにも思えるんだが……
「……敵も味方も騙すってところが、悪神様的にツボなだけなんだろうなぁ……」