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車内に緊張が走ってからしばらくし、車は目的地である那覇駐屯地へと到着した。
一心たちが車から降りると、強い日差しと共にある男が彼らを迎える。
「HEY 桃次ッ!」
ブロンドの短髪に、まるでプロレスラーのような屈強な体をした中年の男が、鬼頭の名を叫びながら近寄ってくる。
鬼頭は男の姿を見ると表情を緩ませ、近づいてきた男と抱き合い、ガッチリとハグをした。
「フランク! また会えて嬉しい」
「ああ、南極の大戦以来だな。元気そうじゃないか」
鬼頭にフランクと呼ばれた男の名はフランク·アーヴィング。
対魔組織ディヴィジョンズが結成される前に起きた悪魔との戦争で、鬼頭と共に生き抜いた数少ない兵士の一人だ。
現在はアメリカ陸軍総軍の部隊の隊長をしており、その階級は大佐となっている。
大の大人二人――それも男同士で抱き合っているのを見て、一心は不可解そうにしていた。
「あの外人って鬼頭さんの友だちか? 初め見た、あんな嬉しそうな鬼頭さん……」
「戦友よ。あの人も鬼頭さんと同じく、魔力なしで悪魔と戦った英雄の一人」
もみじは一心にそう言うと、抱き合っている鬼頭とフランクの前へと歩いていく。
それに気が付いた二人が離れると、もみじがフランクに手を差し出した。
「お久しぶりです、アーヴィング大佐」
「昔みたいにフランクでいいよ、もみじ。相変わらず無茶ばかりしているそうじゃないか」
「はぁ……。フランクも変わりませんね」
肩を落としたもみじを見たフランクは、嬉しそうに手を握り返すと話を続ける。
「聞いたぞ。ぶちのめした絶縁者を仲間にする提案をしたのが君だってな。まったく父親譲りというか……。髪を切ったせいもあるが、だんだんあいつに似てきた」
「からかわないでくださいよ。私はあなたや鬼頭さん、父さんにはまだまだ敵わないです」
どうやらもみじは、鬼頭の戦友であるフランクとは親しい間柄のようだ。
まるで親戚の叔父にでもあったかのような態度で、少し照れながら彼と会話を続けていた。
そんな光景を見ていた一心は、ゆきに声をかけた。
もみじの妹なのだから、当然ゆきもあの大佐と仲が良いのだろうと、彼は思ったのだ。
だが、ゆきはフランクのことを顔と名前くらいしか知らないらしい。
「はッ? なんでだよ? もみじの知り合いならお前も知り合いだろ?」
「なんでそうなるんですか。もみじお姉さまはわたしがディヴィジョンズに入る前から鬼頭さんの部下になっていたんです」
ゆきの話によると、もみじは今の雪の年齢よりも若い頃から鬼頭のもとで兵士として仕事をしていたようだ。
フランクとは、もみじと鬼頭がアメリカとの合同作戦で現地に飛んだときに知り合ったのだろうと、彼女は不機嫌そうに言葉を続けた。
「そのことは渡された資料に書いてあったでしょ。なのに、お姉さまがわたしよりも軍関係の知り合いが多いくらいなんでわからないんですか? バカですか? アホですか? やっぱり嫌いです」
「ちょっと間違えたくらいで悪く言い過ぎだろ!?」
「悪いのはあなたです。わたしの言い方が気に喰わないなら、仕事以外のことで話しかけないでください」
フンッと鼻を鳴らしてわかりやすく一心を拒絶したゆき。
彼女の態度に怒った一心は、その身をワナワナと震わせながら今にも飛び掛かろうとしていたが、彼の背後に立っていた静によって取り押さえられてしまう。
「離せよ! 離してくれよ静さん! 今日という今日こそこいつに思い知らせてやるんだ!」
「落ち着いて、一心。ゆきちゃんにもいろいろと事情があるんだ。そのことはミーティング後に話してあげるから」
「事情なんて知るかよ! 聞きたくもねぇし、声をかけるたびにあんな言われ方されて黙ってられるか! あの生意気な面に一発入れてやらねぇと気が収まらねぇ!」
「じゃあ、後でこっそり海に連れていってあげる」
「マジか!? よし、ならやめる」
余程沖縄の海に行きたかったのか。
先ほどの怒りはどこへやらと言わんばかりに、一心の機嫌が直った。
まだ付き合いの浅い絶縁者の少年を手懐けてみせた静に、虎徹はさすがだと舌を巻いている。
「静はもうあいつの好みを把握したのか……。相変わらず恐ろしいというかなんというか……。オレ、あいつと付き合ってるのが怖くなってきたよ……」
「さすが静さんと言いたいところですけど、あのバカがチョロいんです。海ごときで、まるで子供じゃないですか。対魔組織の自覚がない証拠です」
虎徹が乾いた笑みを浮かべていると、ゆきはムスッとした表情で一心の単純さに毒を吐いていた。
こんなんでうちは大丈夫なのかと、虎徹は一心とゆきの仲の悪さが作戦に影響が出ないようにと願った。
「何をしている? これからミーティングだぞ。遊んでないで急げ」
一心がゆきに飛び掛かろうとしていたことなど知らない鬼頭が、彼ら彼女らに声をかけると、虎徹は「はぁ」と大きくため息をついた。
そして、重い足取りで先を歩く鬼頭たちの後を追いながら、一心とゆきを交互に見て静かに声をかける。
「やっぱ深刻なんじゃないか、あの二人……」
「飛行機でも言ったでしょ。問題ないって」
「さっきのを見てまだそう言うのかよ……。鬼頭さんといい、お前といい、どうかしてるんじゃないか……」
「それは良いこと。悪魔と戦うような人間は、まともな神経じゃつとまらない」
「……オレ、やっぱこの仕事向いてないかも……」
「安心して。虎徹は私や鬼頭さんよりもまともじゃないから」
「褒めてるんだろうが、素直に喜べないなぁ、それ……」
虎徹は静の励ましの言葉に苦笑いを返すと、鬼頭たちが入っていった施設の前で頭を抱えた。




