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――対魔術組織ディヴィジョンズのメンバーとの顔合わせから数日後。
一心が鬼頭との二人での生活にも慣れてきた頃に、今日は海外のお偉いさんと面談をすると言われた。
要するにディヴィジョンズの日本支部ではなく、外国の部隊長たちとの顔合わせだ。
「なんだ? まだ俺が入るって話してなかったのかよ?」
「いや、すでにお前がうちに入ることは伝えてある。簡単にいえば、新しい絶縁者がどんな奴か見ておきたいってところだ」
「ふーん。なんかどうでもよさそうな話だな」
「ああ、まったくだ。それよりも一心、お前は食うのが早過ぎだ。もっとよく噛んで食べろよ。あと、おかわりはいるか?」
「いる!」
返事を聞いた鬼頭は、一心の茶碗に白飯をよそう。
手料理など食べたことがない一心にとって、鬼頭の作るものはどれも美味しく感じられた。
こんがりと焼いた鮭。
わかめとネギの味噌汁。
日本人らしい質素な和食だが、一心にとってはそのどれもが新鮮で、毎日ご飯を何杯もおかわりする。
それと年齢的なものもあってか。
まだ短い間とはいえ、二人の関係はまるで親子のようになっていた。
朝食前は二人でランニングをし、食べ終えたら午前中に、国語、社会、数学、理科、英語などの基本教科の勉強。
午後は筋力トレーニングと実戦形式のスパーリングという生活。
鬼頭にも仕事があるのであくまで空いた時間だけだったが、食事はできる限り二人で食べる。
一心は彼の家に来てからずっと楽しかった。
騙されていたとはいえ、毎日がお祭りのようだったトゥルーとホロとの日々にも負けないくらいにだ。
初対面の印象が良かったのもあったのだろう。
口数こそ多くはないが、面倒見の良い鬼頭に、今ではもう一心も心を許していた。
「食べ終わったらすぐに出発するぞ。今日は制服でな」
「えー俺あれ嫌いだ。動きづらいしよぉ。鬼頭さんはよく着てるけど、好きなのか? あんなの?」
「いや、俺も嫌いだ。だが世の中には好むと好まざるとに関わらず、場所にあった服装ってのがあるんだよ。俗に言うドレスコードというやつだな」
「へー面倒だな。嫌いなもんを着なきゃいけないなんて。ドレスコードか。なんか名前だけはカッコいいな」
それから準備を終えた一心と鬼頭は、霞が関に警察庁へと向かった。
どうやら海外にいる部隊長たちとは、そこにある一室を借りてのオンラインミーティングとなるようだ。
到着後に警察庁の正面口から入り、ミーティングルームに入ると、そこには先に来ていた髪の短い少女――姫野もみじが待っていた。
彼女も一心と同じく対魔術組織ディヴィジョンズの制服を着ている。
「よう、もみじ。久しぶりだな。お前もいたのか」
「そりゃいるでしょ。あんたをチームに入れようと言ったのは、私と鬼頭さんなんだからね」
「そっか。うん、お前もちゃんとドレスコードしてるな。ドレスコードは大事だぞ。世の中には好むと好まざるとに関わらず、場所にあった服装ってのがあるんだ。それをドレスコードって言うんだぞ。知ってたか?」
「あんた……なんかキャラ変わってない?」
まるで友人にでも会ったかように、気さくな態度で接してくる一心を見て、もみじは顔をしかめていた。
だがすぐに表情を緩めているところを見るに、どこかホッとしているようだった。
一心はそんな彼女のことなど気にせずに、ずっと訊ねたかったことを口にする。
「なあ、お前の妹のゆきなんだけどよぉ。なんであんなに生意気なんだよ? もうちょっとなんとかなんねぇのか。こっちは仲良くしようと頑張ってんのにさ」
一心は鬼頭と暮らすようになってから、当然対魔組織ディヴィジョンズのメンバーであるゆきともトレーニングで顔を合わせていた。
一心の人懐っこい性格もあって、気さくな虎徹とはすぐに意気投合し、愛想はないものの大人な静とも馴染んでいた。
だがゆきとは相変わらずだった。
少しでも打ち解けてようと一心のほうから彼女に声をかけるが、いつも厳しい態度をとられるようだ。
何故だと訊ねてくる一心に、もみじはため息をついてから言う。
「ゆきは男嫌いだからね。特に馴れ馴れしいのは勘弁して感じなの」
「馴れ馴れしい? でも鬼頭さんと虎徹さんだって男じゃねぇか? なんで俺だけにあんな当たりがキツイんだ?」
「年頃の女の子ってのはね。よく知らない男に“お前”とか“ちっこいの”とか言われるとムカつくもんなの。私はあまり気にしないけど、あんたはたしかに失礼なことを言う奴だもん」
「マジか!? 俺ってそんなに失礼なこと言うかなぁ……。で、でも鬼頭さんだって“お前”って言うじゃねぇか?」
「あんたにはそこら辺の勉強も必要みたいね……」
一心の反応にもみじが呆れていると、鬼頭が二人に声をかけた。
どうやらもうすぐ海外の部隊長たちと回線がつながるようだ。
ミーティングルームに用意されていたモニターに、各国にいる対魔術組織ディヴィジョンズの部隊長たちの顔が映る。
《おはよう、鬼頭。やはり我々も日本語で話したほうがいいか?》
「どちらでも構わない。絶縁者に言語が関係ないのは知っているだろう。何語を話そうが、すべてわかるように自動翻訳される」
鬼頭の返事を聞いた一心は、ここでどうして自分が白人であるトゥルーと話せていたのかを理解する。
最初は彼女が日本語で話してくれていると思っていたが。
どうやら話からするに、絶縁者には身体能力の向上以外にも、相手の話す言語を翻訳する力もあるようだ。
《それなら助かる。どうも日本語は難しくてね。さて当然もみじ嬢は知っているが、そっちが噂の少年だな》




