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穴を抜け落ち、地下の通路へと着地した一心(いっしん)に、数人の男女が短機関銃の銃口を向けてきていた。


その姿は防弾バイザーを装着した灰色の防弾ヘルメット、黒色のアサルトスーツ、下腹部を保護するプレートが装着された防弾ベストを着用し、そのベストの上からタクティカルベストを付けているのが見える。


日本の特殊急襲部隊 Special Assault Team――SATを思わせる格好だ。


武器がサブマシンガンなのは、軽量小型で狭い航空機内や室内での使用に適しているからだろう。


現在一心がいる地下通路での戦闘にピッタリの武器だった。


どうやら地下を警護していたのは、警察や自衛隊ではなく、トゥルーやホロの所属する組織に対抗するために結成されたチームのようだ。


「やはり来た!? 過越の祭(パスオーヴァー)が現れたぞ!」


「全員、侵入者を狙え! 相手は見た目からして絶縁者(アイソレーター)だ! 子供だからといって油断するなよ!」


「了解!」


サブマシンガンを構えた男女らは、指示を出した男に返事をすると一斉に発砲。


弾丸の雨が一心に降り注いだが、突如として光の障壁が現れ、発射されたすべての銃弾を弾いた。


「これがトゥルーの言っていたヤツか……」


一心は両目を見開きながら思い出す。


トゥルーから説明を受けていた絶縁者(アイソレーター)の力のことを。


絶縁者(アイソレーター)は、その身体に魔導具である水晶が埋め込まれている。


その水晶から魔力を得ることで、常人を遥かに超えた力――悪魔と同等の身体能力や魔法が使えるようになるのだ。


先ほど一心を守った光の障壁も魔法の力の一つである。


これは絶縁者(アイソレーター)に備わっている自動防御のようなもので、魔力がない者の攻撃や普通の武器では貫くことはできない。


「これなら銃なんてオモチャ同然じゃねぇかッ!」


一心は咆哮しながら特殊部隊の隊員たちへと突進。


放たれる弾丸を弾きながら、まるで飢えた獣のように飛び掛かる。


「とりあえず五人か。さっさと片付けて次に行くぜ!」


「ぐッ!? 後退しろ! 距離を取らないと危険――ッ!?」


指示を出していた男が言い切る前に、一心のタックルが男の身体を吹き飛ばした。


狭い地下の通路の壁に叩きつけられた男は、そのままうなだれて動かなくなる。


これで統率が取れなくなるかと思われたが、隊員たちは冷静だった。


指示通りに後退しながら、一心から急いで距離を取っている。


止まることない弾丸を弾きながら、一心は苛立っていた。


無駄な真似をするなと呟いて隊員たちを見下し、歪んだ笑みを浮かべる。


そして隊員たちの中心に飛び込むと回し蹴りから肘打ちを放ち、それをそのまま続けて、まるで凄まじく速く動くメリーゴーランドのように回った。


「ハハハッ! すげぇッ! すげぇぞ俺ッ!」


一瞬で五人の隊員たちを倒した一心は、高笑いしながら大声を出していた。


ここ数日間でたしかにかなり鍛えたが、まさかここまで強くなっていたとはと、自分の力に酔っている。


絶縁者(アイソレーター)になった俺は神に、いや悪魔に選ばれたんだ! もうどんなヤツだって俺から自由は奪えないぞ! ギャハハハハッ!」


歓喜に身を震わせ、初めての実戦で自分の強さを知った一心は、次の獲物はどこだといわんばかりに地下通路を走り出す。


すると、銃撃を聞きつけた隊員たちが待ち構えているのが見える。


そして隊列を組んで、一心を止めようとサブマシンガンを撃って迎撃してきた。


「そんなもん効くかよ! 雑魚が俺の前に出てくんじゃねぇッ!」


だが当然一心には銃弾など通じない。


光の障壁が彼の意思とは無関係に現れ、すべてを防ぐ。


距離を詰めた一心は、接近戦へと切り替えようとする隊員たちへと拳を振るった。


相手が何かする前に攻撃が当たる。


面白いほど技が決まる。


普通の人間では絶縁者(アイソレーター)の身体能力に対応できないのもあって、一心はまさに無双状態だった。


自分よりも体格のいい大人たちの顔面を打ち抜き、その身体を蹴り飛ばし、まるでマネキンでも相手にしているように何もさせることなく倒していった。


「ギャッハハハ! どうした!? こんだけ人がいて誰も俺に敵わねぇのか!? 誰か俺を止めてみろよ!」


ヘルメットやプレート、タクティカルベストの耐衝撃用素材の効果もあって、一心になぎ倒された隊員たちは一命を取り留めていた。


しかし、もう虫の息だ。


頭蓋骨にヒビが入っている者や、折れた肋骨が内蔵に突き刺さって血を吐いている者たちもいる。


一心は足元で呻いている隊員たちを見て、不機嫌そうに言う。


「あん? まだ生きてんのかよ。しぶといな。でも、そのケガだ。ほっときゃ死ぬだろ。次だ次」


ホロに必ず殺すように言われていた一心だったが、どうせ虫の息だと止めを刺すことはせずに、その場から駆け出していく。


今の彼は、手に入れた自分の力を振るいたくてしょうがなかった。


それは、一心が最も嫌う自分よりも弱い者を痛めつける行為だったが、力の快楽を知った彼はそのことを忘れてしまっていた。


「さっさと出てこいよ! 全員俺が相手してやるぜッ!」


強さに酔った一心の咆哮が、狭い地下通路の廊下に響き渡っていった。

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