桜の古木の花咲く前の下(推理合戦前編)
「ん。じゃあ片山くんの考えをなぞってみようかな。」
と純子が切り出した。
「片山クン、間違ってたら御指摘おねがい。私の頭はキミのに比べたら、かな~り大雑把だからね。」
そして「まず懸想文売りについて説明するよ。」と続けた。
「懸想文売りが出現するのは節分の日なのね。京都の……吉田神社じゃなくって、どこだっけ?」
「須賀神社だよ。場所はどちらも京大の近くだけど。オバケが出るのが吉田神社で、懸想文売りが出るのが須賀神社。」
と片山が補足する。
そうして、序にという感じで
「オバケっていうのは本物のモノノケじゃなくって、仮装した参拝客というか一般人のことなんだ。事の起こりは祇園の芸子さんが節分に仮装したのが始まりらしいけどね。今では京都の節分会では、ハロウィンの仮装よろしく凝った衣装を身に着けて大騒ぎなんだって。吉田神社には夜引いて露店が並ぶから、オバケも大量に出現するって話だよ。個人的には恵方巻より、オバケが全国区で広まってくれたほうが楽しかったと思うんだけどね。」
と舞に解説する。
――嫌味なヤツ。いちいち説明がくどい。
と舞は不快だったが、純子はそう感じなかったらしい。
そうそう須賀神社だったよ、普段は交通安全の神様でもあるんだよね、と純子は頷いて
「懸想文売りは須賀神社に出るんだ。懸想文というのはラブレターのことでね、未婚女性がそれを買って良縁祈願のお守りにするんだよ。商売繫盛のお守りにする人もいるみたいだけど。『縁を繋ぐ』って意味で。」と後を引き取った。
「そしてその売り子っていうのが、烏帽子を被って水干姿の男性なの。手には文を結んだ梅の枝を持ってる。」
「梅?!」
舞がピクッと反応した。
「まさか、それで里美は桜を梅だと勘違いしたの?」
「だと思う。」と純子は”勘違い説”を肯定した。
「岡崎さんは、もらえるのが梅の枝だと予めアタリを付けていたんじゃないかな。ラブレターが結んである。」
それにねぇ、と純子は続ける。
「クラシカルな恰好をしたラブレター売りは、顔に布覆面をしてるのが決まりなんだ。目だけを出して、残りの部分は白布でグルグル巻きにするという、ね? 元々はお公家さんの小遣い稼ぎだったってことだから。小遣い稼ぎはしたいけれど、しているところを知った人に見られたくないって理由で。」
――覆面男は、それが「節分のラブレター売りの決まりだから」という理由で、顔を隠していたのか!
純子は舞の表情を読んでニコと微笑むと
「烏帽子や水干といったコスチュームはなかなか用意出来ないけどさ、白の布覆面だったら何とかなるでしょ? だから仕方なく怪人は『覆面と花の枝』だけで、懸想文売りのオバケになった。」
と舞の考えを言い当て
「だから紙縒りの先には、恋文が結んであったんだと考えられる。」
と続けた。
「紙縒りの端が解れていたのは、とっさに引きちぎったからなんだよ。枝を持ったままだと目立つし邪魔になるからね。走って行方をくらますのには。」
すると、のほほんとした顔で二人の会話を聞いていた片山が
「紙縒りの先に恋文が結んであったというのは同感だけど、引きちぎったのは懸想文売りのオバケではないと思うな。」
と異議を唱えた。
「だって枝を捨てるのが目的ならば、少し走ってから目立たないよう藪の中にでも投げ込んでしまえば良いじゃないか。辺りはもう暗くなっていたんだから、街灯の真下にでも落としてない限り、まず見つからないだろう。」
「私、短距離ダッシュだったら自信はあるよ。」と舞は二人の間に、多少無理やりで割り込んだ。
「長距離を走り切るスタミナは無いけど。」
「ああ、それはね」と片山が柔らかい口調で応じる。「懸想文売りのオバケは、水口さんが追って来ないことを確信していたから考えなくて良いんだよ。」
――わけがわからないよ、何言ってんだコイツ! だって、現にあの時私は……
と頭の中で毒づいた舞だが
「あっ!」
と声を上げてしまった。
「里美が私を足止めするって、知ってたの?!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「逃げるなあ!」
後を追おうとする舞に「待って、舞。」と泣き笑いのような声で里美が呼びかけた。「膝が笑って、立てないんだよ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おそらく。」と片山は頷いた。
「だって岡崎さんは、大高桜の下に懸想文売りが来るのを予期していたんだからね。でもオバケの方は水口さんから怒鳴りつけられるとは思っていなかったから、思わぬ反撃に――反応って言ったほうが良いのかな――驚いたんだよ。花の枝を岡崎さんに手渡せば、と言うより恋文を渡せば任務完了って”段取り”だったのに。」
「なるほどねぇ」と腕を組んだのは純子。
「懸想文を手に入れたのは里美なんだ。オバケが突発事態により花の枝を投げ出して逃走。そうなちゃったから、舞の目を盗んで紙縒りで結んであるラブレターを回収したのか。」
「そんなトコだろうなぁ。だけど、本物のラブレターが岡崎さんの手に渡ったのかどうかは、確信が持てない。」
と片山は慎重そうに純子に応じた。
「枝に結んである懸想文は――須賀神社の懸想文売りだったら――いわば看板なんだ。落語の『首屋』と一緒でね。売り物の方は、懐に入れている。まあ、大高桜のオバケはラブレターを手渡せなかったとしても、姿を見せたことで半ば目的は達成したとも言えるから、どっちでも構わないんだけどね。」
「じゃあ……じゃあ私は、里美の邪魔をしてしまったってことなの?」
舞は混乱した。
「でも……それなら前もって段取りを教えてくれてたってイイじゃない。ずっと盟友だと思ってたのに。」
「いや……そこは、さ。岡崎さんは確信が持ててなかったんだと思うんだ。」
と片山が取り成すように舞いに言う。
「自分が、恋する相手からも好意を持たれているという自信がね。普段から仲が良くっても、それが恋愛感情と繋がっているかどうかは分からない。友情と恋愛とは別モノだ、って相手は思っているかもしれないだろ。それで岡崎さんは、水口さんに計画の全部を話しておくことが出来なかった。もしもフラれた時に恥ずかしいというか気まずいじゃないか。けれど信頼している水口さんには一緒にいて欲しかったんだ。」
「あー、だから岡崎さんは舞に立ち会いをお願いしたのか。」
と純子が合点がいったという感じの声を出す。
「黒歴史を葬るなんて変な口実を付けてね。だって賭けに敗れて『待ち人来たらず』で終わってしまったら、一人きりの帰り道が辛すぎる。せめて切磋琢磨してきた親友が横に居てくれたら、空元気でも胸を張って帰れるって。」
「それじゃ、覆面男が里美の片思いの相手だったってこと?」
と舞は頭を捻ってから
「いや相手はちゃんとラブレターを持って来たんだから……里美の心配は杞憂で、両想いで間違い無かったってコトか。」
と呟いた。
しかし直後に「でも!」と声を大きくすると「覆面男はオッカナビックリで近づいていたような気がする。どう思い出し直しても、両想いの女子に――両想いだったって分かった相手に――アプローチするウキウキ感は感じられなかった。」と片山の顔を睨んだ。
「里美だってビックリした感じだったし。あの様子が演技だったとは思えない。だって里美は脚本は書くけど、演じる方はド素人以下なんだから。アナタは何も知らないクセに勝手に偉そうな事を言ってるだけ。なにも分かってない!」
里美との関係、純子への感情、様々な思いが脳内を渦巻いて、終いには片山を金切り声で怒鳴りつけていた。
「声が大きいよ。」と純子が冷ややかな声で舞を窘めた。
「ウチの相方がビビッちゃってるじゃないの。……まあ片山クンは女性には手を上げないヒトだから、舞が殴り掛かってきても黙ってビンタ食らう心算なんだろうけど。でも、それは私が許さない。片山くんが全然平気だったとしてもね。」
舞に言い過ぎたと思ったのか、純子は片山の方を向いて
「大丈夫。私が守るから。」
と軽くお道化た。
そして口調を柔らかくして「考えてみてよ。」と舞の目を見た。
「片山くんは即座に真相を見抜いていたけど、ヒントを小出しにしていたことを。それはね、舞に自分で結論に辿り着いて欲しかったからなんだ。『皆まで言うな。あい分かった』って具合にね。」
そして「これは言わば微妙な感情に立ち入るホワイ・ダニット(なぜやったか)の恋愛推理。フー・ダニット(だれがやったか)の犯人当てじゃないってわけ。山狩りしてでも犯人確保なんて言い出したら……」
「それこそ『人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死ねばよい』か! あい分かった。」
と舞は大きく息を吐いた。
「カタヤマ氏、大変失礼をば仕った。」
「いや、いいんだ水口さん。のらりくらりとしか話が出来なかった僕が悪いんだから。」
潔く頭を下げた舞に、片山はひどく慌てた。
そして「実を言うと、誰が懸想文売りだったのかは僕にも分からない。」と口走ったのだった。
「え? なぜ?」と純子が不思議そうな声を上げる。
「そこはワンゲルの村上君一択でしょう。岡崎さんは黒歴史を灰にするのに、わざわざ彼に頼んでキャンプ場に連れて行ってもらってるんだから。その時に、灰は節分の夜に大高桜の下に埋めるんだって話題が出たのは間違いないんじゃない? たぶん節分の日には須賀神社に懸想文売りが出るんだというトピックスも。」
「いや村上君だけは有り得ないんだよ。」
と舞は主張した。
「小柄な村上君と比べてオバケは明らかに背が高かったし、それにオバケが村上君だったなら、里美が驚いたことの説明が付かない。だから里美が村上君に灰を埋めるのを知らせていたとしても、オバケは別人で間違いないんだ。」
「そうかー」と純子は天を仰ぎ「舞の言う通りだね。」と肯定した。
そして片山に「軍師さま、お知恵を拝借しとうございます。」とねだった。
「データ不足、証拠不足は重々承知の上で! 頼むよ、このままじゃ何だか消化不良。」
「なんだキッシーも結構な野次馬じゃん。」
と舞は可笑しくなった。
「でも片山君、私からもお願い。理由は以下同文・右に倣えで。」
片山は「困ったな」という表情をしたが口には出さず
「じゃあ一つの案として出してみるけど、これが正解だとは信じないで欲しいんだ。ものすごく恣意的な前提条件が必要だから。」
と断りを入れた。
「まず前提条件として、岡崎さんが『節分の夜に大高桜の下に黒歴史を埋める計画』と『節分の日には懸想文売りが出るという京都の風習』を、一緒に黒歴史を燃やした村上君にしか教えていなかったものとする。ここはいいよね? 特に黒歴史のほう。あっ! 水口さんには話したんだから『水口さんと村上君以外の誰にも』って括りで。」
「了解。」と純子が応じた。
「その前提が無かったら、それこそ男子の誰でもが容疑者の可能性アリってことになっちゃうからね。絞り込みは不可能。懸想文売りのことだけなら知識として知ってる人はいるだろうけど、岡崎さんの黒歴史始末の事を予め知っていなければ、わざわざ節分の夜に大高桜の下でオバケをする必然性が無い。『単なる偶然』は排除できる、で間違いないと思う。」
「恣意的に、の意味が『ルール無用で・勝手気ままに』というのであれば、片山君の前提は強ち間違っていないと思うんだ。里美のキャラを考えればね。」
舞は考え考え意見を口にした。
「秘密主義とまでは言わないけれど、里美は思いの外、口が固い。脚本書きを趣味にしてるくらいだから、一番の話し相手は自分のノートパソコンみたいなトコがあるんだ。」
そして少々忌々しい想いで言う。「私にすら黙っていたくらいなんだからね。節分の夜の本当の計画を。」
「人に言えない秘密って、誰でも何かしら必ず持っているのが普通なんじゃないかな? それがどんなに親しい間柄であってもね。」
片山がしみじみと、妙に実感の籠った口調で微苦笑する。「むしろ親しいからこそ言えないってコトも有るだろうね。」
――片山君の人に言えない秘密ってなんだろう?
舞はちょっとだけ興味を惹かれたが、純子が
「片山クンにはね『私の下着を見たいだなんて言ったら、秒で目を潰すよ!』って宣言してあるんだよ。」
と混ぜっ返してきたので、思わず笑ってしまった。
けれども「上手くはぐらかされたな……」という微細な引っ掛かりは残ったし、同時に片山という恋敵に対しての敵意が既に消えてしまっていることにも気が付いた。
さっきまで頭の中で”愚者”呼ばわりしていたのが嘘のようだ。
――私にとっては、いまさら如何でも良いことだから……ね……。
「妙な横道に逸れちゃったけど、ハナシを元に戻そうか。」
と純子が明るい声で提案する。
「閑話休題ってヤツだ。で、前提が割と正しそうだっていうと、どうなるの?」
「うん。岡崎さんが村上君だけに節分の夜の予定を告げていたのだとすればね、ルートは二つに分かれるんだ。」
と片山は受けた。
「一つは岡崎さんの意中の相手が村上君本人だった場合。」
「ほえ?」と純子が間の抜けた声をあげた。
「それ以外の可能性が有り得るの? だって状況証拠というか舞の目撃情報からして、岡崎さんは”村上君が来るものだ”と考えていたわけでしょう? 別の男子が来たからこそ、驚いたんじゃない?」
「ええっ?」と今度は片山が驚く。
「キミ、懸想文を説明するのに『シラノめく』の句を挙げていたじゃないか! 僕はてっきり村上君がシラノ・ド・ベルジュラックを引き受けた可能性を指しているんだと考えてたんだよ。」
シラノ・ド・ベルジュラック。実在の作家・哲学者だけど、エドモン・ロスタンの戯曲でより有名な人物だ。
ロクサーヌという美しい従妹に密かに恋するが、言い出せないままにクリスチャンという美男子とロクサーヌとの恋を取り持つ。
映画化もされていて、舞は『愛しのロクサーヌ』を観て泣いたことがあった。
「その可能性が有ったか!」と純子が自分の頭を叩いた。
でも直ぐに「ああ可能性だけで本筋ではないんだね。」と納得した様子。
「だから片山クンは第二ルートに振り分けた。」
ただ舞はそこまで理解が進んでいない。
だから「二人で納得し合ってないで、私にも解るように説明してよ。」と質問せざるを得なかった。
「はいはい、ええっとね。岡崎さんがクリスチャンのことを好きだとして、村上君にシラノを頼んだとするでしょう。」
純子の説明に、そこまでは分かる、と舞は頷いた。
「すると節分オバケは、村上君かクリスチャンのどちらかってコトになるよね?」
「あ、そうかぁ。」
舞もそこまで言ってもらえれば理解が出来る。
「オバケが、よく顔をつき合わせている小柄な村上君なら当然分かるだろうし、クリスチャンであっても間違えない。だって好きな相手だったなら、遠くからでもシルエットだけでも不思議と分かっちゃうもんねぇ。」
「そういうこと、そういうこと。」と純子がブンブン頷く。
「隙あらば見ちゃうっていうか、知らず知らずの内に目が追ってるとかね。実際、ものすご~く子細詳細に観察しているからなんだろうね。視力というモノに本当に物理的なパワーが備わっていたとすれば、ワタシのお尻は片山クンの眼力で、蜂の巣みたいに穴だらけになってるよ。」
舞は堪らず噴き出した。
「純子、それは片山くんに失礼。仮にも軍師サマになって頂いた賢人だよ。」
「大丈夫だよ、水口さん。」と片山はニコニコ笑った。
「今程度の悪口雑言に怯んでいたら、岸峰さんとトモダチ付き合いするなんて無理だから。」
――?!
舞は声が出ないほど驚いた。
――キッシーって、そんなキャラだっけ? 準ミスで、高嶺の花で、皆が憧れるアイドル的存在じゃなかったのー!
「うはははは!」と純子が高笑いした。
「水口舞! どうやら私の真の姿を見てしまったようだな。」
けれども少し恥ずかしそうな表情になり「他の人には黙っててよね。これでも結構必死で猫かぶってるんだから。」と告白した。
「片山クンだって見かけほど”無害な善人”ではないんだよ。実のトコロ老獪って喩が相応しい相当な狸オヤジでさ。私と片山クンとは夏に一緒に入院してたでしょう。で、その間に肝胆相照らす仲に成らざるを得なかったというか……相互確証破壊のミサイルを握り合う関係になったワケ。これはもう『共に白髪が生えるまで』監視し合うしかないじゃない?」
「いいの純子? 私に二人の間の秘密を知らせてしまって。」と思わず舞は訊いてしまった。
――仲良くなったのは吊り橋効果のせいだけじゃなかったってことか!
「どうする相棒?」と含み笑いで純子が片山に振った。「秘密を知られた以上は……」
「うーん」と片山は一度唸ると「まあ仕方がないかな。」と頷いた。
「水口さんにも相互確証破壊のサークルに加盟してもらわないと。」
そして舞に向かって薄く笑い
「雉も鳴かずば撃たれまい、って慣用句の意味を理解しておくべきだったね。」
と綺麗にウインクを決めた。
「水口さんが岸峰さんのことを観てる目は、単に客演女優の親友を、最大限に魅力的に見せるために注視している眼差しとは違っているね。強烈に自己の性癖を含んだ視線だ。集客力は口実で、自己の欲望の赴くままに書かれた脚本だから。正直なところを言えば、岸峰さんは少々困っていたんだよ。」
――片山君が言っていた「人に言えない秘密って、誰でも何かしら必ず持っているのが普通なんじゃないかな? それがどんなに親しい間柄であってもね。」というセリフは、自分自身について語っていたのではなかったのか。……私に向けて――私の性癖について――喋っていたんだ。それに加えて『人の恋路を邪魔する奴は』は、里美と村上君の事だけじゃなく、純子と片山君との関係についても含んでいるんだ。
舞の顔色を読んだ片山は「いまさらだけど」と声を朗らかなトーンに替えた。
「水口さんの性癖は誰しも表には出さないだけで、いや出せないだけで、そんなに恥ずべき事ではないと思うんだよね。僕だって岸峰さんに対しては、同じような妄想に駆られることが無いとは言えない。キミの脚本が大当たりなのは、ヒロピンという要素が一般的にも広く”刺さる”構成成分であるからだとも言える。スーパーヒロイン物やヒーロー物で、”ピンチ”とか”やられ”要素が皆無だったら退屈だろうからね。」
「一般論として片山くんが言ってることは良く分かるんだよ。」
と純子が不承不承後を受ける。
「私だってドキドキしながらアニメ観てたからね。……でもねぇ、自分がブルマ穿かされて十字架磔にされるとか、白レオタードで白目舌出し死体とかを演じる方に回るとなると、やっぱり恥ずかしいわけですよ。そんなにヒロイン体質って性格でもないんで。」
「解ったよ。今までゴメン。」と舞が謝ると、純子は「これで舞も、相互確証破壊サークルの構成員だね。仲良くして行こう。」と微笑んだ。
「この先、エロ死体役は勘弁させてもらうけどね。なんつっても嫉妬に駆られた片山クンが大魔王化してしまうとヤバいしさ!」
「大魔王化ってなんだよ。」と片山は苦笑した。
「じゃあ、水口さんもサークル員になったということで、この件は”市が栄えた”ってことで終わりにしようか。」
そして「そろそろプレートが固まった頃だろう?」と純子に促した。
「今日中に菌株の単離するんじゃなかったの?」
しかし純子は「ここまで来て、今さら無菌室に戻れるかぁ!」と応じた。
「覆面男が誰だったのかの結論が出てないじゃん。」