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諜報フリクション  作者: Y99
6/6

中心部にて

「依頼は来てるかな」

 

 玄関を抜けると、中央広間と柱沿いの道には普段通り、黒いスーツを身に纏う怪しげな男たちがうろうろしている。ここに来るものはハンターとコレクター、計約500人。個人を区別する判断材料はアバターの容姿のみで、頭上に文字が浮かんでいたりはしない。

 1階は玄関から見て手前に中央広間があり、広間の奥に見える扉の先はオークション会場だ。オークション会場はキャパシティが300人ほどの大きさで建物全体の敷地面積の10分の1にも満たない。

 創は広間から伸びる左の方の階段を登り、2階左フロアにある3つの扉の内から一番右側のを開き、部屋に入った。この部屋では主に「PK依頼」の受注が出来る。

 

 誰かの恨みを買ってるやつがすでにいてくれると良いんだけど……お、いるじゃん。

 

 床には幾何学模様の白茶のタイルが張られ、部屋の中央には今にも消え入りそうな火がくねくねと揺れる燭台が置かれている。その薄暗い部屋の中で創は携帯端末を取り出し、画面の「取引リスト」をクリックした。そしてその中から<ARU World>の「PK依頼」を探し、手頃な依頼を見つけた。




  

-----------------------------------------------------  

52/55

 

 <ARU World> <PK>


  

   《名前》:ぱるぱと

   《活動区域》:商業都市バラカン周辺

       

       

          

       《対象のアバター画像》




   《報酬》:3000ファム

  《依頼完了条件》:PK時の録画を依頼主へと転送(FRUIT内で転送可能です)


 【説明】

  「FOAM」内で報酬を受け取る際、代理人に向かわせてください(機密保護のため)

  代理手数料として報酬の6分の1を予め引かせて頂きます

------------------------------------------------------




 そのページには十数個のPK依頼が掲載されていたが、創ことハジの活動拠点にマッチする依頼はこれだけだった。

 

「「受注する」をクリックして、完了と」


 3000ファムか。全然悪くない。ワールドアイテムが破格すぎるだけだ。

 

 部屋を出ると、端末に映る『取引リスト』の<PK>の表記がついているページだけが消えた。オークション以外の、依頼を受注して取引をするような場合には、今回のように各取引に応じた部屋の中で行う必要がある。そして対応する部屋の中に入ると「FRUIT」内のどこかに存在する3次元空間に強制転移させられる。すると『取引リスト』に新しくページが追加され、誰もいない空間でじっくりと吟味し受注できる。

 その場所には自分以外のハンターは決して訪れない。仮に俺と同じように2階左フロアにある3つの扉の内から一番右側の部屋に他のハンターが入ったとしても、そいつはどこか別の3次元空間に飛ばされる。

 

 このように「FRUIT」内には無数の空間が存在しているため、結果として建物を外から見ると、とてつもなく巨大に見える。取引を安全に行うために、特定の人物から受注を受ける際は今回のような措置が取られている。

 

 「FRUIT」からログアウトする前に、ハンターランキング見とくか。多分まだTOP30には入れてると思う。

 

 創は中央広間に伸びる左右の階段の間に置かれた、電光掲示板に向かう。そこにはコレクターが各ハンターにポイントを付けて格付けした「ハンターランキング」が掲載されている。1位から30位までの有能なハンターたちの名前と総獲得ポイントが順位順に並んでいるのだ。

 

「俺は……あった、26位か」

 安堵するように呟いた。

    

 ランキングに入っているだけで一目置かれ、コレクターたちから直接依頼をされやすくなる。「オークション」や「取引リストからの依頼」とは違い、コレクターから直々に指名を受けて依頼をこなすと報酬は通常の倍近くなる。

 

「よし、ゲームするか」


 創は順位の確認を終え、電光掲示板の前でログアウトをした。




◇◇◇




「いざゆかん、PK」

 街の中心部近くに再び降り立ったハジは、気合を入れるように頬を叩いて言った。

 

「まずは武器を買おう」


 以前とは違い街には明るさがあって、人々の往来も活発になっている。大通りはすぐそこで途切れて、城の建っている巨大な岩場を取り囲む大きな道と接続している。一見すると広場のようにも思えるが立派な道である。そして、岩場に沿うようにして大きな建物が立ち並ぶ。遠目から看板を見ると「バラカン商会」、「ザロア古書店」、「アズール骨董堂」と書いてあり、いかにも商業都市らしい光景だった。

 

 ラッキー。この辺りならすぐに武器屋も見つかるだろう。とりあえずは大通りを抜けて、この道に入るか。

 

 ハジは大通りから出て、接続する大きな道に入った。道幅は大通りよりもさらに広く、道の中央には等間隔に木が植えられていて、梢から覗く灰色の雲は現実となんら変わらないように見える。道の周囲には中世ヨーロッパ風の小洒落た住宅街が立ち並び、非現実を思わせる。しばらく右回りに歩き続けていると、剣と盾のエンブレムらしき看板がついた建物があったので、のれんをくぐって店内に足を踏み入れた。

 

「いらっしゃい、ここは武器と防具の店『ファイナル・バラカン』だよ!」

 正面のカウンターの奥に座った年老いた白髪の男が、店に入るなり言った。

 

「ファイナル・バラカン……?」

 俺は今どきの小学生でも付けないようなその恥ずかしい店名にうろたえた。

 店内の壁一面に剣や斧、鎧や籠手といった、RPGらしい装備がいくつも掛けられているので武器屋で間違いはないらしい。

 

「あ、あの。この店で一番安い武器をください」


「なんだってええ? この店で一番安い武器だあ? そりゃおめえ、これだろうよ」

 再確認ともオウム返しともとれる返事をしたあとに、おじいさんは壁にかけてあった短剣をとって俺に見せた。

 

「これだあよ。40アルマ。ほれ」

 俺に近づいて、短剣を差し出し、もう一方の手のひらを見せて言う。

 

「ぎりぎり足りますね……。ですが、アルマの渡し方が分からないです」

 俺は困り顔をして正直に伝えた。


 すると、

「ああ、よく見たらおめえさんホウジンかい。この街にはいつ来たんだい」

 と少々驚いた顔して言った。


「すいません、ホウジンが何かも分からないです」 

「ホウジンつうのは、おめえさんみたいなみすぼらしい格好をした、遠いどこからか来たやつらのことをそう呼ぶんだよ」


 ようはプレイヤーに対してNPCがそう呼んでいるのか。以前もどこかでそう呼ばれたような……あ、ナディンに会った時にいたあの二人の兵士か。あいつらもにもそうやって呼ばれたな。

 

「なるほど。ありがとうございます」

「で、アルマの渡し方っつうのはな。前提として、互いが直接触れなきゃあならん。つまりはなあ、こうやって、俺の手とお前さんの手を重ねて……。ほれ、「40アルマ」と言ってみいい」

 

 おじいさんの指示通りに「40アルマ」と言う。

 

 その瞬間、俺の体からエメラルドグリーンの煌々とした光の粒が溢れ出る。全身を包むようにして現れたその光の粒は、刹那、俺の右手に一極集中しとどまる。そして程なくして、重ね合わせたおじいさんの左手に流れ出るように吸収された。

 

「これは凄い!」

「そうかあ、もう慣れたもんだよ。注意すべきはなあ、渡す方が手のひらを上に重ねるんじゃぞ」


「これはもうもってけい」

 おじいさんはそう言って右手に持っていた短剣を俺によこす。

 

「それでえ、おまえさん。残りのアルマはどんぐらいだ?」


 俺はステータスを開き、「残りは10アルマです」と返した。

 

「ふむ。アルマの管理にはきいつけろよ」

 含みのある言い方をして心配そうな目でこちらを見る。

 

「ん? どういう意味ですか?」

「ああ、何でもないよい。まあ、とりあえずはアルマはあまり使わないこったな」

「はあ、わかりました」


 アルマでの初めての買い物を終えた俺は、おじいさんの最後の言葉が引っかかりつつも店を出る。そしてまた大通りに戻り、一気に南下した。門をくぐり無数の屋台を通過して、やがてバラカンの街から出た。

 

「よーし。ついに武器をゲットして街から出たぞー!」


 眼前には見渡す限りの土、草、人。そして、種々雑多な獣たち。バラカンを拠点とした無数のプレイヤーが、あくせくと平原に跋扈するモンスターたちを狩りまくっている。

 

「これはゲーム的な光景だなあ」

  俺は思わず呟いた。

 

 

 

 



 


 

 

  

 


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