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諜報フリクション  作者: Y99
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道化の予言

「チョットそこの人待ってクダサ〜イ」

 すぐに顔を逸しても無駄だった。俺は小道具男に呼び止められた。

 

「何してるんですか、そんなところで。そして何の用ですか?」

 動揺を悟られぬよう、少し険しい顔つきで返事をする。

 

「そんなコワイ顔シナイデ〜」

「ボクはただ誰でもイイカラ見てほしいものがあったダケダヨ」と男は言って立ち上がった。

 

 頭上に『ピーリオ』という白い文字が浮いているから、ただのNPCか。しかし妙な姿をしている。ダボダボとした濃い緑色のズボンはまだ良いとして、上は目が痛くなるほどに極彩色な服を着ている。そして首元にはひらひらとした白い襟がついている。こんなのをどこかで見たことがある気がするが、思い出せない。

 へんちくりんな格好をした男は、考え込むハジをよそにぴょこぴょこと跳ねて「ねえねえ、コッチコッチ」とこちらに向けて手をはためかせている。

 

「そうだ思い出した! ピエロだ」

 この格好は間違いなくピエロ! 大通りの一角でこいつは一体何をしてるんだ……

 

「早くキテヨ、見せたいモノがアルノ!」

 誰でも良いと言っていたくせに俺に見せたがるのは気のせいだろうか。できれば今すぐここから離れたい。

 

「ヒドイネ! ぜんぶ聞こえテルヨ!」

 ――!?

  

 なぜバレた? 声には出してないぞ……いや、そんなまさかな。


「そんなまさかダヨ!」

 ――!! 


 誰が見ても明らかに動揺をしたハジは、

「なんで分かるんだ!」と声を荒げて男の方へと歩み寄った。

 するとピエロは「ヤット、きてくれたネ」と嬉しそうにしている。


「どんな手を使って俺の心を読んだんですか」

「どうも何もスケスケつるつるダヨ!」


 喋り方もいちいち癇に障るピエロは俺の心を本当に読めるようだ。イライラするけど少しこいつに興味がある。NPCなのにプレイヤーの心が読めるなんて、かなり優遇されたポジションにいるやつじゃないか。

 

「じゃあ俺がなんでこの大通りにいるか当てられますか」

 とどこまでスケスケなのか気になったので聞いてみた。

 

「ソレは分からナイ」

「なるほど。その時点で考えていることしかわからないんですね」

「ソナノ」


 意外とあっさりとした答えが帰ってくる。このピエロは白化粧はしておらず素顔を晒しているが目鼻立ちがはっきりとしているので胡散臭さは消えていない。

 

「じゃああなたがさっきから俺に見せようとしてたもの見てあげるので、そのテレパシーについて後で詳しく教えてくださいよ」と条件付きで用件を聞いてあげることにした。

 

「分かったヨ! じゃあ見せるネ」


 ピエロは置いてあった小道具――黄色い羽が二つ生えたペンと数枚の紫色のカード――を手に取り、俺に向ける。

 

「これをツカッテ今から占いをするヨ!」

「占い? ピエロなのに?」

「ピエロだからだヨ」

「ん?」

「どうでも良いデショ! 今はコッチ」

 

 ふてくされた顔をして手元から一枚のカードを抜き出して、それを俺に差し出した。


「これ持ってテネ。オモテ面の絵柄も覚えテ」


 手渡されたカードのオモテには覚えるべき絵柄など何も描かれておらず、ただ真っ白である。

 

「なんも描いてないけど?」

 ずっとばかにされているだけような気がして、こいつに対しては礼節を持って接することを辞めた。

 

「せっかちダネ。もう一度よくみてごらン」


 ピエロは黄色い羽の生えたペンを空中に向けて何かを走り書きしたかのように振った。すると持っていたカードに人型のシルエットがじわりと浮かび上がる。

 

「何だよこれ! 人が出てきたけど」

「まだ目をハナサナイデ」


 そのシルエットは黒塗りで直立しているということしか分からない。ピエロは次に、ペンを俺の頭の先スレスレの位置めがけて勢い良く放り投げた。 


「どりゃあ!!  目はハナサナイでヨ!」


 突然の出来事で驚き体がすくんだ俺は「ひゃ!」と情けない声を出してしまったが、ピエロの言うとおりにまじまじとカードを見続ける。人型のシルエットは唐突に右手方向に体を向けて、パラパラ漫画がめくれるようにカクカクとしながら、右足を動かし、左手を動かし、やがてその場で歩行を始める。

 

「おいピエロ。よくわかんないけど歩いてるぞこれ」

「もうすこしダ。マダだヨ」


 真っ白な世界でしばらく歩行をし続けていたシルエットは突如として走り出す。歩行のときよりも明らかに沈みこむように膝を曲げて、腕を高く上げている。

 こんなに走ったら絶対息切れするだろうなというぐらいの時間走り続けていたが、何の前触れもなく、何かに足を引っ掛けたかのようにして大きく前に吹っ飛んだ。

 

「なんか……転んだぞこいつ」

「おオッ!! ついにヒントだネ!」

 軽く握った拳をもう一方の手のひらに叩いてピエロは言った。

 

 シルエットは立ち上がる、走り出す、転ぶ。これを何度も繰り返す。どこかに向かっているのだろうか。一体俺は何を見させられているのだろう。

 

「もういいか? ずっと同じことの繰り返しだ、ただ走って転んでるだけ」

「ンー? ホントにそれダケ?」

「ああ」


「そッカ、じゃあぼくもワカラナイ」

 ピエロは冷めた顔をして興味なさげに返した。


「なんなんだよ一体。わけのわからないもの見させられてさ」

 さっきこっちにペン投げてきたのも忘れてないからな。

 

「ホントはもっとワカリヤスイはずナノ!」

「分かりやすいってなにが」

「ウゴキ!」


「モットいろいろ起こル!」

 興奮して顔を真っ赤にしながら訴えてくる。

「ぼくは未来をミセル、ココに出るのは君のミライ……」ピエロは涙ぐんでか細い声で言った。

「テレパシーに予知能力って……全然ピエロらしくないじゃん」

 

 泣きそうになる様子を見るとなんだかこっちが悪いみたいで、いじらしい。ピエロの言うことが本当なら俺は未来であのシルエットのように何度も転ぶことになる。そんなことあってたまるか。

 

「いいネ、とにかくそういうコトダカラ!」

「お、すぐ元気になった」

「ハイ! 30アルマちょうダイ」

 情緒の不安定なこのピエロもどきはまた訳の分からないことを言い始める。


「もうこれ以上俺を振り回さないでくれ!」

 なにがなんだかよくわからなくなった俺は混乱して、その場から逃げるように大通りの更に北へ向かって走り出した――

スローペースはご愛嬌。

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