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33 鶯邸 阿漕の提案

今日は短いです。

月詠(つくよみ)の鏡・・・ですか?」


(うぐいす)は、「さぁ?聞いたことないのう。」と首を傾げた。


「書物は好きな方だが、どうしても、我が家で手に入るものは限りがあるのじゃ。」


申し訳なさそうに言う。


「いえ。斑の姫も、一般的には、ほとんど知られていないようなことを言っていたので、きっと、相当珍しい物なんだと思います。」


「その月詠の鏡を見つけて、どうしたいのじゃ?」


鶯には、唐錦が狐だと思っていることを伏せた上で、何か悩みがあるらしく、その解決に役立ちそうだということを説明した。


「悩み?それでは、公賢さまのところに言っていたのは、その相談ということなんですね。」


横で聞いていた阿漕(あこぎ)が、口を挟む。


「まぁ・・・そんなところかな。」


千鶴が曖昧に頷くと、残念そうに、


「なぁんだ。愛ではなかったのね。つまらないですわ。」


阿漕の予想もある意味においては、正しかったことは告げず、苦笑いした。


「それで、その唐錦の君は公賢どのに断られたと言っておったと思うが、どうして、千鶴がそんなものを探しているのじゃ?」


鶯が、

「まさか、また櫛を取られて脅されているのか?」

「違います!」


一体、櫛を取った前科があるのは、誰だとおもっているのか。


「そんなことをするのは、鶯の君くらいです。」


唐錦は誘拐してきたわけだから、より質が悪いとも言えるが。


「唐錦の君と少し話をしましてね。なんだか、助けてやりたいような気持ちになったのです。共感した・・・というか。」


「その悩み、とやらにか?」


「えぇ。そうです。」


事は権大納言家の血筋に及ぶ話だ。おかしな噂が立てば、権力に影響する。軽々しく口にするべきではない。


鶯も阿漕も、いくら好奇心旺盛でも、それくらいの分別は持ち合わせている。それ以上の追及はしなかった。


「わかった。書物などを取り寄せて可能な限り探してみよう。」

「助かります。」


阿漕が、うーんと首を捻って、


「珍しいものというと、置いてある場所も自ずと限られてくるのでは?」

「確かにな。」

鶯も、頷く。


「三種の神器と一緒に天上から遣わされたのであれば、内裏や帝と繋がりの深いところにあると考えるのが自然じゃ。」


内裏。つまり、帝の居住区域だ。しかし、それでは、とても、手が出せない。


「そうですよね。内裏以外で、他に関係が深いというと、寺院の類いでしょうか?」

「お伊勢さんかのう?」

「かなり遠いですけど・・・」


二人の会話に、千鶴も頭を抱える。伊勢神宮まで行こうとすると、数日かかる。ちょっとした旅だ。


そのとき、阿漕が、素直な疑問を口にした。


「ふと思ったのですが、どうして、斑の姫はその存在をご存知だったのでしょう?」

「斑の姫は有力な貴族の家柄。帝にも近く、そういった話も耳にはいるのやも知れぬ。」

「であれば、高位な貴族であれば、ご存知かもしれないですよ。鶯の君のお父上を通じて聞いていただいてはいかがですか?」


千鶴は期待をこめて鶯の顔を見た。しかし、鶯は、「無駄じゃ。」と、首を横にふった。


「もし月詠の鏡とやらが本当に真実を映すとしたら、千鶴の目的がなんであれ、それを探すことを快く思わぬ者も必ずいる。宮中は、権謀術数がうずまいておる。さぞかし不都合な真実も多かろう。そんなものを尋ね歩いているなどと噂になれば、下手すれば、謀反の疑いをかけかねられん。」


確かに、鶯の言うことは道理が通っていた。


「その鏡の存在自体、おいそれと口にしないほうが良い。」

「しかし、それでは、さすがの千鶴さまも探せませんよ。」


千鶴も「うーん」と唸って、

「まさか、宮中に忍び込むわけにもいかないしなぁ。」


「宮中は、先日、不審者に入られて以来、鉄壁の警護でガチガチじゃ。忍び込んだが最後、近衛の大将、中将が代わる代わるお出ましになって、あっという間にお縄にされる。」


宮中警備にあたるは近衛府。その中将といえば、あの青竹色の着物の男。斑の姫の恋人を捕まえ、怪しげな呪術に関わろうとしていた。

近衛中将にして、蔵人頭。

しかし、二度の侵入を許す男ではないはずだ。


「そうですよねぇ。いくら千鶴さまが身軽だといっても、内裏に泥棒なんて・・・あぁっ!」


話の途中で、突然、大声をあげた阿漕に、鶯と二人、面食らっていると、


「いるではありませんか!それこそ、すでに忍び込んだものが!」


興奮ぎみに、目を見開いて、鶯の袖を引っ張っている。


「宝物庫に忍び込んでいるのですから、その者に聞けばいいんですよ!」


「それって、まさか・・・」


阿漕が、意気揚々と答える。


「もちろん、黒拍子です!」


千鶴と鶯は、がくりと、肩を落とした。

黒拍子。最近、都に現れる、泥棒。高位の貴族ばかりを狙う。

一度だけ、内裏の宝物庫に忍び込んだらしい。


「いくらなんでも、浅はかすぎる。黒拍子を捕まえるなんて無茶だ。もう少し、現実的に考えんか。」


鶯の言葉に、千鶴も、「うん、うん。」と同意した。

近衛府と検非違使が総出で、捕縛せんと動いているにも関わらず、その尻尾さえ全く掴ませないのだ。そんな相手を、多少剣が達者な程度の千鶴が、捕まえられるはずがない。


阿漕が、拗ねるように頬を膨らませて言う。


「いい手だと思ったんですけど・・・。」


三人はまた、振り出しに戻ってしまった。




土日は投稿、お休みです。続きは来週月曜に。

来週から、「起承転結」の「転」パートに入るので、ちゃんと話が動きます。

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