10 鶯の悪夢
本日2本目の投稿は、短めです。
鶯は、真っ暗な闇の中に、1人で立っていた。
もう、何度も見た夢。
遠くから、水の流れるような音がする。この夢の中で、音が聞こえるのは、初めてだ。
(まさか・・・三途の川?)
いや、それにしては音が弱い気がする。チョロチョロと、隘路を流れるような軽快で長閑な音。
その音のするほうに、行けないだろうか。
鶯は、よいしょと、足を持ち上げようとしたが、無駄な試みだった。
足元は、ぬかるんだ何かに、枷のように捉えられ、動かすことも、ままならない。
その最中、唐突に、鶯は、気がつく。
(あぁ、あれが来る。逃げなければ!)
何度も、何度も、何度も見た夢。
鶯の脳が、身体の全神経を伝って指令を出す。
『動け!』
その意思とは裏腹に、足がどうやっても持ち上がらない。
膝から上が、グッ、グッと虚しく反転する。
腿に両手を添え、何とか、ぬかるみから、引き抜こうとした。
しかし、その甲斐なく、もたもたしている間に、膝までぬかるみに捕らわれ始めた。
逃げなければ!!
逃げなければ!!!
必死でもがいている間にも、膝から腿、腰へと見えない何かにからみとられ、きつく固定された。
動けない。
あれが・・・あれが、来てしまう!!
拘束は腹、胸へと及び、やがて身体全体が締め付けられる。
(来た・・・!?)
目には見えない、重たい何に全身を巻き取られる。そして、それは、そのまま、頬を伝わり、口の中へと侵入してきた。
「はっ、はっ、はっ」
苦しい。重く冷たい何かで、息がつまる。
まるで、溺れているかのように。
目の前が真っ暗になり、意識を失いかけたとき、胸の中心に、ぼんやりと、温かいものが灯った。
その温かな塊は、胸全体を覆うようにじんわりと、広がっていく。
それと同時に、鶯は、息を吹き返した。
「ッ!!はぁっ、はぁっ!!」
荒くはあるが、呼吸ができる。
千鶴から借り受けた櫛のお陰だ。いつも、櫛を胸に抱いていると、その場所から温かな光が湧いててきて、守ってくれる。
身体を拘束していた、何かが、徐々にほどけてくのがわかった。口許から、首、肩へと。
その時、鶯の目の端に、何かがヒラヒラとはためくのが見えた。
とっさに、手を伸ばした。
今しがたまで、きつく締め付けられていた腕は重く、ぎこちない動きだったが、鶯の指先が、何かを掴んだ。
それを思いっきり引いた。と、同時に、そのまま、意識が遠退いていった。
続きは明日。