居場所
町の電気屋さん、町の休憩所のスピンオフです(*´-`)
あたしたちは双子の狐。
仲良く仲良く、暮らしてた。
仲良く仲良く、暮らしていたけれど。
居場所が消えることになっちゃって、あわてて子供にのっかった。
居場所が消える日、お参りに来ていた人のおなかにいた子どもにのっかった。
居場所が消えたら、あたしたちも消えちゃうのよね。
居場所と一緒に消えてもよかったけど、ちょっとだけ、欲張っちゃったのよね。
だって、人間の暮らしが、とても面白そうだったんだもん。
だって、人間の暮らしを、見守りたいって思ったんだもん。
あたしたちは双子の狐。
あたしたちと同じ、双子の人間の背中にのせてもらった。
誰かの願いを叶えるのは、これで最後。
最後の願いを叶えてあげるから、入らせてね?
無事に生まれることができるよ。
健康に育つことができるよ。
毎日笑う事ができるよ。
あたしたちは双子の狐。
ずっと仲良く暮らしてきていたから、人間の双子もずっと仲良く暮らしていくと思ってた。
人間の双子は、ずっと一緒には、いないみたい。
お嫁さんになって、離れ離れになっちゃった。
一人は東に、一人は西に。
人の時間は短いから、また会える日までさようなら。
命をつなぐのを見守ったよ。
命を何度も見送ったよ。
命をいくつもいくつも見届けたよ。
ずいぶんぶりに、同じ場所で笑い合ったよ。
また一緒に仲良く仲良く暮らそうと、あっちに行ったり、こっちに行ったり。
居場所のないあたしたちは、人に入り込む機会がない。
居場所のないあたしたちは、どこかに留まるすべがない。
居場所のないあたしたちは、そのうちふわりと消えてしまうしかない。
居場所がないあたしたちに、人の願いを聞き届ける手段がない。
……人間に祀られなければ、消えてしまうもの。
もう消えるかな。
もう消えそうだね。
消えたらまた一緒に生まれようね。
二人で仲良く漂っていたら、場所をくれる神様が現れた。
場所をなくして、存在が消えそうなあたしたちを見つけてくれた、神様。
一緒に人間たちに寄り添ってほしいんだって。
一緒に人間たちの暮らしを支えてほしいんだって。
一緒に人間たちを守ってほしいんだって。
漂っていた時間の長すぎるあたしたちには、人の願いを叶える力がない。
力がなくなってしまったあたしたちにできるのは、人に入り込む事ぐらいだけれど。
力がなくなってしまったあたしたちにできるのは、自慢の炎を揺らめかせる事ぐらいだけれど。
あたしたちは、人が大好きだったから。
人に入って、人の暮らしに寄り添う事が楽しくてたまらない。
人に入って、人の暮らしを楽しめることが楽しくてたまらない。
人に入って、人を守ることが、とてもとてもうれしいの。
人はとても楽しいけれど、人はとても弱いから。
人はとても愛おしいけど、人はとても残念だから。
悪意のある人は、とても手がかかってしまうの。
善意を喰らう人は、とても許したくないと思ってしまうの。
たとえば、人にすべてを押し付けて欲望をかなえようとしたり。
たとえば、人に罪をかぶせて知らぬ存ぜぬを通そうとしたり。
許せないわ?
許せないわよね?
あたしたちが大好きな人間を、あたしたちが許したくない人間に潰されてなるものですか。
「聞いてよ!!町内会のガラポンで温泉当たった!!」
「いいねえ、行ってきたらいいよ!!」
「でも男一人で温泉?ちょっと寂しくない?」
「ひょっとしたらいい出会いがあるかもしれんがね!」
「じゃあ、僕も一緒に行こうかな!」
「ええー、男二人で?まあいっか!一緒に酒飲もうぜ!!」
神様がついてるから、大丈夫だよ?
おかしな計画なんて、ぜんぶあたしたちが吹き飛ばしてあげる。
書類の偽装に、アリバイ偽装。
人間関係のトラブルを装った、計画殺人事件。
ぜーんぶ、ぜんぶ、燃やしてあげる。
あたしたちの火は、そんじょそこらの消火器じゃ、消せないのよ?
「ねえねえ、テレビ見た?!俺のいた会社、燃えちゃったよ!!」
「見た見た!タバコの不始末だったんでしょ!!」
「俺のところに警察から電話かかってきてさあ、ねえ!柏君!!」
「べろんべろんに酔っぱらってるのに、二時間前のアリバイはとか言われてるんだよね、笑っちゃうよ!」
「旅館の女将さんに電話に出てもらって大変だったんだから!!」
「ふーん、で、お土産はどれだね!!はよちょーだいよ!!!」
おかしな書類は全部消炭になったもの。
おかしな証言映像はすべて消炭になったもの。
おかしな証拠は何一つこの世に存在していないもの。
大好きな人間が、神様と一緒に買ってきたおいしいおやつを食べながら、ニコニコ笑う、あたしたち。
良かった、ちゃんと、守ることができたみたい。
場所をもらったあたしたちが、力を取り戻すのは、そんなに遠くないと思うのよ?
場所をもらったあたしたちが、力を取り戻したら、もっと町が大きくなると思うのよ?
あたしたちが人間の幸せを願って結んだ縁が、ほら、輝いてるもの。
あたしたちが結んだ縁だもの、必ず幸せをもたらしてくれるはずよ?
この町は、絶対大きくなるに違いないわ?
この町を、絶対大きくして見せるわ?
あたしたちは双子の狐。
今日も仲良く、二人で人間に入り込み。
今日も仲良く、二人で人間を楽しんでるわ。
明日も、明後日も、そのまた先も。
仲良く、仲良く、暮らしていくわ?
仲良く、仲良く、暮らしていくわ!