26
「さて、これらの話は家を出る前にナトラリベスへの旅行で聞いているだろう。ノクティスがしているピアスはお前からのプレゼントではなく、ノクティスの両親がさらに数年前に送ろうと購入したものだということは解っている。」
クリスタルの後ろでメイドの一人が立ち上がった。
「私がいけないのです!」
震える声と青を越えた蒼白な顔のメイドを隣のメイドが座るように促すが
「す、すべて私が勝手にしたことでお嬢様は何も知りません。どうか、か、寛大な……」
何だがボロボロ出てくるがまるで死を覚悟したかのようにほほ笑みを浮かべる。
「悪が君のことに関しても報告を受けている。ナトラリベスの館で働いていることになっている君の母親も今朝がた向こうの国の協力の元、ノクティスの両親とともに保護された。」
「無事なんですか?」
私が口をはさむとゲラダ王子は笑顔でうなずいてくれた。
それを見たメイドは膝から崩れ落ちた。
立ち上がり、彼女の元へ行こうとすると
「あたしのメイドに触らないで! 全部あんたのシナリオ通りでしょ!」
してやったり、そんな顔を私に向けてくる。
どういうことかと思ったら
「シナリオとは、こちらのノートのお話でしょうか?」
元クリスタル付きメイドの一人が手元持つノートは昔からクリスタルが持っている日記帳、人の日記を盗み見する趣味はないため日記に一日のことを書いているのか、反省点を書いているのか、好きな人のことを書いていたのかなどは知らない。
「なんであんたが持ってんのよ!」
メイドにつかみかかろうするのをゲラダ王子が間に入って止める。
「座って話そう。次に立ち上がったときには退室してもらう時だ。」
おずおずと座るクリスタルは私をにらみつけてきた。
見慣れた顔が年取っただけで特に怖くもない。
「現在のスペールディア伯爵についてだが、早朝に家へ捜索が入った。ギーが持ち出し損ねた書類から不正に関与するもの、公爵家との契約書類も出てきた。公爵家にいいように転がされていたことにも気が付かず、年々横領の金額も上がっている。後妻の女がどういう趣向で送り込まれたのかも知らないのだろう。その公爵家もすでに逮捕されている。罪状は私への復讐なんて理由だということも知らず」
「…復讐…?」
クリスタルが困惑の声を出す。
「後妻になった女が婚約者として押さないことは候補に挙がっていたが、あの家自体が長年多くの不正を働いてきたこともあり、そろそろつぶれてもらう予定でいたんだ。後釜には俺が付くしな。」
その言葉にクリスタルをはじめ、私や何も知らない屋敷のメイドの眼が点になる。
「俺は一言も王位を継承したいと言ったことはない。」
「うそでしょ⁉」
勢いで立ち上がりそうになったクリスタルはそれでもまだ、公爵夫人の席があると思ったのか、深めに座りなおした。
「話は落ち着いて聞くように、ここからは君の話にもなる。」
王子が肩手を上げると城のメイドがドアを開けた。
そこには見覚えのある優男がいた。
「僕のクリス!」
「なんでいるのよ!」
クリスタルと町でいるところを何度も見たことある優男だが、こいつは貴族夫人や商家の娘といるところも見たことがある。
遊び人だと思っていたがあの様子、クリスタルにはご執心だったのだろう。
こいつからの貢ぎ物でおそらく部屋の中はごみダメのようになっていたのではないだろうか。
「数々の女性を騙し、金を貢がせていた男だ。所持金が無くなれば家や職場の金を盗んでくるようにそそのかし、金が底をつきた、捕まりそうだと解るとすぐに見切りを付ける。出会った約十年前から君へ貢ぐために盗みも働くようになった巷の悪党だ。警邏中もなかなか見つからず、尻尾をつかめずにいたが丁度別れてくれたおかげですぐに見つけた。つい最近まで君に貢ぐ金や物を盗み続けていたこともわかっている。どうやらスペールディア伯爵も把握していたようで、城に来てからは君へ届けるとしていろいろと受け取り、隠れ家も提供していたようだな。そういった内容の手紙のやり取りはもっと慎重に行うべきだろう。荷物の運搬は伯爵自ら到城時にしていたが手紙を城のメイドに預けるのは気を緩めすぎじゃないか?」
話をしている間も優男は兵の拘束を解こうと暴れる。
「知りません! この男は確かに一人暮らしを始めてから知り合った男ですがそのような犯罪者とは知りませんでしたわ。」
「シナリオ通りに話すんだな。」
ページがめくられた日記が机に乗る。
そこには男から貢がれたもののリストがあり、どういった経緯で手元に来た物なのかもあった。
例えば、金額:町娘ビア・職業針子。とあったり、
有名ブランドのバック名:相当金額・店員レナの手助けの元盗みだす。だったり、
人としてこれはどういうことが聞きたくなる。
「知りません!」
「そんなこと言わないで!」
叫ぶ優男は兵の拘束を振り切り、縛られた上半身のまま、クリスタルの足元にしゃがみこむと、口や顔でスカートをめくり始める。
何をしているのかと思うと
「こんなとこでするんじゃないわよ!」
そう言って顔をけった。
当たりが悪かったのだろう、鼻血が出ている。
何がどうなっているのかとゲラダ王子へ目を向けると
「恋人というよりも下僕だな。この様子を見させられ、知らないという言葉をどう信じればいい? それにこれもある。」
メイドの一人が取り出したのは手紙で王子の手に渡った。
封筒を開け、取り出された中身はカードが一枚、机に置かれた場所はクリスタルから遠く、私に近い位置。内容は欲しいものリスト。
いくらほしい、あれが食べたい、これが欲しい、どこへ行きたい。
そういった内容の箇条書き。
「なんでこれが⁉」
「こいつはお前からの手紙をすべて保存していた。その中にはこんな物もあった。」
『父から聞いた城にある女神の鏡が欲しい。』
女神の鏡。
それはどんな者でも美しく映るという話の鏡で、今は王妃が持っているはずだ。
「盗み出そうとした賊には逃げられ、逃走中に鏡は落下し割れた。国宝である鏡を盗み出すだけでなく破損させたのだ。この男は奴隷になる。そしてその指示を出したお前も」
「あたしは欲しいって言っただけ、何も盗んで来いなんて言っていないわ!」
「証拠のそろっている現在、それはただの良いわけだ。」
王子に向いていた顔を急にこちらへ向けたクリスタルは
「あんたがいけないのよ!」
と、言い出す。
「何が美人なお姉さんがいるんだね、よ。あたしの方が年上で、あたしがあんたの姉なのよ! 美人な薬師がいるんだっていうから見に行ってみればあんただし! そもそも何よ! なんでお母さまから貰った名前つかってんのよ! 本当に昔から気に食わないのよ! 奴隷の癖に家の中うろうろして、汚らしいったらないわ。それなのにお母さまったら自分が付けた大人しい娘ばっかり側において、あたしは一日中合わない日だってあったのに! あたしの名前なんてお父様の愛人の名前よ! 薄汚い猫のテリーの娼婦の、名前! 本当むかつく。あたしは娼婦と同等買ってんのよ。あたしは将来王妃、いいえ、女王になるために産まれてきたのよ!」
思いのたけをぶつけたクリスタルは息が荒い。
「だからノクティスの名前を呼びたくなく、ノノと呼んでいたことも知っている。すべてお前と、お前の家の問題だ。それにこの国は王妃を女王へ上げることはない。ヒヒの血が流れる者のみが王位につける。」
ゲラダ王子はまるで虫でも払うかのように手を動かすと兵は優男とクリスタルを立たせる。
「いやです! 私が、あたしが王妃になるんだ! 女王に!」
「俺に妃はいらない。女王にもなれない。」
王子の言葉にクリスタルはニヤリと笑い
「あんたも捨てられるんだ! 何で裁かれるんでしょうね。殺人? 死体損壊? 昔から大好きだもんね!」
ドレスが運びにくいと判断されたのか肩に担がれる形のクリスタルが私に向かって言うがそんな趣味持っていない。
「俺に必要なのは平等に国民を愛する妻だ。お前はもともと調査対象でしかない。」
ドアが閉まる直前の言葉に廊下からクリスタルの奇声が聞こえてくる。
深くため息をつく王子と私の前へお茶が運ばれ、日記や手紙が片付けられた。
「早朝に保護され、間もなくカルミナに到着予定だ。」
「そうですか。いろいろとご面倒をおかけしたようで」
「さっきも言ったが、王位は継がない。アヌビスに任せることにした。」
「そう。」
それだけ言ってお茶に口を付ける。
「だから、俺の妻になってくれないか?」
彼からしたら一世一代のセリフだったのだろうが、私は何て答えようか悩む。
「……そうね。私ね、ずっとゲーラが好きなの。」
「知っている。前に聞いた。」
「ええ、記憶にないけれど、だから王子のあなたは苦手なの。」
「すぐに王子じゃなくなる。そうなってからでもいい。結婚してくれないか?」
「そうね。考えなくもないけれど、あなたが抜けた分の穴はどうやってカバーするの? アヌビス様だって海軍があるわ。」
「公爵になっても城での仕事はできる。落ち着いたら町医者になろうと思っている。城の前の店を増築して病院兼薬屋兼自宅ぐらいにしたいと思っている。」
「公爵家にしては小さいわね。」
「少しずつ大きくしていけばいい。店からそんなに離れずに公爵家の土地もある。城前の土地を買い上げてもいい。だから時間がかかってもいい。考えてくれ。」
話がだんだんと大きくはなったが当初の話よりは規模は小さいともいえる。
「そうね。今回の件がすべて片付いたころには答えをだしたげなくもないけれど期待しないでね。」
「ありがとう。今回の事態が収まるまでは城で暮らしてもらうがその間は自由に店へ行ってもらって大丈夫だろう。ノクティスの部屋は寝室続きで隣の部屋になるように今頃準備中だ。」
「お金がかかるからそんなことしなくていいのに」
「俺の実費だ。妃を選ぶだけで国費なんて使えないからな。」
そうだったんだ。
じゃあ、クリスタルたちのドレスなんかもすべて彼の実費ということか。
貯金が空になっていないか心配だ。
彼はまだリポネームの件で仕事があるということで執務室へ、私は疲れて寝室へ行くとコルヌに告げる。
「ゲーラ」
歩き出した背中にそう呼びかけると笑顔が振り返る。
「なんだ?」
嬉しそうな声、私は顔色を変えないように
「呼んだだけよ。」
と、言って歩き出した。
背後でも歩き出す靴音がする。
候補たちが買いあさったドレスはリポネームの王族の姫たちが滞在中の着替えとして利用することになった。仕立て直しも行い、華美だったものも大人しくなった。
クリスタル付きでいた屋敷のメイドたちは次の職場が決まるまで私の世話係となった。
ちょこまかたくさんいると落ち着かず、早めに職が見つかるようにクリスタルの学生時代の伝手を使い、いくつかの貴族屋敷にメイドの雇用はないか手紙を出すと数件の返事があった。スペールディア伯爵と後妻の実家公爵家が没落し奴隷となり、さらには全員国外へと流されたという話はすぐに出回った。
そのため私との関係を隠したい家からは受取拒否もあった。
手紙が帰ってきた中でもリーリア様とマント様は行き場のないメイドたちの雇用に積極的だという返答をもらい、さっそく面接へ行かせた。
私の両親は無事に帰国。痩せていたことからしばらくは入院生活となるらしいがメディコスさんの自宅で孫の面倒や息子の仕事の手伝いをしてくれる人を探しているという話をもらい、横に流す形で両親に伝え、雇用先はすぐに決まった。
そのメディコスさん、何とゲーラの師匠だったと今更教えられ、城の白魔術師の指導役をしているらしい。病院経営もあり、なかなか忙しい家族を横目に店へ来てくれていたらしかった。
リポネームの客人たちのケガなどがだいぶ落ち着き、歓迎会が開かれることとなった。
国内と他国の情勢がどうも安定していなかったこともあり、伸ばされてきた予定、これが終わると国際会議がある。
リポネームの国内も落ち着いたということもあり、国際会議に合わせ、早めにカルミナへやってきたリポネーム女王ツンドラ様と、隣国で同じくリポネームの民の保護に当たったケティーナ王女レインディアをはじめとした王族が到着した。
「なんだか変わった色のドレスね。」
ミントグリーンと茶色のストライプ生地のドレスは今回のために特注で用意され、さらにカルミナの王族全員が着る衣装に使われているという話だった。
私も着るのかと聞くと着ないともったいないとコルヌに言われ、あれよあれよといつも通り身支度をさせられる。
これまた恒例となった私のドレスはシルエットが目立つ。
今回は肩にボリュームがあり、バルーンのように膨らんでいるのは裾にも付いている。
「準備できたか?」
「今できた。」
結い上げられた髪や胸元には真っ赤なファーファレノがあり、それは部屋に入ってきたゲーラもおなじだった。
ゲーラの差し出す腕に手を添えて、会場まで歩いて行く。
今回の参加者はカルミナ上位貴族以上とリポネーム・ケティーナの王族。リポネームの国民への歓迎会は翌日。
町の広場で祭りの準備も進められている。
「お兄様は国際会議の準備もあるでしょうに、忙しいでしょうからわたくしがノクティス様をご案内しますよ。」
会場近くでオリーブ様と出くわした。
「ギーはどうした? 一緒じゃないのか?」
「急な案件で遅れるそうです。お兄様に伝えるように言われましたわ。」
言葉とは裏腹にとても残念がっているオリーブ様は鮮やかな緑のドレスで、胸元やスカート前面にストライプが入っている。
そこに走ってくる足音がする。
振り返るとギーだった。
「セーフ!」
「走ったら着崩れるわよ。」
じんわりと汗もかいている顔にハンカチを渡そうかとするがその手を止めたのはゲーラで
「ギー、そんな姿でわたくしのエスコートをするつもり?」
そう言ってハンカチを取り出したオリーブ様だが、身長が届かない。
ギーが王女を抱き上げたので、私たちは先に会場へ向かうことにした。
歓迎会のパーティーでは多くの冷やされた飲み物が容易された。
リポネームとカルミナは気候が真逆ともいえる。
ティアリサム山で太陽がさえぎられることの多いリポネームは気温が年間を通して低く、海へ突き出した最北部では一年中氷が取れる。
ツンドラ女王の来国の土産として山のような氷が届き、氷室で一時保管されている。
明日、広場にて水菓子が配られる予定だ。
パーティーの準備は主にアヌビス様が行った。
隣国でサンスを巻き込んだ騒動もあったためケティーナの歓迎にも力をいれており、蜂蜜酒やはちみつを使った料理や菓子も多く並ぶ。
一様、婚約者ということに表向きなってしまったので王族の席の後ろ、少し下がった位置に椅子が容易され座る。
社交界の文化は国ごとに違うため各国の風習を混ぜ込み、順調に会は進んでいく。
ゲーラと踊っていると声をかけてきたメディコスさんと立ち話をしていると
「ああ、君も出席するなら連絡をくれてもよかったのではないか?」
そう言って現れたのはケティーナの国章を付けた男性。
メディコスさんが親し気に再会を喜んでいるところを見るとおそらくこの人がクサリキノコに感染し、サンスの治療を受けた人だろう。
ケティーナ第五女王夫様だ。鹿のピスティアの血が強いようで、大きな、立派な角をしている。
二足歩行で身長も首も長いこともあり二メートルは超えていそうだ。
そのおかげで角がぶつかる心配がない。
ケティーナの男性は頭を下げる礼はめったに取らないようで、挨拶は握手、上位の者へは膝を折り、軽く上下に動くだけ、頭は極力動かさないようにしているようだ。
第五女王夫と挨拶していると息子のホエ王子がやってきた。
「弟が世話をかけたな。」
「いいよ。お前の性格を知っているから何となくのあしらいもわかる。」
ゲーラとホエ王子が親しそうだったため少し、腕を引くと
「ホエ、彼女は婚約者のノクティス。そっちへ渡ったサンス・オールの友人の灰魔術師で俺の婚約者だ。」
「ノクティスです。」
腕を組んだまま体を曲げる礼ができず、仕方なく、スカートを持ちあげ、礼を取る。
「ケティーナ第四王子ホエです。ゲラダとは昔白魔術師の勉強で一緒になったんだ。」
「そうだったのですか。知りませんでしたわ。」
「王位継承権を放棄したって聞いたけど、君は良いの?」
仲が良いからこそできる質問かと
「もちろん。皆が皆、王妃になりたいとも、慣れるのだとも思っているわけではありません。私は灰魔術師として民の側にいたいのです。」
「こういう人が王妃になるべきでしょ。なんだか候補選びが荒れに荒れたって聞いたけど? 大丈夫だったの?」
他国の王家のこともよく知っているなと思いつつ、
「根付いたカビを一掃するいい機会だったんだ。ちょうど未婚の娘のいる家が多くて助かった。町のことへも介入しやすい。」
そんな目論見があるとも知らずに巻き込まれたこっちの身にもなってほしいが、いえばきっと笑い飛ばされるだけだろう。
ホエ王子と別れ、席に戻ろうとすると
「失礼、ノクティス様ですか?」
優しい声の女性に話しかけられた。
窮屈なドレスではなく、楽なワンピースで椅子から立ち上がったところだった。
「ニホン王女、そのままお座りになっていてください。フロント殿は?」
「夫は息子とお菓子を取りに行きました。ノクティス様には部屋をお譲りいただきとても感謝しております。」
ああ、ではこの人がサンスの兄の妻であるリポネーム三十二王女ニホン様か。
「お気になさらないでください。結局、荷物の持ち出しでバタバタさせてしまたでしょうし」
「いいえ、とても助かりました。ほか弟妹も隣の部屋でしてとても心強いお部屋をお借りでき感謝の気持ちでいっぱいです。」
話をしているとメイド一人を連れて男性と男の子が戻ってきた。
男の子は私のことをジーっと見てくるためどおしたのかと思っているとなんだか見覚えがあるように思えた。
「お菓子の人」
ああ、そうだ。
リポネームとカルミナでは気候が真逆で熱中症になる人が出ると思い、批難国民のテントへ補給水と子供たちへはお菓子も一緒に毎日届けに行く。
その中にいた無口だが笑った顔が可愛らしい男の子、兄弟がたくさんいるということでいつもたくさん運んでいく。
その子だ。
「すみません。御世話になったようで」
王族にあんな簡単なお菓子でよかったのだろうかと、たくさん持って行っていたのはニホン王女の弟妹達も食べるからだろうし
「お菓子はおいしかった。でも、ジュースはおいしくない。」
補給水は飲みなれていてもおいしくはない。
「そうはいってもエゾの体を思って出してくれているもんだから残さず飲まないとな。お菓子ももらってんだろ?」
話に聞くサンスの兄フロントとは印象が違う。
葬儀では遠目でしか見なかったし、兄妹間の確執だろうか。
「補給水は誰が飲んでもおいしくないので、お気になさらず、フロント様はサンスのお兄様でよろしかったでしょうか?」
「ん? ああ、そうだ。サンスの知り合いか?」
少し雲行きの悪い顔になる。
警戒されているようだ。
「灰魔術師として交流がありまして、お店の方は私の店と近隣の病院や薬屋に連絡を入れ、カバーできるようにしましたので――」
「あ!」
言葉を遮るようにフロント様が言うため驚いてしまう。
「あ、すみません。あいつ店ほったらかしで逃げてきたのか。店内とか、大丈夫でしたか? ちゃんと掃除されてました?」
何かまずいことを行ってしまったのかと驚いた。
「とてもきれいに整頓されていましたよ。無断で申し訳ないと思いつつ、フロント様が不在時に戻られた場合にと置かれていた鍵をお借りしてしまいましたが」
「それはいいですよ。サンスが悪いんで」
すっかり立ち話になってしまい、そろそろ上座の椅子に戻らなければならない。
三人に挨拶し、歩き出す。
あとは階段を上がるだけというところでオリーブ様に呼び止められる。
オリーブ様が手を引いて歩くのは彼女と同じぐらいか(外見年齢)、少し上の女の子だった。
「ノクティスには紹介していなかったと思って、この子、妹なの。」
おずおずと頭を下げる女の子は確かにオリーブ様と顔はよく似ている。
だが、オリーブ様以降に王族が産まれたという話は聞かず、ゲーラを見ると
「チャクマは十四歳で現王妃派閥、アヌビス付きの公爵家で育てられている。城では何かと物騒だしな。あともう一人、弟のキイロがまだ五歳で、ホエに頼んでケティーナにいたんだが今回戻ってきている。」
へえぇっとしか言えない。
おそらく派閥争いに関係あったのだろう。
キイロ様は新たな王位継承候補だ。
忙し立てる者も多いだろう。
「流行り病が起きたときに戻す話もあったがノクティスが狙われているところにさらに火だねを作るわけにもいかないからな。国際会議が終わった後に国民には知らせる予定だ。俺のことも一緒にな。」
私のかかわらないところでいろいろあったのだろうと考えるが王家を出れば関係のないことになるだろう。
パーティーは滞りなく終わり、翌日の祭りの大きな混乱なく終わった。
国際会議に向け各国の使者が迎賓館に王族が到着したという知らせが次々とやってきた。
そして、会議開始前日、アクアムの到着が知らされ、城内がざわついた。




