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七つの国に架かる橋《加筆修正作業中》  作者: くるねこ
番外編 ノクティス
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22






 朝食の席、ゲラダ王子と別々に行こうとしたら時間がないといわれ、ドレスと着ただけ、髪を結う時間なく、簡単に梳かされただけだった。

眼鏡だけは忘れないように持って部屋を出て急ぎ足でダイニングへ入ると流行り候補三人はそろっている。


 既成事実を作るのに協力すると言ったがここまでのことをするとは思っていなかった。

三人、特に隣のクリスタルと斜め前のインペラートル令嬢からの視線が刺さる。


 それ以外に気になったことがある。

ダイニングに置くとは言っていたがまさか、四人分並べるとはどういうことかと叫びそうになる。


 彩も調和も取れていない机の上の花。

一晩でだいぶ開いており、見ごろだろうが、誰がどれを作ったのかが良くわかる。


 赤を好むのは皆一緒の様だが、明るい赤か、私が選んだ暗い赤かでだいぶ印象は違う。

明るい赤が目立つように薄い水色や黄色を組み合わせた芸術的な活け方をされた物や可愛らしくピンク系でまとまっているが形が悪い、赤が悪目立つ物、私と同じ暗い赤とくすんだ色や茶色形の花を合わせ少し背が高い物が並ぶ。

誰がどれを作ったかわかる。


 令嬢の習い事として生け花はあるが指示を出すだけで実際にやるのはメイドだ。

私もクリスタルとやっていた。

少しでも触ると手が荒れるとかで私にやらせず、自分でやるという選択肢ははじめの数回で終わった。


 「皆の個性が出ているな。」

「誰かズルをしてプロでも雇ったかの方もいらっしゃいますが」

「一様、私プロなんだけど、ここに来る前は庶民の勉強で花屋をしていたから」


と、いうクリスタルの作品が一番形の悪い物だろう。

私が辞めてからも花に触らせることはなかったと店長も言っていた。


 朝食中に誰がどれを作ったのかの発表と自慢、どういう意図で作ったかなどの話をしていた。

まあ、だいたいがカルミナの赤を入れたということだった。

私もそうだから何も言わないが色のセンスが良しとして配置、全体の長さ、大きさを見ると何ともうまいと言えない。

自分のを見ても黄緑が多かった、葉っぱの巻きをもう少し細くして、目立たないようにもできたなとも考えてしまう。

それでもどうやら三人はダイニングに置くといわれてから作ったという話だがそうは見えない大きさ。

向かいの人の顔が見えないというのは会話を楽しみながら食事をするこの国の流儀に合わない。

目立つように大きくしたのだろうことはすぐにわかる。

おかげで睨みつけられた視線も枝もので半分隠れていた。


 朝食が終わり、王子の退席に合わせて皆が立ち上がるため私も席を立つ。

でも、着なれないボリュームのあるドレスの裾を自分で踏んでしまいよろける。


「大丈夫か? 昨夜は無理させたからな。」


わざとなことは解っているがあからさまに皆が見ている前でするのはやめてほしい。


 腰に手を添えられたままダイニングを出る。



 それからしばらくしてスムールが飛んできた。

なぜか私目掛けて飛んでくるためどうしようか迷いながらも受け止めたが、頭が思いっきり胸に当たり、私の肋骨といい音をさせていた。

ゲラダ王子の執務室へ連れていくが


「カフカス宛てだな。」


らしいので、忙しくアヌビス様の執務室で仕事を仕事をしている彼の元へ妹のコルヌと行く。


「お手数をおかけいたしました。」

「いいえ、頭ケガしていないと良いのですが」


スムールの頭をなでる。薬屋に来ていた子とは違うため私目掛けて飛んできた理由がわからない。


 アヌビス様からの報告ではケティーナにて流行り病を沈めたサンスを宴中に見つけだし、フェーリアと同じ開放日の印を押したとのこと、このままウィードミレへいくらしく、仕事がおろそかになる詫びもあった。


「ウィードミレ……」

「何か気になることが?」


カフカスに聞かれ、驚いて肩が跳ねてしまう。

これでは隠していることがあると言っているようなものである。


「……母の出身国なものですから」

「確か、お母さまはお父さまと一緒にスペールディア伯爵の命令で公使をしていらっしゃるのですよね。」

「そうです。」

「あの国が元奴隷の公使を迎え入れるとは思えないのですが」


どういうことだろう。

ずっと、もう十年以上ナトラリベスで暮しているはずだ。あの国も奴隷差別のあった国かと考えてしまう。


「あの、それって、どういう…?」

「不安にさせてしまって申し訳ありません。あの国は最近非公式にウィードミレやアクアムと同盟を組んだという話が出ていまして、旗にも黄や青を入れているのです。奴隷の買い付け量も多く、カルミナとリポネームが特に警戒している国でもあります。」


国政がどう動いているのかはわからない。

一般民の私には入ってこない情報も多い。


 不安からか、意味もなく床の大理石の隙間を目で追って、荒くなる息を整える。


「ノクティス様」


コルヌが顔をのぞき込んできたため大理石から目が離れた。


「大丈夫ですか? ご家族が心配ですよね。ゲラダ様にご相談しましょう。きっともう動いてくださっているはずですよ。」

「……いいえ、これ以上仕事を増やさせることはできないわ。私は何も聞かなかったことにする。」


一度深呼吸をして、自分を落ち着かせる。


 私室に戻り、仕事着に着替えてから城を出たため見習いを呼んできてもらうといつも通りマーレが来る。


「今日は二時から採寸が入っていますので、それまでに戻って来ましょう。」

「マーレも私の予定を把握しているのね。」

「最近、灰魔術師の勉強よりも、師匠の侍女をしている方が楽しくって」

「師匠としては聞き捨てならないけど、まだ若いのだから好きなことを仕事にしなさい。でないと、続けるのもつらくなる。私付きのメイドなんて一時の職でしかないけれどシルバとも仲のいいあなたならフェーリアに聞いて、王女付きのメイドになれないか相談はできるわよ。」

「師匠だからいいんですよ。時々お菓子ももらえるし」

「お菓子ならお店でも出すわよ。今日は店に寄ってから少しお買い物へ行きましょうか。」

「やった!」


はっきり言って私付きのメイドと言っても過言ではなくなっているマーレ。

ともに城を出て、店へ顔を出すと今日はメディコスさんは大事な用ができたとかで朝一で顔を出して以来、来ていないらしい。


 市場がとっくに閉まっている時間。

向かうのは近くの繁華街、花屋のある周辺だ。


「師匠はアクセサリーとかあまりつけていないようですが、好きなデザインとか、モチーフってありますか?」


手頃なアクセサリー店のウィンドーを覗きながらマーレが聞いてくる。


「ピアスと婚約指輪は付けているわよ。」


クリスタルから貰ったピアスと城にいる時間が長くなったためしっかり指にはめるようになった指輪はある。


「そんなシンプルな物ではなくて、こういうのとか?」


指さした先にあるのは大振りな石の下がるペンダント。

アヌビス様の婚約者探しのパーティーの際に付けた物も大振りなペンダントだった。

最近の流行りだろうか。

似たようなデザインで色が違う物が並べられている。

色違いでも同じ値段のところを見ると人工石かガラスだと思われる。


「よかったら中へどうぞ。」


店員がドアを開けていった。マーレを見ると顔に入りたいとあったため


「少し見ていきましょうか。」

「はい!」


聞くと嬉しそうな返事が返ってきた。


 店の中に入り、先ほどのペンダントを見るとやはりガラスのようだった。


「特別な技法で作ったガラスで反射率が一般よりの物よりも五倍もいいので、少しの日光や夜の暗さの中、月明かり程度でも虹色の反射が見られます。」


そう言って鏡の上に透明なペンダントを乗せると天井に日光が反射して虹色が映る。


「きれいね。」

「はい。でも、仕事中は付けられない。」


大きすぎて邪魔になる。


「でしたら昔からある人気のモチーフに先ほどのガラスをはめた物がございますよ。」


店の奥へ行くとヒヒの横顔の瞳だったり、ガラスを咥えていたりするものから、ファーファレノの中央に埋め込まれている物、蝶や花の形のものなどがあった。

昔から女性が好んでいるモチーフで一つ一つ、ペンダントにも、つなげてブレスレッドやネックレスにもできるのだと説明される。


「買って帰ろう。」


マーレが選びだすため


「私もこれにしましょう。」


たまには自分で買うもの良いだろう。

店の寝室にはゲーラが押し付けるようにくれたアクセサリーがいくつかあるが城に来てからは着けていない。

銀色のファーファレノの花の中央には透明な石が付いていた。

ほかにも色はたくさんあり、紫と赤の三色をつなげてネックレスにしようと並べていると


「赤でしたら一回り大きい物が残っていまして」


そう言って並べている中央に置かれる。

本当に気持ち大きいぐらいだ。


「三つ別の色にするのでしたら赤を中心に紫と白の準で左右に置くとグラデーションのようになりますよ。」


販売上手な店員に乗せられこれで決まりだというと


「早いです。」


隣でマーレが急ぎだす。


「もう一つ作ろうかと思っているからゆっくり選びなさい。」


このパーツ、つなげるものは左右に穴があり、吊るすモノは上部に穴がある。

さらに見つけたのはピアスのように後ろから針金が出ている物だった。


「そちらはこちらのパーツを付けることでピアスやブローチになります。」

「師匠!」


説明を聞いていると隣から歓喜の声で呼ばれる。


「何?」

「マームの花があります!」


本当だ。

何枚も何枚も細い筒状の花びらを持つマームは銀の花でその下にドロップ状のガラスが付いている。

そのせいか、他より少し大振りだ。


「王宮にマームとシムの刺繍のドレスを着た王妃候補の方がいると噂で、あまり好まれていなかったマームとシムのモチーフがとても良く売れたんです。昨日も山のように入荷してもらったばかりなんですよ。」


嬉しそうにいう店員。

マーレの服から灰魔術師ということも、私のブローチから白魔術師の見習いということもわかったのだろう。

店の裏からどんどん持ってくる。


 「シムはチェーンにつながっていて、一番下に同じようにドロップのガラスが付いています。植物のモチーフは花なら好きな色を買われる方が多いのですが葉っぱは緑という印象からか赤や紫と言った色が残り勝ちなんですよね。」

「じゃあ、」


お財布と相談して、買ったものはお城に届けてもらうことになった。

自分たちの出来上がった物を身に着け、買い物を続ける。


「買ってもらっちゃってありがとうございます!」

「いつもいろいろやってもらっているお礼よ。」


私がネックレスにしたためか、マーレも同じようなモチーフの違うネックレスをしている。


「花や蝶で可愛いわね。」


たくさん買ったことから後ろの留め金にシムのチェーンを付けてもらった。


 お菓子を買ったり、服を見たり、少しカフェで休憩したりして気が付けばもういい時間。

最後に花屋に顔を出す。


「あらリーファが店番?」


お店に入るとカウンターで帳簿の整理をしているリーファがいた。


「久しぶり。店長!」

「久しぶりね。」


リーファに呼ばれた店長が顔を出すとキノミやムシコブも顔を出した。


「ノノか、城に行ってから全然来なかった白状がどうした急に?」

「補給水届けに来てもリリアとしか会わなかっただけよ。最近は手伝いの見習いも来るでしょ。」

「ああ、そこのお嬢ちゃんは初めて見るがな。」

「初めましてマーレです。」


世間話をしながら店の奥へ行き、花をあさる。


「なんだ。買いに来たのか?」

「昨日久しぶりに触ったら少しやりたくなっただけよ。」


そういいながら花束の材料を選ぶ。


 出来上がった花束を包装紙で巻いて


「また来るわ。」

「おう。リリアが仕事復帰したから近々城で会うと思うぞ。」

「その時はこき使われそうね。」


店に長居してしまって外に出たら採寸の時間が迫っていた。


「早く戻らないと」

「その花はどこに飾るんですか?」


どうしようかな。

作って満足だったため考えていなかった。

昨日用意されていた花は城の庭園の花ということで偏りもあった。

でも今日は想像していたとおりの花束になったというだけだ。


「ひとまず、花瓶も必要だからミラに相談しましょうか。部屋になら飾るところたくさんあるし」

「ゲラダ王子の執務室でもいいですね。」

「邪魔になるだけじゃない。」


 と、思っていたが、部屋へ戻り、ミラを呼ぶと


「せっかくですから執務室へ飾りますね。」


なんて言われてマーレがにやつく。


 少ししてやってきた仕立屋はスペールディア家にも出入りする王室御用達の看板を下げる有名な仕立屋。


「ノクティス…様のドレスの注文は久しぶりですね。」

「無理しないで、いつも通りでいいですよ。」


お茶ふるまいながら言うと、


「ほかの方は誰もお茶なんて出してくれない。」


らしい。

メイドはどうしているのかとミラを見ると


「部屋それぞれ、候補の方に従うように申し使っておりますので」


だそうだ。


 採寸だけ行い。

デザイン画を見せられることなく帰っていった。



 夕食後、部屋へ戻ると机の上に箱があった。


「何かしら?」

「私が開けます。」


箱に手を伸ばそうとしたのを止められる。


「大丈夫? 危険な物とかじゃ」

「余計ノクティス様に開けさせることができません。」


机に箱なんて学校以来だなと思ってしまう。


 そして、再び学校以来だなと思ったがだいぶ手の込んだもので


「スムールの死骸なんて⁉」


スムールは国鳥というわけではないが軍で飼育している個体しか存在しないとても貴重な鳥だ。

自然界では絶滅し、城の敷地内を伝書以外で出ることのないようにしつけられている。

つまりはそこら中、どこにでもいる。

人にも慣れて警戒心が少ない。

城にいる国鳥、ホウカンとも仲良くやっている。


 ホウカンとはミルクラウンの近隣種で頭に赤や緑、青といった飾り羽、尻尾の羽も同じように色鮮やかで開くと扇子のようになり、大きさも同じ、ミルクラウンよりも小型で町中どこにでもいる。

城の敷地には巣箱がたくさん置かれているため住み着いている個体が多い。

尾の飾り羽は装飾品や羽ペンとしても利用されることが多く、特産品の一つだ。


 ミラは箱をもって急ぎ足で部屋を出るため付いて行こうとするとコルヌが止める。


「今回に限ったことではなりません。それよりも少し休まれてはいかがですか?」


背中を押され、浴室へ押し込まれる。


 さっぱりはしたがすっきりはしない。

浴室から出るとドアがノックされる。

返事をするが誰も入ってこないためコルヌがドアを開けて確認すると


「また箱です。開けずに処理してきますね。」


何とも慣れた様子だった。


 今回に限ったことではないと言っていた。

あの様子ではよくあること、以前、度々困ったことはないか聞かれたがこれのことかと思うと、私の知らないところで皆が動いてくれていたんだなと思ってしまう。


 この話を寝る時間になりやってきたゲラダ王子に今日もなのかという文句を一通りしたところで言うと


「本当に今まで遭遇していなかったことに驚くよ。」

「みんなが私が触れる前に処分してくれていたみたいで、ありがたいけど迷惑をかけていたのね。」

「仕返ししないのか? 犯人は目に見えて解っている。」


ベッドに横になる、顔が近いと長枕を二人の間に置く。


「仕返しに何か効果があるの? 逆上させるだけじゃない。やられっぱなしでいいのかという話ならあなたが誰も選ばずにこの茶番を終わらせればいい話よ。そうしたら何か考えるわ。クリスタルは旦那様への報告もあるし」

「まあ、好きにすればいい。何かあっても俺は未介入、使用人からの報告を聞く程度だ。」


 目をつむり見えるのは砂漠の楽園に建てられた離宮。

まだボーっとしているつもりはなかったのだがと思いつつ、サンスが民族衣装を着ているのを見て、似合うなと思う一方、確か母の話ではウィーンドミレの王宮の離宮は妃専用だったはず。

なぜそんなところにいるのかと顔をしかめると急に頬に違和感を覚え、視界が私室に戻る。

頬に王子の手が触れていた。


「時々そうやって虚ろな目になるな。何か悩み事か?」


虚ろな目になっていたなんて思わなかった。

でも、話せることではないし、そんなに重要ではないと思う。


「ちょっと意識が飛んでいるだけよ。」

「そうか。もう寝た方がいい」


長枕ごと抱きしめられる。

私はいつも通りのパジャマ、王子も昨夜同様に上半身服を着ていない。


 落ち着く匂いがすると思っているといつもより眠りにつくのが早かった。







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