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七つの国に架かる橋《加筆修正作業中》  作者: くるねこ
番外編 ノクティス
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 下処理なんて見習いの仕事かと思っていたのだが、どうやらほとんどがここ数か月に入ったばかりの見習いコック、候補の分も作るからと王家の厨房へ優秀な者は連れていかれたらしい。


「こっちはお前らだけでも使用人の分なんてて適当でもいいのだから大丈夫だろ。」


といわれたと愚痴りながらさやの筋を取りながら聞く。

これは夕飯の仕込み分だ。


 ムニエルを赤身で行おうとしていたため夕飯で煮つけに回そうという話になり、昨日作った胸肉のソテーをメインに作ることになり、先ほどから下ごしらえをさせている。

皮ははがさずに厚みのある部分を切り落とさないように開く。

開いた内側は問題ないが、皮もついている外側だった面はフォークで穴をあけさせ、塩と香辛料を降りかけている。

少し置いて、味をなじませてから皮面だけを焼かせる。


 深型の蓋つき容器に移して、下処理をした野菜と一緒に入れてしまう。

少しの水で蒸し焼きになるように蓋をしてオーブンへ入れる。

高温に達して数分で火を消してしまうと


「なんでですか?」


と、不思議そうに聞かれる。


「火の遠し過ぎは胸肉の場合はパサつく原因ですから後は予熱で調理です。三十分以上置いておくのでその間にパンを焼いて、スープとサラダの準備をします。」


そういうと次の料理の荷物を運んでくる。


「スープはスプーンですくいやすいサイズの切りそろえると食べやすいです。サラダはよく水気を切ってください。」


パンは専用の職人がいるため問題ない。

指示をすればそれ通りに行う。

なんだか、奴隷みたいだと思っていると解放印を押された日、待合室で求人が目についた。

それは城で働くこと、もしかしたら彼らも求人で来た本当に料理未経験だったのかもしれないと思ってしまう。


 昼食を取りに来た者は驚いた声をだす。

コック見習いも嬉しそうで夕飯の相談が始まる。






 使用人用の厨房の料理が劇的に変わったという話を聞くと何とも鼻が高い。

午前中は厨房に顔を出し、一緒に食事をとった後、今日からやっと店へ行けると思うとスキップしそうだ。できないが


「ノクティス、職場改善を申し渡す。」


店に入ってすぐメディコスさんがそんなことを言ってくるためドアから入ることなく立ちつくす。


 話を聞けばこれだけの見習いが来る前は一人で来店客、配達、納品の製作、常備薬の製作、店の管理に見習いの食事もつくっていたのかとなぜか怒られた。


 一番怒られた原因は定休日がないことだった。


「定休日なんて、一日店にいるのに必要ですか?」

「今現在いないだろう。」

「それは今だけです。」

「候補としてまだまだ城にいるんだ。城では特に何もしていなかろうとお前は体をゆっくりさせる日が必要だ。定休日だからって急患を受け付けないわけじゃない。今まで通り誰か置いておいて、お前は王子の相手でもしていろ。」

「いやです。これ以上かかわりが深くなるのは」

「好きになったか?」

「ゲラダ王子は好きではありません。」


そう、

ゲラダ王子は好きではない。

でも、


「もういい年になったんだ。選ばれたんだもういいだろう。」

「相手が悪すぎる。」


そう、

相手も悪い。


王子という身分に選んだら王妃という面倒もついてくる。

それが嫌だ。

国民である癖に王妃になりたくないなんて贅沢なのだろうが皆が皆、王妃になりたいわけじゃないし、私は薬屋で居たい。


「あいつもいつまでもゲーラで居られれば良かったがもうそうは行かない。昔は顔を知っている奴がいなかったから城の白魔術師についてきて会合にもよく来ていた。その医師の子供だということになっていたからずいぶん自由に動き回っていた。白魔術師になったのもそういった経緯だろうよ。」


そういえば、アヌビス様と違い、国家行事でも参加は最小限で年に一回見れるかどうかという状態だった。

一時は病気なのか、アヌビス様を後継ぎに選んだのかなどという話も出たが成人のパーティーで払しょくされた。

その後は公務にも出席するようになり、替わりにアヌビス様の姿がだんだんと見られなくなった。


 運のいいことにクリスタルが社交界へ出ていたころはアヌビス様が表に立ち、社交界から離れるとゲラダ王子が出てくるようになった。

あの頃を思い出すと本当にいい歳になったなと思ってしまう。


「ゲーラは道央国府どもだったんです?」


ゲーラには興味がある。あの時間に戻りたいとも思う。


「あいつは何にでも興味をもって、薬の知識はお前にも匹敵するだろうが、実際に調合したことはないな。やらせなかったのはある。」

「なぜ?」

「研究なんかを始めたら部屋から出てこないようになりそうだったからな。いつも医療関係の本を持ち歩いていてな。白衣が着られるような体格になったことにはもう、一人前にも匹敵していた。とはいえ、試験は成人してからしか受けられない。さらに見習いを二年やらないと本資格には上がれない。もどかしかっただろうな。」

「そうなんですか……」


成人してから勉強を始めたという話を聞いたがずっと前からの様だ。


「あいつが誰かに興味を持つとは思わなかった。」

「なぜですか?」

「母親の話は聞いたか?」

「はい。」


王妃が双子だった。

そして第一王子の母親は暗殺され、第二王子と第一王女の双子は現在の王妃から産まれている。


「王位継承権は妻がいるかどうかがこの国では大きくかかわってくる。」

「なぜですか? 王になってからでも妻を迎えられるではありませんか。」

「王座に就けば王妃の座が欲しい者しか集まらないし、本人はそうでなくても家族はどうか、教育を始めるにも遅い。」

「そんなの、今の私の状況でも言えることですよね?」

「確かに近いが、大きく違うのは王位継承権があるという状態、継承していない。しないかもしれない。」

「しないわけないじゃないですか。継承しなかったら王妃になりたいあの子たちが何を言い出すことやら、それに兄弟でちゃんと分担して国政をゲラダ王子が、海上保安をアヌビス様が担当されている。」

「王女も国外情勢の情報収集にあたっている。」


オリーブ王女は噂では税金で高い買い物を良くしているという。数年前から自説騎士なるものを作ったと聞いたことがある。軍部より、今までなかった騎士という称号に値する者を選び自分の手元に置く。軍から優秀な者を選りすぐり選抜したため軍事力の低下が懸念された。でも、それが国外の情報収集部隊とは驚きだ。


 「実は、俺もその部隊に入りたくて灰魔術師になることになったんです。」

「手に職を付けるためじゃなくて?」

シルバが話に入ってきた。はじめのころ、そんなことを言っていた気がするが、

「部隊に入るものの表向きの理由としてです。師匠が外部の人って意識があったのもありますが」

「今でも外部の人間よ。」

「誰もそう思っちゃいない。シルバもだが、お前も候補からもしも外れた場合、王女は欲しがっている。だから、言ってもいいといわれたんだな。」


メディコスさんは本当にいろいろ知っているなと思うが、あまりに知りすぎていることも気になる。


 「話を戻すぞ。今は王子王女誰が継承しても国営はうまく行く。王女が愚かな姫を演じ続けているのは兄二人のどちらが継承しても国が安泰なことを印象付けるためだ。大臣たちもどちらが継承してもいいように準備はしている。が、少々不穏な動きもある。巻き込まれないようにな。」

「海に投げ出された時点で巻き込まれていません?」

「あんなのは序の口だ。」


あれで序の口か。

これ以上何もないようにおとなしくしていないといけないな。

と、心に決める。






 それから数日、明日にはアヌビス様の婚約者探しのパーティーが行れるため使用人は忙しそうだ。


 食事改革が進み、朝昼晩、おいしい食事が出るようになったとマーレから聞く。

城の私室までくるのはマーレだけでシルバやモウスすら来ない。


「でも、あのおいしくはない水を飲まないといけないのだけは何とかなりませんか?」

「あれから貧血の良好なのでしょう。補給水の効果だとは思わないの?」

「思っていますし、感謝していますがもっとおいしくならないですかね。」

「砂糖を減らしてはちみつに替えて、レモンを多く入れて子供たちに飲ませることはあるけど、はちみつは高いから自費でやるならおすすめよ。」

「そんなお金ありません。」


はちみつは輸入品、島にミツバチがおらず、島外から連れてきてもハチにとってちょうどいい環境がない。

カルミナやウィーンドミレは暑すぎ、リポネーム、ナトラリベスは寒い。

アクアムは唯一の国土の島の上は建物ばかりで花がない。

最適かと思われたケティーナですら寒さで動かなくなってしまった。

温暖な気候が適しているようで、研究はされているが実用には至っていない。


 メディコスさんに言われた定休日について、ゲラダ王子に相談した。


「確かに休みは必要だ。ノクティスの自由時間もあるが国民にこの店は休むことがあるという印象を持たせる必要がある。出ないといつ行っても開いているなら時間内に行こうとは思わない。その結果、閉店後も軽い薬を欲しがる。」


なんて言われた。

薬屋をはじめて休みなんて仕事の後に少しあるだけだったためあるのは助かるだろう。

まだ、城の案内もされていない。

なので、来月から試験的な定休日を作ることにした。

毎週火曜日は休みと決める。

休みの日にしたいことを今から考えておこうと思うと


「試験的な休みは今月に一回やっておくといい。その日、オリーブがお前と話がしたいと言っていたからちょうどいいだろ?」

「だろ? じゃないわよ。今月っていってもいつがいいかしら」

「アヌビスのパーティーの翌日にしよう。あいつも帰って着ているんだ。オリーブも気が楽だろう。」


どういうことかと思っていると顔に出ていたのか


「アヌビスがいれば俺やオリーブへ向く目があいつに集まる。それだけだ。その間のことなんて気づかないし、頭の片隅にある程度だ。」

「つまり、候補が王女に接触するのはあまりよろしくないけれど、王女は会いたがっていると?」

「そうなる。」


定休日の話からすり替えられたが結果日にちは決まった。

それが明後日のことのため仕事を整頓し、泊まり込む見習い、日中にいる見習い、配達へ行く見習いを決める。

だんだん、店主というより経営者、仕事にはかかわらないが人員配置はする者の様になってきた。店ってこういう物なのかと考えてしまう。


 ミラやコルヌはゲラダ王子付きのメイドのため私の近くにいるのは命令のあったとき、城でのことは何かとマーレが面倒を見てくれる。

主に道案内だが


「明日と明後日のドレスどうしようか?」

「まだ選んでいないんですか⁉」


マーレに驚かれる。

私は気にせずお茶を入れる。


「何となく、後回しにしていたのよね。時間はいっぱいあるのだけど」

「なら今から選びましょう。」


そういわれ、ポットを取り上げられ、衣裳部屋へ連れていかれる。


「前回は何色だったんですか?」

「何色だっけ……青? 紺だったかな?」

「これですか?」


奥でマネキンが来ているドレスを指さす。

ミラに来やすいドレスを手前に動かしてもらったため奥に来たのは初めてかもしれない。


「ああ。そう、それ」

「きれいなドレスですね。珍しい形です。」

「ドレスに詳しいのね。マーレはカルミナの産まれ?」

「いいえ、リポネームです。一様貴族の産まれですが十五歳までで、父が爵位を返上するといいだしたのについてきたらいつの間にかカルミナに居ついてました。」

「どうして爵位の返上なんて」


爵位は王家にいただいた家宝でもある。

それを返すという決断に至った理由が知りたい。


「女王陛下ももういい年ですがお子はたくさんいました。子供だけでも五十人以上、そんなに王家がいるのなら貴族は必要ないと言い出した家臣がいたようでそれに賛同したようです。今では多くの貴族が爵位を返上、軍人や大臣、政務官などの役職の地位で十分だと思っているようです。」


貴族のいない王族国家とはすごい。

正確にはいないではなく少ないのだが、


「それで、商売をはじめて、大口の客がカルミナにいらしたので移国したのが去年の話。まあ、そんなすぐには気道にのる仕事でもないので私が働きに出ようとしたら灰魔術師の見習い募集があったんです。」


ドレスを探しながらなんだか楽しそうに言われると移国も悪いことでは何のだなと思う。


「何を売っているの?」

「島の中の草木などの園芸から薬草なども扱っています。」

「じゃあ、私も面識あるかしら? リリアとかしっているかな?」

「リリアさんって花屋のリリアさんですか? 優しいけど尻に敷かれている旦那さんのいる。」


そう、そのリリアだ。

間違いない。

リーファ結婚前もだが結婚後、特に子供が増えれば増えるほどどんどん尻に敷かれている気がしていたが周りも同じ印象だったのかと安心する。


「お城にも卸しているので今度来たとき紹介します。」

「楽しみにしているわ。……これでいいかな?」

 「なんでそんな地味な色にするんですか⁉」


深緑色のドレスは地味だが、私にはちょうどいい。

パニエも必要ない。


「同じ緑ならせめてこのぐらいの光沢のある生地にしましょう!」


マーレの出してきたのは以前に来た体のラインが出るドレスと似ているがスカートにスリットが入っており、ふくらはぎが見えるが、シンプルで良さそうだ。

問題は片方の肩を出さないといけない。解放印が見えてしまう。


「長い手袋あったかしら?」

「これなら黒のレースはどうです? 重たくならないですよ。」


包帯の上から手袋をすればいいか。

と、思い、マーレに後の宝飾品も選んでほしいといい、お茶が渋くなると部屋に戻る。


 すこしして金の座金に深緑の、ドレスと同じ色見の宝石のついたネックレスを持って来たが却下した。

そんな重たいものずっとつけていられない。

マーレは拗ねたような顔をした後、同じような色の石が一粒下がるペンダントを出してきた。

見せたかっただけのようだ。

ペンダントは決まり、イヤリングもセットがあったためそれでいいとして、頭に付けるものはどうするか聞かれる。

髪型をどうするのかも決まっていないため似た色の物をいくつか用意しておいてほしいと伝える。


 次に明後日のお茶会だ。

相手は王女、気軽は服では会えない。

ちょうどそこにコルヌがゲラダ王子が呼んでいると知らせてくれたため王女の好みを聞く。

同じような色を着るわけにもいかないが嫌いな色を着るわけにもいかない。


「王女は紫がお好きです。ノクティス様の御髪のような紫のドレスをよく来ていますよ。」


髪からだめだった。

でも、王女が私に会いたがっているのはこの色なのだろうと推測できる。

ギーに聞いた方がいいかとゲラダ王子の執務室へ行く。


 執務室では忙しそうに仕事をしていた。

一時は午前で終わっていたが急に忙しくなったのか、それともさぼりだったのかと疑う。

ギーは部屋の隅でただ立っているだけなので


「オリーブ様の嫌いな色ってある?」

「色? なんで急に?」

「お茶会のドレスの色が決まらないの。」

「自分の髪と同じ金色が嫌いだな。双子なのに茶色が混ざっていないと泣いていたことがある。逆にお前の髪みたいな紫が好きでいい年してパステル調の色見を着ている時がある。」

「一言余計よ。王女である前に女性なのだから気を付けなさい。」

「いい年してパステル調の髪を持っている女性の意見ですか?」


ギーが楽しそうに返す。

なので足を思いっきり踏んでやった。







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