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七つの国に架かる橋《加筆修正作業中》  作者: くるねこ
番外編 ノクティス
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14






 ノックに返事を返し、ドアを開けるとそこにはゲラダ王子もいた。


「待たせたな。案内する。」


ゲラダ王子の後ろにはギーも控えている。

並ぶと髪の色が対極的で派手だなと思い、手を伸ばすと


「俺はペットではございません。」


と、言われる。


なぜだ? 

何が? 


なんて思っているとゲゲラダ王子が笑いだす。

それを見て、ギーは恥ずかしいという顔にみるみる変わっていくのが前と変わらないんだな。って思ってしまう。


「何の話?」


からかうように聞くとギーはそっぽを向いてしまう。

そのため、王子に聞こうと


「ゲラダ王子はご存じなんですよね?」

「王子と呼ばないのなら教えてやる。」


なんて言い出す。

じゃあ、


「そこまで興味ありませんので今まで通り呼ばせていただきます。」

「俺が一人恥ずかしいだけかよ!」

「じゃあ、教えて」


黙るギーを無視して歩き出す。


 「いつも誰かしら迎えに行くの?」

「ゲーラに戻してくれたら答える。」

「もう何も聞かないわよ。だいぶ待たされてお腹ペコペコよ。」

「それはすまなかった。少々ごたついて、候補を二人同時に辞退させたところだったんだ。」


何それ、私も辞退したい。

と、言う顔を向けると


「平民以下になればいくらでも辞退できる。」


平民以下、つまりは奴隷だが、国民を奴隷にするにはそれなりの理由がある。

この場合、国益に反する行いがあったのだろう。

実際に奴隷するかどうかは知らないが、できたらやめてあげてほしい。


「なに、本当に奴隷にはしないがそれなり罰は与えた。これでも王族に歯向かったんだ、何かしらの処罰をしないといけない。」

「そう。」


気のない返事を返すだけにした。

私が奴隷だったと知っていて、さらにギーも元奴隷、ゲラダ王子が見境なく奴隷を増やすようなことはしないと信じたい。

いくら王族の建前があろうと、


 四階の私の部屋から食事をするダイニングまでは一度上がって少し下がって、また上がって、一気に下りると来たときとは違う道だった。

この道も覚えないといけないのかと思っていると


「近いうちにギーも店へ行かせる。城へ来るときは一緒に来るといい。」

「ギーの仕事は?」

「日中は仕事で城に来るし、お前を送ったらこっちに私室があるから戻ってくるし、問題ないさ。」


なんだか忙しくさせていないかと思うがギーのことだ。

そのあたりはうまくできるのだろう。


 食堂へ到着すると確かに候補が減っていた。

貴族の娘が一人と平民の娘が一人、いなかった。


「ノノったら、全然来ないからどうしたのかと思った。」

「お店が思いのほか忙しくてね。灰魔術師の見習いを借りることができて、久しぶりに来られたわ。」

「じゃあ、これからはこっちで食べられるの?」

「毎日とは言えないけれどできるだけ戻るわ。」


なんだかけばけばしいな。

クリスタルのメイクが濃い。

ほかの候補も濃いメイクのためこれが流行りなのだろう。

宝飾品もじゃらじゃらつけて、婚約指輪がかすれて見える。


 私だけ、出される料理が違う。

いつもいないから急に着たことで急いで作らせることになったから遅れたのだろうか。

そうなると申し訳ないな。


 特に会話のない食事、候補が二人もいなくなったのだ。

気になって会話どころではないのだろうか。


 デザートは皆と同じアイスだった。

ひんやりとくちどけなめらかな優しい甘さが口の中に広がる。

氷が簡単に手に入れば自分でも作れるのにな。

と、思っている間に口元が緩む。

そんなだらしない顔をゲラダ王子に見られたようでクスクス笑われる。

そういえば、初めてアイスを食べたのはゲーラとして前の店へ手土産を持って来たときだった。

鉄製の入れ物に入ったキンキンに冷え固まっていたらしいアイスは店へ来るまでに溶け、食べやすくなっていた。

近くの教会の子も呼んでみんなで食べた。

あの時は少ししか食べられなかったがこんなにたくさん食べられるのは贅沢だろう。


 夕食が終わり、王子が退室するのを待って私はギーとともに部屋へ戻り、着替えて、急いで店に戻った。


 店へ入ると


「師匠まだかな。」

「シルバは眠いだけだろ。」

「モウスだってやることなくて暇だって言ってたじゃん。」

「そうだけど」


二人の中はいいようで良かった。

そう思いながらドアを大きく開けて


「ただいま。こんな時間まで任せちゃってごめんなさい。」

「お帰りなさい師匠! これ見てください!」


そう言って見せてきたのはカルテで切り傷の薬を出したとあった。

傷の形状も絵で描かれており、わかりやすい。


「怪我したばかりだったか、血は出てたか、化膿していたのかなども書いてもらえると助かるけど、今日は十分よ。二人っきりに長時間させちゃってごめんなさいね。」

「いいえ、自分たちはそのために来ていますから、今後はもっと勉強して常備薬程度のb販売が問題なくできる程度にはなりたいです。」

「目標低!」


モウスの言葉にシルバが声を出す。


「目先の目標の話だ。目標は一人前の灰魔術師になってゲラダ王子とグローリアさんに認めてほしい。」


向上心は一番の成長につながる。


 二人は夕食を食べる時間を逃しただろうと夕食を作り、食べてから帰ってもらった。






 翌朝、今日も眠たそうなモウスを引きずってシルバが来る。


「二人とも自転車乗れる?」

「自転車ですか?」

「多分、乗れますよ。」


モウスもシルバも自身がないという声を出す。

もともと自転車は島外から持ち込まれたもので、老夫婦が偶然手に入れた物だった。


「じゃあ、練習がてら二人とも乗ってもらって一緒に市場へ行きましょう。」


自転車は荷台のある物と無い物と二台ある。

そのためリュックを背負って出発する。


 今日の配達は三件のみのため掃除をしてもらっている間に届けに行こう。

 市場が物珍しいのはきょろきょろしている二人に先に薬草などの仕入れをしに行く。


「おはようおじさん。」

「おお、おはよう。なんだ。今日は男っていうよりは弟連れか?」


問屋のおじいちゃんが笑う。


「見習いなの。これからは二人のどちらかが来ると思うから、それでね。」


ここに来る途中、話をしていたため


「あの、これを店に届けてもらえますか?」


シルバは緊張したように聞く。


「おお、構わねよ。その服って城の見習い服か?」

「はい!」


予期せぬことに大きな声で返事を返す。


「まあ、頑張れ。お妃様候補がずいぶんと好き勝手な生活をしているって灰魔術師たちが言っていたがお前らも大変だな。ノクティスにこき使われて」

「一言多いですよ。もし配達ができないようならお店の方へ開いている時間に取りに行きますからそう伝えてください。」

「わかったよ。じゃあ、また後でな。」

「よろしくお願いします。」


モウスが頭を下げ、問屋を後にする。


 市場の中はいい匂いがする。

見習いたちの目はそんな屋台へ向くため


「今日は買って帰りましょうか。二人とも好きな物買っていらっしゃい。」


そういって小銭入れを渡す。


「いえ! それぐらい自分たちで!」

「朝ごはんを店で作って食べるのと変わらないでしょう。これから毎日のように来るのに気になって仕方ないんじゃね。私は青果見ているから終わったら自転車のところで合流ね。」

「ありがとうございます!」


すっかりモウスの眠気も飛んだようだった。


 リュックに野菜や鶏肉を詰めて、手持ちで魚を持って自転車に戻ると二人とももう待っていた。


「お待たせ。帰りましょうか。」


荷台のない自転車に乗るモウスが私のリュックを持ってくれた。

シルバも魚を荷台へ乗せる。

いい子たちだ。


 お店に戻ると門番が店の前におり、


「どうしました?」


と、きくと


「仲間がふらつくっていうんで補給水をもらおうかと」

「すぐに用意するわ。」


店に入り、私室からポットを持ってきて水と補給水の元を入れる。

よく混ぜてからコップと一緒に渡す。


「一気に飲まないようにね。」

「ありがとうございます。」

「悪化したら医務室へ行くんですよ。」


門番を見送り、買ってきた食材を仕舞い、ダイニングテーブルで三人座って朝食を食べる。


 「じゃあ、午前中は掃除の後に調合メモを渡すからこっちの部屋で勉強していて、午後からまた接客しましょうか。」

「はい!」


二人とも返事はいいが口の中いっぱいに朝ごはんが入っている。


 掃除中に配達へ行き、急いで帰ってくる。


 午前中の忙しさはいつもと変わらず、奥の二人に声をかけて倉庫から備品を持ってきてもらえるのだから楽になったともいえる。


 午後から調合メモを見ながら簡単な調合をさせると


「こんなにすぐやっていいんですか⁉」


シルバに言われる。

城ではまず調合の配分を覚えてから実際に調合するのは三年目からだという。


「そんなに待っていたらあなたたちがここに来た意味ないでしょ。私は接客も調合も両方やってもらわないと困るからね。基本を教えて、そのうちメモを見ながら教えていなくても作れるようになってくれるとうれしいわね。」

「そんな、無理ですよ。」

「覚えてね。」


二人とも黙ってしまった。


「私は二十歳から見習いをはじめて、教えてくれていた夫婦が事故で亡くなってしまったのが三年前、そこからは調合メモを見て独学と会合で聞いて回って一人前と認めてもらったわ。座って勉強するだけじゃ、身につかないし、実戦してこそわかることもたくさんある。私が留守の時間に急患が着て、病院へ連れていっても忙しくて後回しになるって言われて、見捨てられる?」


首を左右に振る。


「灰魔術師ができる範囲での治療が必要な時が来るからそれまでにできるだけたくさんの薬を作れるようになりましょう。いいわね。変なところに来させられたと思うかもしれないけど、城に見たいに悠長に育成できる状況の店じゃないからよろしくね。」


と、いうことで地下室へ降りる。

そのうち整頓するからと今ある状態の薬草などの材料を説明。

先ほどメモにあった材料を思い出してもらい上へ持って行く。


 昨日の雨脚の影響か、今日はやはり客入りが多い。

レジと調合に分かれ順番に教えていると


「ノクティス、今日はどうだ?」


と、ギーがやってくる。


「あら、ノクティスの彼氏?」


なんて、時々お店のソファーで井戸端会議をしているおばちゃんが言うため


「ただの幼馴染ですよお~」


なんて、気のない返事をギーがしていた。


「あなたの彼女なんて絶対いやね。」

「お互い様だ。」


おばちゃんが帰ってもまだ晩餐には早い。

でも


「夕飯作ってくるから何かあったら呼んでね。」

「俺の分は?」

「あなたは城で食べるでしょ。」


シルバとモウスの分の食事の準備をする。


 出来上がり、二人が食べている間に閉店準備をし、昨日持ち帰ってきたドレスに着替える。

五着ほど持ち出したため店で着替えてから白へ行くことができる。






 夕食を城で食べるようになり、ゲラダ王子に夕食まで執務室にいないかと聞かれ、そこで薬の論文を呼んで時間をつぶしてからダイニングへ、お店は順調、見習いも仕事をすぐに覚えてくれるため教えがいもある。


 「そういえば、お披露目のパーティーってもう終わったの?」

「そんなわけないだろ。」


何言ってんだという顔をされる。


「だって、もう一か月ほどたつじゃない。すぐだって言っていたのに」

「候補の辞退や城の中でもいろいろあってな。来週の予定だ。ドレスのあわせは終わっているよな?」

「やっていないから言ったのよ。」

「今すぐするぞ。」


急なことに驚いていると手元のベルを鳴らし、メイドが来る。


「ノクティスのドレスは出来上がっているな。」

「お部屋に用意してあるはずです。お持ちいたします。」

「間違えて着てないかな?」

「今のところは着ていない。」

「持って行っちゃってないかな?」

「ギーは何も言っていなかったから問題ないはずだ。」


ドレスを持ち出していることに何も言わないのかと思ってしまう。


 夕食だといわれ、ドレスを見る前にダイニングへ移動する。

いつも先に来ているほかの候補たちに申し訳ないと思いつつ、何だが候補から逃げているようにも思え、いい口実に使われていないかと思ってしまう。


 夕食後、いつもなら帰るのだが、デザートのケーキを食べていると執務室に来たメイドが王子の耳元で何か話をしていた。

何かと執務室に入ってすぐに聞くと


「ドレスが見当たらないらしい。ギーに確認したが持ち出した中にはないということだ。」

「ほかの候補の部屋に間違って届いているとか?」

「候補は全員衣装合わせが終わっている。」


もうこれは出るなということだろうか。

一週間でドレスを作ることはできない。

ゲラダ王子が大きなため息をつくため


「ドレスを失くした物へ辞退の許可をくださいな。」

「ダメだ!」


チェッといいたくなる。


 執務室にギーやオーギュームさん、先ほどのメイドと一緒に探してくれたという山羊か羊のテリーだと思われるコルヌは耳の上に大きな角が巻いており、もう一人はムシコブほどピスティアに近くないミラはネコのテリーのようだ。

二人とも可愛い。

四人が呼ばれ、何となく、居心地悪い。


「ドレスの捜索もだが新たな物を急ぎで用意するように連絡を取ってくれ」

「そこまでしなくても部屋にあったドレスでいいですし、そもそも出たくない。」

「出てもらう。そうだな。部屋のドレスのサイズ調整と少し装飾を足すぐらいなら一週間かからないか?」


なぜがギーに聞くから振り返って見てしまう。


「そうですね。王女もよくやりますがだいたい五日ほどで出来上がってきます。」


なんでそんなこと知っているのだろうかと思いつつ、王女と親しいのかということにする。


「ではそうしよう。ミラ、手配を、ギーはこのまま残って、コルヌはノクティスを部屋まで送ってくれ。」

「いえ、帰ります。見習いが待っていますから」


話はどんどん進んでしまったが、私室では寝ないというとゲラダ王子は大きなため息をつくが


「今のところは不在のが効率いいか。」


なんてぼやいたのは聞かなかったことにしよう。


 執務室から第三の門を通り、第二の門へ向かう間、コルヌさんに


「私が管理するはずのものを、探し回っていただいてありがとうございます。」

「いいえ、もともとはノクティス様付きのメイドがするはずのことですがどうやら事情が変わってきておりまして、お部屋の管理がおろそかになってしまっていたものですからお礼を言っていただくようなことは、こちらとしては申し訳ない気持ちです。」


 「コルヌさんて、私と同じぐらいですか?」


身長が高い私とは逆に、おそらく成人女性にしたら低いだろう身長と頭左右についた角のおかげがマスコットのように愛らしいが顔立ちからして二十代半ばだろう。


「今年二十五です。私のことはコルヌと呼び捨てになさってください。」

「同い年ですね。年の近い人は知り合いに多いんですけど、同い年の人に会ったのはお屋敷を出て初めてです。」

「お屋敷とはスペールディア家ですか?」

「はい、今回もクリスタルについてきたようなものなのですが話し相手にもなれないぐらい忙しくて」

「お店が繁盛しているという噂はよく聞きます。スペールディア家では使用人だったのですよね。ナトラリベスからお客様が来られることはありましたか?」

「いいえ、向こうへ行くことは度々ありましたが、今も私の両親が旦那様の変わりにナトラリベスで暮らして仕事をしていますよ。」

「そうでしたか。国益にかかわるお仕事をされているのですね。こまめに連絡を取り合ったりはしているのですか。一人娘は心配でしょう。」

「それが全く、クリスタルが学生だった頃から向こうへ行っていますが、年に一通来たら良い方で、ここ十年は全くです。」

「寂しくありませんか?」


第二の門をくぐる。


「いないことになれていますし、今は仕事が優先で、コルヌには兄弟がいたりしますか?」

「どうかお話しやすいお言葉でお願いします。私には兄がおりましてアヌビス様の従僕をしております。」

「そういえば、アヌビス様は全く見かけませんね。留学か何かですか?」


もう二十歳は超えていたと思うが、なんて考えていると


「あまり知られてはいませんが海上保安の職に就かれ、現在は大半を海の上でお過ごしです。兄もそれについて行っています。」

「寂しいですか?」

「二人だけの兄弟ですから少し寂しいですがミラやほかの使用人もたくさんいますのでお城にいれば寂しくありませんね。」

「私も、お屋敷にいた間は両親がいなくても寂しいなんて思いませんでした。クリスタルと外で暮すようになって毎日忙しくて、寂しいなんて思っていなかったんですが、今の仕事に就いて、教えてくれていた老夫婦が亡くなって初めて一人になったんだと思うととても寂しかったです。今は見習いもお客さんも門番の人やここに来ればコルヌやギーにも会えますし、寂しくはないですね。」


第一の門が見えてきた。

この時間は城への一般の出入りを終了していることから人通りはない。


「そこにゲラダ王子は入っていないのですか?」

「……ゲラダ王子は、入っていないかも、ゲーラなら入れてもいいかもしれないです。なぜ、彼は王子なのでしょうね。」


門を出たところで話をやめ、


「送っていただきありがとうございます。おやすみなさい。」

「おやすみなさいませノクティス様。」


コルヌが頭を下げると門番も頭を下げてくるのでむずがゆくなりながら店に戻った。







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