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七つの国に架かる橋《加筆修正作業中》  作者: くるねこ
本編 サンス・オール
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4






 ケティーナの民の命を脅かしている流行り病は全身に黒い斑点ができるというもの。

似たような症例はいくつか知っているが、その斑点は次第に硬くなり、体を動かすと痛み出す。


体外表面から、

口、

のど、

食道、

気管と、

体内まで進行していく。


気管へ広がると呼吸がままならなくなる。

食道、そして胃や腸まで広がると内臓機能が停止。

出血を伴う激しい痛みが昼夜続く。

今は体外のみ進行を抑える塗り薬はあるが、完治は出来ない。

体内の治療をする薬はまだない。

ここでは特効薬の研究から、進行を食い止める薬を同時進行で行っている。

私はいくつかの症例を上げる。

特徴の一つが当てまってもその症例の病には当てはまらない。

そもそも、鹿のピスティアやテリーのみというのが気になる。

カルミナに鹿は少なく、そのほとんどがケティーナの大使や公使だ。

カルミナで起こりうる病の予防接種は受けているため灰魔術師の元へ訪れることはまずなく、国お抱えの白魔術師で事足りる。

詳しくは知らない種族だ。


 なかなか見つからない感染症の正体。

この島に今までなかった未知の感染症なのだろうか。

それでも、感染の症状を抑え、進行を弱める薬の作り方を提供してみた。


「こんな発想はなかったな。」

「これを後は発酵させて、その間にもう一つの薬剤を作っておきましょう。後、三日ぐらいで試験薬の目途が立ちそうですね。」


菌を取り出し、シャーレの上で培養された病。

その上に試験薬を塗り、効果を見る。

それを繰り返し効果のありそうな物から提案し、試験を繰り返す。

結果、ここ数日で病の表面的な菌へ効果がありそうな物が出来上がりそうだ。


「君は本当に見習いの灰魔術師か? 白魔術師でもここまでの知識を持つ者はこの国にはいないよ。」


それはおかしい。

王家専門医ともなればこれぐらいの知識あるはずだ。

こんな医療に軟弱な国だっただろうか。


「この国の白魔術師は新人の方が多いのですか?」


このテントにいる白魔術師のほとんどが二十代から三十代に見える。

一人前と言われる白魔術師の多くは四十代後半からが多い。

稀に天才や鬼才はいるがそれだけの年月実戦を重ね、経験を積まなくては信頼できる医師とは呼べない。


 白魔術師は医師として生を司り、黒魔術師は墓師として死を導く。

その間で灰魔術師は薬で生かし、毒で殺す薬師と呼ばれている。

灰魔術師だけが国家資格を持たずとも活動できるのは生者を殺すことができる力を持っているからだ。

殺す薬を国家資格のある者が使うわけにはいかないと考えられている。

薬師の中には生かす薬だけを売る人もいれば殺す薬だけを売る人もいる。

私たちは信頼の下で商売をしている。


 「この流行り病に始めにかかったのが白魔術師だったんだ。しかも、ほとんどが魔術師様と呼ばれる上位の医者たちだ。今となってはほとんどが寝たきりで、言葉を交わすのも難しい。父さんも……」


どうやらホエ王子のお父さんは白魔術師のようだ。


 「ホエ兄様!」


幼いが大きな声がテントの外から聞こえてくる。

兄様と言う事は王子が増えたのかと眉間にしわを寄せてしまう。

それをミュールに見られていた。


「どなたが来られたんですかね?」

「この声はキョン様だろう。城を出られるのは珍しい。」


ミュールが駆け足で外へ出ていった。

私もそれに続いて様子を見に行く。


 外におそらくキョン王子と呼ばれた少年と共にもう一人、幼子を連れた男性がいた。

男性はまだしも、キョン王子と幼子には黒い斑点が見える。

始めてみる実際の病状。

だが、これには見覚えがある。

今までシャーレの中で見ていた病原菌。

この国では未知の病気だったようだがこれは、


「ネコアシマダラ……」


私のつぶやきに隣に立っていたミュールは


「知っているのかあの病気を」

「カルミナでは稀にですが見られる病気です。カルミナには偶蹄類の民が少なく、私も実際に見るのは三回目です。」


この病気には今まで作ってきた薬では表面的な効果しか見られない。


 私は自分の薬箱に戻る。

私の持っている薬の中に効果のみられる薬がある。

育ての親が亡くなり、一人になった時にやってきたクロアシマダラの患者。

その時に作った飲み薬のストックがあったはず。

引き出しをいくつか開け、奥の方から茶色い小瓶を取り出す。

共にいれていた軟膏の両方についているタグにクロアシマダラとはっきり書いてある。


「あった!」


これを飲めば多少の発熱に筋肉の痛みはあるがそれも数日かすれば症状は完全に収まる。

さらに一週間ほどで斑点は剥がれ落ちる。

剥がれた皮膚からの感染症を抑えるために軟膏を塗り、経過観察が必要だ。


「これを、これを飲んでください。この病気はネコアシマダラという伝染病です。」

「え⁉」


ホエ王子は驚いた顔をする。

そして手渡した薬を見て、


「安全なものなのか。」

「これを一錠飲んでもらえれば徐々に症状は治まります。」


ホエ王子はキョン王子と顔を見合わせる。

そこに、


「僕が飲みます。」

「何もキョン様で…!」


ミュールが反論した。

突然の幼い王子の判断に反対の声を上げる。

どうやら信頼がされていないようだ。


 場所を変え、ホエ王子の個人の寝室として建てられたテントへ移った。

ベッドは使われた形跡はなく、ずっと研究をしていたのだろう。

ホエ王子、ミュールがマスクをする。


「これは空気感染しません。接触感染です。手が触れたり、体が触れたりし、菌が他人へ付着。手が口に触れたり、傷口に入ったりすることで感染します。なので、マスクは不要です。」

「いや、これは空気感染する。この薬で本当に効くのか?」


ホエ王子が疑問を口にする。


「カルミナでは効果がありました。少し、時間はかかりますが完治します。」


 キョン王子はベッドへ横になり、薬を渡す。


「体内に入った菌を殺すのに、発熱と筋肉の痛みがあります。」

「わかりました。」


薬を水で流し込み、安静を保つように伝え、テントを出た。

幼子を連れた男にもう一度詳しく説明をし、


「斑点が落ちたらこれを塗ってください。」


わかった。

そう答える男はテントに戻った。


 「お前はしばらくあっちのテントで待機だ。薬箱も持って行ってやるから待っていろ。」


キョン王子の容態によって私の処遇が決まる。


「先ほども話した通り、発熱と痛みがあります。数日は様子を見て下さい。」

「わかっている。我々が王子の容態から目を離すわけがないだろ。」


ミュールは何日たっても私に対抗的だ。

何かしただろうか。

いや、初めから印象は悪い。

王子に言われ、私も希望し、ここにいるが、ミュールは納得していないのだろう。


 その夜。

キョン王子発熱、筋肉の痛みを訴えるようになったと、白魔術師の一人から聞いた。

様子を見に行きたい。

そう言っても、テントから出る事は許されなかった。







ネコアシマダラ:肉球の足跡のような模様が大小斑らに出る感染症。

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