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七つの国に架かる橋《加筆修正作業中》  作者: くるねこ
本編 サンス・オール
3/60

3






 カルミナから隣国ケティーナに入り半日。


追手は来ていない。


 川を何度も渡らなくてはならないケティーナは多くの薬草が生える自然豊かな国。

小さな洞穴を見つけ、そこで数日過ごそうと思っていた。


 アヌビス様は大丈夫だっただろうか。

移動の途中で考えるのはそのことばかりで、だが、あの日バンダナを取られた事もあり、髪の色も気になって仕方がなかった。

髪の事を考えるとあの時のことも思い出しエンドレスだ。


 洞穴に荷物を置き、森の中に出る。

髪を染める木の実を探さなくてはならない。






 私は幼い頃は山にいた。

昔、この国に流れてきた奴隷たちの中に一族が丸々捕まっていた。

国から逃げ出し、何も知らずに山を登り、竜王に出会ったその一族がグリゼオ。


私の一族だ。


医療分野にたけた知識を持ち、老いた竜王の世話をすると言う事で山に住むことを許可された。

山には竜王しか住んでいない。


そういう事になっているため私たち一族は存在しない。

その為奴隷として不法に捕まえた所で何も問題がないのだ。

私も川で遊んでいる所をいきなり麻袋か何かをかぶせられ、連れ去られた。

袋から片足だけ出され、焼き印で奴隷番号を押された。




 私はそこから逃げ出した。

必死に歩き、売られる前に山へ戻ろうとした。

でも、それは出来なかった。


私は穢れた。


焼き印があるせいなのか、


それとも山を下りてしまったからなのか、


ティアリサムへ入る事が出来なくなってしまった。

それ以来、偶然出会った優しい老夫婦の下で生活をはじめた。

二人が亡くなってからも灰魔術師として働いていた。


 私の髪はグリゼオ特融の色で、この国には存在しない灰色の髪。

それを黒く染めて生活していた。

山から下りているグリゼオの民はほとんどが奴隷。

奴隷ではない者の方がいないのではないかと思っている。

身分を隠して私のように髪を染め、生きている者がもしかしたらいるのかもしれないが会った事はない。






 二日ほどかけ黒染めの木の実イナミを集めた。

根元だけなら足りる数だが、私の伸ばしっぱなしの髪全体を染めるのは難しい量。

今回は仕方ない。


 乳鉢ですりつぶし、いくつか薬草を混ぜる。

それを水で伸ばし、髪に塗って行く。


 髪の根全体に塗れているのか不安はあるが見える範囲が黒く染まっていれば良しとしよう。

一時間ほどかけ髪の芯まで染める。

余分な液を洗い流せばいいのだが、一時間も放置しているため、これを洗い流すのは大変。

水が黒く染まってしまう。

手に付いた液も落とさなくてはならないので、ついでで身体も洗おう。


 服に液が付かない様に巻いていた大きな葉の下で服を脱ぎ、川へ入って行く。

このあたりは全く生き物の気配がなく、日が暮れたこの時間帯、警戒はするが不衛生なままの体で旅をするのは薬師としてはありえなかった。

自分の表面で繁殖した菌が薬に移ってはかなわない。

この島では獣が多いせいか毎日お風呂に入る習慣がない。

それでも私は薬師である以上の衛生面の配慮として毎日お風呂に入っていた。

それが旅を始めて休まることなくカルミナを歩き続け、ようやく他国へ入ったのだ。

一休みも体も綺麗にしたい。


 川の深くなった場所まで泳ぎ、潜った。

髪をわさわさかき乱し、水に溶けた液が黒い靄を作る。

水の流れに任せ川下へ進む靄を見ながら入念に髪を洗う。


 もう、水の色も変わることなく、水面に映る月明かりに照らされた私自身にも液はついていないことを確認し、川を上がった。


「ようやく出たか。」


その言葉に驚きで肩が跳ねる。

全く気が付かなかった気配。

声の主はここ、茶の国ケティーナの茶防隊(さぼうたい)とはまた違う、身分の高そうな服を着た鹿のテリーだった。

この国の王は鹿のテリーである。

その親族か、

それとも家臣か。

一般民には見えない。


「川を汚したのはお前か。」

「……申し訳ありません。薬の研究で使った木の実が思いのほか色を出すもので、そうとは知らず、薬にも使えそうもなかったので川で道具を洗ってしまいました。ついでに自身も」


髪を染めること事は決して罪ではない。

だが、あえて黒くする者は少ない。

黒は黒魔術師、墓師(ぼし)の特徴的色。

墓師は死んだ者の体を清め、墓まで案内し、あの世へ渡る手助けをする国家資格を持った死者を導く者。

目立つ髪色は死者と間違われあの世へ連れて行かれると言われ、黒く染めるのが習わし。

墓はティアリサムとの国境近くにあり、竜王があの世へ送り届けると言われている。

実際はそんなことはしておらず、死者の弔いも祈りも各国の神官がすることであり、竜王は関係がない。


「この国で川を汚すのは罪だ。知らないと言う事は他国の民だな。」

「……ナトラリベスから来ました。他国の事は全く知らず、申し訳ありません。どうか、命だけは」


この国にとって川が大事なことは知っている。

死刑を言い渡される可能性もある。

事は慎重に運びたい。

カルミナの地で先に染めてから入ればよかったなんて今更の話だ。


 「城で女王陛下が判断を下す。先に服を着ろ。」


川を上がってすぐに声をかけてきたのはそっちだと言ってやりたいが抑える。

タオルで簡単に体を拭いてから急いで服を着る。

何だったら洗濯までしてしまいたかった。


 準備ができたのを確認すると


「お前、足はないのか。」


この足とは乗り物、アヌビス様は馬に乗っていたが、この国では鹿のピスティアに乗るか、荷物を運んでもらっているようだ。


「何分一人で貧乏な旅をしているもので」

「……近くで我々が張っているテントがある。今日はそこで休む。明日から城へ向かうぞ。」

「わかりました。」


荷物をまとめ、薬箱を背負う。

濡れた髪から水滴が落ちる。


 鹿の足は思ったより早く。

私は小走りで後を追いかける。

カルミナでの生活に身体が鳴れているせいか、風がとても冷たく感じるのはこんな時間に水浴びなんてしてしまったからだろうか。


 三十分ほど小走りで進み、呼吸が乱れさせる中、見えてきたのは火の明かり。

その先には大きなテントが見えた。

こんな国境近くで何をしているのだろうか。

やっと止まった鹿の足に乱れているように見せていた呼吸を整える。

この程度、食後の軽い運動だ。

少し、横っ腹が痛いが、


「王子に報告だ。お前、名をなんという。」

「はい、私は……」


ここで名乗り、カルミナのお尋ね者とばれるわけにもいかない。

とはいえ、本名を言うわけにもいかない。


「サンと言います。」


姓を持たない者も多い国。

特に怪しまれることなく、


「サンだな。お前はここで待っていろ。」


そういうと鹿に囲まれてしまった。

逃がしはしないようだ。


 再びタオルを取り出し、髪の水滴を取って行く。

火のそばへ行きたい。

そんな気持ちを抑えながらあたりを見渡した。


 ここへ連れてきた人物と同様の服装の者が数名、その部下と思われる兵士や白衣の者も数名いる。

白衣を着ていると言う事は白魔術師なのだろうか。


 しばらくして戻ってきたあの人物は


「王子が直接、話があるらしい。変な真似はするなよ。」


ケティーナの王子は確か八人。

王女は十三人。

ほとんどが年子の兄弟だと聞いたことがある。

女王には角があるらしいが通常の鹿の雌には角はない。

王子たちは父親からの遺伝により角の大きさが左右される。


 今、私の前にいる王子はずいぶん小柄な角に優しい印象のたれ目をした人物。

先ほどここまで連れてきた人物は鹿らしい黒目がちで、はっきりとした目元だったが個人差は大きいようだ。

一概に鹿だから可愛らしい顔立ちとは限らないのだろう。


「俺はケティーナ第四王子のホエだ。ミュールが手荒に扱ったようだな。すまなかった。」


そう言いながらマグカップを渡される。

中には暖かいミルクが入っているようだ。


「いえ、何も。ここで何をされているのですか?」


入ってきたテントの中にはどうやら薬の研究をしているようだった。

王子ともあろう人物がなぜこんなことをしているのだろうか。


「君も薬師ならわかるだろう。薬の研究だ。今、一刻も早く、完成させなければならないんだ。」


瞳に炎を燃やす王子の様子にミュールと呼ばれた人物を見る。


「旅をしているのなら知らないだろうが今、この国では流行り病に侵されている。しかも、どうやら感染するのは鹿のピスティアの血が流れる者のみ。王家はもちろん、民の多くは鹿のピスティアかテリーだ。ここでは特効薬の研究をしている。」

「そこでだ。薬の研究を手伝ってもらった暁には、罪をなかったことにしてあげる。だから、旅をしてきた中で身に着けた知識を貸してほしいんだ。」


私の右手を両手でがっしりつかみ、懇願してくる姿に圧倒される。

そもそも、


「苦しんでいる方を灰魔術師として、見逃すことはできません。ぜひ、手伝わせてください!」


と、こちらからお願いした。

するとホエ王子は疲れの見える顔でお礼を言った。

まだ、何の成果も出していないというのに、







イミナ:忌む、忌み名、からとりました。この国に自生する野葡萄のような植物で皮の内側に染める成分があります。


気がつくと評価がこんなたくさん。今までのはこんなことなかったので驚きと感動でいっぱいです。

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