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七つの国に架かる橋《加筆修正作業中》  作者: くるねこ
本編 サンス・オール
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 休憩をはさみながら三日もかけてやっと王都へ到着した。

睡眠のために休むのは収容所の一時預かり室。

仮眠しか取れないが、野宿ではなくてよかった。

この国、未だに家を持たない民もいる。

木の枝に絡まったり、岩の隙間だったり、泥・砂の中などで眠り、寝場所は毎日変わる。

昔はよく、野生という言葉を使っていたようだが、今となっては鳥や魚以外に使う事は稀だ。

この国でのみ、家を持たない者をおちょくる意味で使っている。


 王都に着くなり、ソリを下ろされた。


「連絡が回って、迎えが来ているはずなんだが」


辺りを見渡しているのに合わせ、私も顔を振る。


 王都。


ここ、ナトラリベスの城までの道は泥の上に石が敷かれている。

植樹により沈むことはないが踏むたびに少し沈む。

時々隙間から泥が噴出し、服を汚す。

それにも慣れているのか、皆、革のブーツを履いている。

男性はブーツの中にズボンの裾を入れ込み、女性は他国に比べスカートの丈が短い。

特に前面部は膝丈が多く、後方へ向けて裾が長くなるデザインが多い。

はしたないと言われる服装だが、この国ではこれが一般的なのだろう。


 「ああ、いた。あいつらだ。」


紫防隊の彼とまた、同じ服装の兵士が馬車の前に立っていた。

馬車を引くのは亀のピスティアのようで、ほかにも数台、行きかうのが見られる。


「お疲れ、そいつ、本物なのかよ?」

「さあな、話聞く限り、ウィーンドミレの事は知っているようだし、本物なんじゃないか。それより疲れたから早く変わってくれよ。本当なら昨日、彼女とデートだったのによ。今から機嫌取りに行かないと」

「ご愁傷さん。こいつはそのまま借りとくから」

「ああ、いいんじゃねえか。」


私を拘束する蛇はため息を漏らす。


「好きにしろ。あと数時間で俺も休みだ。」

「それじゃあ、お疲れ」


やっと解放された。

そう言った様子でここまで護送してきた彼は行ってしまった。


 その後、意外と足の速い亀の馬車により、私は城まで運ばれてしまった。


 さすがの城は杭の上と言う事もあり、沈む事はない。

木造ながらに大きな作りの城の背後にはこれまた城の背丈を優に超える大木が鎮座している。


「ひとまずこれをかぶれ。城の中で絶対に声を出すな。」


頭からすっぽり麻袋をかぶせられた。

悪寒が背筋を走る。

泥に突っ込んでしまった足に巻かれた包帯。

乾いた泥は落ちたが、包帯にしみ込んでしまったのが固くなっている。


 麻袋の隙間から見える城内。

煌々とした明かりがまぶしい。

なぜ、こんなにも明るくしておく必要があるのだろうか。


 高い天井まで伸びる大きな扉。

この先に女王がいるのだろうか。

大きな扉の下にある、私たちにちょうどいいサイズの扉が開いた。


「失礼します。アクアムからの要請が来ていた奴隷を捕まえました。」

「ここまで連れて来て、アナ様に合わせるつもりか?」

「まさか、牢屋の鍵を貰いに来たんだ。」

「ならいいんだが、早く行けよ。アナ様がもうすぐ戻ってくる。」

「出かけていらっしゃるんですか。外で会わなくてよかった……」


 「そうだな。で、誰に会わなくてよかったと?」


背後からの声に振り返る。

気配無く近づかれ驚きについ、


「はっ……」


息をのむ声が出てしまった。


「女か……この匂い、グリゼオだな。アクアムの要請の娘か。」

「は、はい……」

「こんなところまで連れてきてしまい申し訳ありません。」


紫防隊の二人が勢いよく頭を下げる。


「まあ、女は嫌いだが仕方ない。どうせ、わらわが先日買った奴隷のせいで収容所に入れなかったのだろう。」

「そ、そんなところです。」


大きな女王陛下。

上半身は人間、下半身は蛇。

その蛇の部分はとても長く、とぐろを巻いている。

人間部分はまるで私が小人になったかのような大きさで扉がなぜこんなにも大きかったのかが分かった。


 頭にかぶせていた麻袋を爪でつままれ、外された。


「うむ。女に間違いないようだな。小汚い。サンゴの部屋にでも入れておけ、アクアムには渡さん。」

「では、ウィーンドミレに?」

「いや、グリゼオをわが国の国民とする。その始まりの四人目だ。」


何を考えているのか。

売られる心配はなくなったようだが、何を考えているのかわからない。


 私はサンゴと呼ばれた者の部屋の前まで案内された。


「しばらくはこの部屋から出るな。あと、サンゴ様に何をされても逆らうな。後でワモン様も来るだろうけどとにかくしゃべるなよ。いいな。」


頷くだけの返事をし、ドアが開いた。


 「女の子の新入りって本当⁉」


飛び出すかのように出てきたのは人間のようで、その瞳は蛇だろう王女だった。


「グリゼオ!」


とても喜ばれている。

私としてはどういう態度を取ればいいのかわからず、立ち尽くしてしまう。


「汚いわね。お風呂入りましょう。髪も切らないとバラバラじゃない。」


巻きついていた蛇が離れると背中を押され室内に入った。

部屋の奥にあるドアを開けるとそこはピンクのお風呂場だった。

先ほどの部屋もピンク色が敷き詰められていて、可愛らしい物が好きなのだろう。


 湯船に押し込まれ、頭上から桶をひっくり返したお湯打ち付けてきた。

正直、痛い。急いでドラドラを浴槽の脇に置いた。


「その足の包帯も取りましょう。傷口が汚いと化膿しちゃうわよ。」


そう言って包帯に手を掛けられる。

包帯からはお湯に溶け出た泥が辺りを汚していた。


 サンゴ様はフリルの付いた可愛らしいドレスを着、赤と黒のストライプ二色の髪を二つ結びにしている。

大きな瞳で可愛らしい容姿をしている。

あっという間に洗われてしまった。


「可愛いお洋服も用意してもらいましょう。それまではこれを着ていてね。」


そう言って渡されたのは彼女のネグリジェだろうかワンピースだった。

全身を柔らかいタオルで拭かれていく。

腰袋からドラドラを取り出し、無事を確認する。

ケティーナの国章も汚れていた。


「あら、あなた、もう奴隷じゃないじゃない。カルミナで解放印を押されているじゃないの。何でそれを言わないの?」


聞かれたところで声を出すなと言われている。

どうしたものかと考えるが、筆談では手間だ。

そもそも、そんなことをしたらまるで私が話のできない人間のようだ。

兵士の様子からして一般人、ましてや奴隷が王族と話すなと言う事だろう。


「まあ、いいわ。今度カルミナに遊びに行く時に連れて行ってあげる。もうすぐ国際会議もあるし、それまでは私のそばに居てね。私、グリゼオが大好きなの。」


どういう意味だろうか。

人間としてグリゼオの民が好きなのか、それとも戦力、能力として役に立つことが好きにつながっているのか。

ここはウィーンドミレの同盟国。

下手なことはせず、大人しく様子を見る事にしよう。

何かあれば逃げ出せばいい。

運よく、ナトラリベスの王都はカルミナの土地に近い。

あの川まで抜ければ家まで逃げ切れる。







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