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七つの国に架かる橋《加筆修正作業中》  作者: くるねこ
本編 サンス・オール
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 立ち上がり、エゾを抱き上げなおす、だが、


「グリゼオはこんなこともできるのか。まあ、捕まえるのに問題はない。」


静けさの中、気配なく私たちの頭上に何者かが現れた。


 その人物は私の布に巻かれた髪をつかみ、引き上げた。

布がほどけ、三つ編みの髪がぷつぷつ切れる音がし、私の足は宙に浮く。

エゾの瞳が涙でいっぱいになる事に気が付き


「エゾ、大丈夫よ。」


着ている布の隙間に手を入れる。エゾを落とさない様にしっかり抱きしめる。取り出した鉄の塊、短刀をうなじ当りに添えた。


「サンス⁉」


フロントが驚きの声を上げ、私は短刀を引く。


 地面に足が付くのと同時に敵と認識するその人物から距離を取った。

フロントとニホン様もそれに付いてくる。


「おい、大丈夫なのか?」


フロントに聞かれる。


「髪切ったぐらい問題ない。それより、エゾ」


声に出さず泣きじゃくるエゾをフロントへ押し付ける。


「先に行って」

「は⁉」


フロントが少し切れ気味の様子。

彼は怒ると会話にならない。

その前に


「足止めしておくから先にニホン様とエゾを連れて行って、狙いがグリゼオなら一緒にはいられない!」


 私は森の中へ足を戻す。

不揃いの髪が散り、揺れる。


「サンス!」


フロントの声がする。

でも、振り返って戻る訳にはいかない。

かすかな足音は確実に私に付いて着ている。


 この国に来てまで追われるとは思っていなかった。


 しばらく走り続けると王都の石畳が始まった。

空は少し明るくなっていた。


 内戦中とはいえ、王都は物が壊れたり、誰かが怪我をしていたりといった様子はなく、静かな朝を迎えていた。

人一人いない、寂しい朝だ。


「追いついた!」


敵の手が伸びる。

私の首をつかみ、壁に押し付けられた。

朝日の元、見るその顔はトカゲのようだった。

森の中で音を立てなかったのも、気配がなかったのも私の声の影響を受けていない理由も種族ならではの特徴。


 空気が旨く吸えない。

視界がだんだんとぼやけてくる。


「そいつは生きて城まで持ってくる約束のはずだ。」


若い男の声。

その声に手の力が緩められ、私は石畳の上に倒れた。

せき込みながら気道が確保され空気が肺を満たしていく。

涙目になった瞳から雫がこぼれる。


「こんなの、こうすれば一回だろ。」


その声に頭を上げる。

だが、完全にその顔を見る前に腹部へ強い衝撃がやってきた。

口から胃液がでる。

口の中を酸味が占める。

地面で四つん這いになっていた私は下から蹴り上げられたのだ。

壁に背中を打った。

短刀が転がり、響いた音を立てた。






 全身を冷たい物に包まれている感覚に目を覚ました。


「痛い……」


腹部、そして首の後ろに感じる痛みを口にしながら起き上がる。

視界に広がるのはごつごつとした岩がいくつも積みあがった壁に床に天井。

一部に空気の取り込み口と出入り口の小窓だけが開いている。

近づき、小窓から外を覗くと壁の向こうは海のようだった。

水平線までよく見える。

先ほど、朝日を見たと記憶しているがもうすっかり暗くなっていた。

月も満ちが進み、少し形を変えている。


 小窓からは出る事が出来ないサイズ。

ここはいわゆる牢屋というものだろう。

入ったのは初めてだ。

次に出入り口の小窓を覗こうと歩きだす、すると足元からジャランという音がした。

薄暗い中で足に付けられたものに触れる。

鎖、その先は壁に付けられ、私の足首に取り付けられていた。

足首の包帯は外されることなく、服も布が巻かれた状態のまま、首元が痛みで熱いが髪がない事で風が通る。

頭が軽く感じるのは今更の話だ。


 なぜ、私は捕まったのだろうか。

リポネームには私がグリゼオと知る者はほとんどいない。

兄さんが王家の者に話をしていたかもしれないが私を捕まえたのは王家側ではないはず、でもないとニホン様やエゾに危害を加えるような真似をするはずがない。

内戦を起こした犯罪集団側に捕まったと思われる。


 でも、そうなればなおさら私の正体を髪も見られたわけでもない状態でグリゼオと標準を合わせ、狙ってきたことが解らない。


 出入口の小窓から外を覗く。

外は明かりの点いた廊下。

誰もいない、収容もされておらず、見張りもいない。

城以外で牢屋のある場所なんてそうそうない。

自警団もかかわっていると言う話だがここまでしっかりとした作りの建物を使っているとは思えない。

それに、壁をよく見れば年期が入っている。

過去、何人も何十人もここに収容されたことがあるのだろう。

壁、床、手の届く範囲に文字が残されている。

石で書いた文字は誰かへ伝える愛の言葉、誰かへ向けた謝罪の言葉が多かった。

こんなところがリポネームにあるのだろうか。


 もう一度海側の小窓を覗いた。

月明かりの元、海面が煌いている。

その海面を切るように三角形のものが通り過ぎていく。

流れるには早く、泳いでいるのだろう。

あの姿、魚ならサメだろうが、島の近海にはその存在は確認されていない。

唯一、アクアムの小島から船を出し数時間の場所で見る事が出来ると聞いたことがあるがそれも年に一度あるかないか。

潮の流れ次第だ。

では、あの三角形の背びれ、実物は見たことないがイルカのピスティアだろうか。

でも、イルカやクジラといった海人(うみびと)と呼ばれる海の中でだけ生活をする種族がアクアムの領土を離れ、隣国の海岸へ現れることはまずない。

リポネームから見る事が出来るのは国境の崖からだが、そうなると海の向こうにアクアムの国土が見えるはずだ。

でも、水平線まで見えるこの状況では、国境の可能性はない。


 アクアムの民。彼らは過去、魚と同じ扱いを受け、捕まり、食べられていたことがある。

そのことから自国の民以外との交流はほぼ無く。

奴隷を返し、輸出入を行っている。

主な産業は海産物。

新鮮な魚は各国船を出せば海で採る事は出来る。

だが、深海の海産物など、取りに行くことが簡単にいかない代物を中心に輸出。

国土が少ない分、奴隷や人間の民のため、穀物などを輸入している。

輸入は国王の一任で決まるため、陸の民は国王への不満を募らせ、隣国へなり、海底の反国王側と手を組み、海賊になるなどしていると聞いた事がある。

アクアム籍の民が外に出る事は珍しく、邪見にされることも多い。

海人たちは国外へ出る事なんてまずできず、陸地にいないのに国籍と言えるのか、と奴隷商人に捕まり、売られることもある。

共に逃げた奴隷の青年から聞いた話だ。

そのため、陸には国王とその側近のみが上がり、国際会議に顔を出すらしい。

それも年に数回。

他国との交流は少ないながらに大きな態度で有名だ。

長寿の鯨の王の代替わりの回数は少なく、他国に比べ五分の一から八分の一。

大きな態度もそこから来ている。国民は絶対的な存在の王に逆らう事が出来ない。

他国へ行くことなんてほぼ、許されないそうだ。


 そんな存在がリポネームの海岸へ来ているなんて、と、考えながら海を眺める。

海から空へ移す視線、よく見ると景色がおかしい。

月の方向は時間と共に移動するためあいまいだ。

でも星座はだいたい同じ位置。一年かけて移動する。

一日や二日で百八十度違う場所へ移動する事はない。







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