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七つの国に架かる橋《加筆修正作業中》  作者: くるねこ
本編 サンス・オール
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 アヌビス様と共にメラニンにまたがり、大きな砂漠と同じ色の布をかぶった。

少し暑いが姿を隠すためだ。


「これから海に出る。船を隠してあるんだ。」


島を囲む海流は島を丸い形に保つように周り続けている。

その流れに乗ればケティーナの土地を通らずにカルミナへ戻れるという算段なのだろう。

なんせ私はケティーナでは公使。国に入れば拘束なんてできない。


「私はリポネームへ向かいます!」

「この状況で何言っているんだ。さっきから体が熱いぞ。」

「この天気で汗を掻かない方がおかしいです!」


つい、大きな声を出してしまうと


「矢が飛んできます。」


カフカスの声にメラニンが方向を変える。


「もう軍が追いついてきたか。」

「向こうには砂漠になれた兵士がいますから当然でしょうね。こちらは溶岩の熱には慣れていようと足場の悪い砂漠に不慣れな我々しかいません。どうにかこの場を巻く方法を考えましょう。ここに一か月もいたんです、何かいい方法を思いつきませんかね。」


嫌味を交えながらカフカスに言われる。


「何かと言われても離宮から出られなかったですし」


と、言ったところで思い出す。


「川下りに誘われたんです。海までの」

「船ですか。王子の用意となれば全員が乗っても転覆なんてことはなさそうですね。」

「密航船でもなさそうだしな。」


密航船なんてこんな砂漠地帯にある訳ない。

そう言おうとすると


「島で一番の密航者入国国ですからね。禁止されている武器の輸入に規定以上の奴隷の買い取り、それに準じた人身売買。白魔術師に臓器を売ったり、その臓器を食べたり、狂った国だ。サンス様も食べてしまったかもしれませんよ。」

「……やだ、うっ……」


急な吐き気がする。


「冗談に決まっているだろ。食っているのはこの国のピスティアだ。あのライオンの飯に使っているらしい。」


振り返るとそこには十数メートルまで迫ったライオンの軍隊があった。


「ウィーンドミレは奴隷を規定年数以上働かせています。国民としての扱いを受けている人間は王族と貴族のみ、唯一の家臣の一族のみが恩恵を受けているようです。」


「国際会議で今度こそ制裁を加えないといけなくなるな。その前にあいつらを巻いて、船を奪おう。」

「あの時の火炎瓶はもうないのか?」


メラニンに聞かれる。


「材料はありますが瓶がないです。」

「これを使え」


そう言って渡されたのは食料が入っていただろう空き缶。

口が小さく、これなら綿を多く詰めなくてもアルコールは漏れてこない。


 薬箱を前に抱き、それをアヌビス様が支えてくれる。引き出しを持ち上げるように開け、中からアルコールと綿を出し、詰め込んだ。

それをアヌビス様に渡す、だが、


「あれ、これでは割れないので火が…!」

「問題ない。」


そう言って後方へ投げた。

火炎缶は落下する前にウィーンドミレの兵士が打った矢に串刺しにされる。

すると貫通した穴からアルコールが漏れ、火が回った。

砂の上、しみ込み気化したことでさらに火が大きくなる。


 足止めに成功はしたもののアルコールが尽きれば火が消える。

そうすればまた追いついてくるだろう。

二回目はもう効かない。


 走ってしばらく、スムールの姿が見えた。


「ちょうどいい。あいつらにアルコールと火を持たせろ。」

「彼らが燃えてしまうのでは?」

「八羽いる。二羽に火を残りにアルコールの缶を持たせ、兵士にかける。」

「ひどい!」

「この状況で面倒な娘だな。」


カフカスに薬箱を取られた。

大事な薬箱、手荒に扱わないでほしい。


 缶と火を持ったスムールが兵士方向へ飛んでいく。

後方で悲鳴が聞こえると心苦しくなる。


 前方に木が見えてきた。

川に近づいてきたようだ。

あたりを見渡す。


「ありました。」


国旗の付いた船が止まっていた。

昨日は祭事だったこともあり、兵士もいないようだ。


「ずいぶんといい物を用意してもらったな。」

「その様ですね。」


カフカスが出航の準備をする。

私は揺れるからと座らされ、同じように座ったメラニンたちと共に船の端で固まっていた。


 出航し、数分。

兵士の姿がないか、辺りを見渡すアヌビス様とカフカス。

スムールが敵のいないことを確認し、戻ってきた。


「このまま海へ出よう。」

「ちょうどいいところでおろしてください。」

「止まれない。」


カフカスに言われる。

船の揺れになれず、今でも座り込んだまま、しかも川の流れは激しく、立とうとしてもよろけてしまう為もうあきらめる。


「大丈夫か?」


そう言って手を差し出され、つかむ。

立ち上がらせてくれるのかと思ったが、共にしゃがみこんできた。


「アヌビス様も船は苦手ですか?」

「馬鹿言え、月のほとんどが船の上だ。」


そうなんだ。

初めて知る。


「船の上で何をされているんですか?」

「そりゃあ、主な仕事は密入国者の阻止だな。ここみたいに密入国天国にしない様にな。」

「アヌビス様は海上保安が現在のお仕事です。兄のゲラダ様が国交に付いて勉強されているのでご兄弟で分担し、将来国王となる者とそれを支える者としての仕事です。」


メラニンが教えてくれる。

カルミナの王家の事なんて全然知らなかった。


 急流を抜け、穏やかな流れへ変わった。


「娯楽の川下りとしてはいい物だな。」

「そうですか。怖くて楽しめないです。」


ゆっくりとアヌビス様に支えられながら立ち上がる。

だが、


「お気をつけよ。この先また荒れます。」


と、カフカスが教えてくれる。

でも、それは遅かった。


「危ない。」


そういわれ、アヌビス様に抱き寄せられた。


「うわっ!」


いきなりの事、何度目かの近さに驚き、彼を押し返した。

だが、アヌビス様がそう簡単に押しのけられるわけはなく、私が後ろに下がる事になったのだが、もう一度、船が揺れた。

それは大きく、私の足は浮いていた。


「サンス!」


名前を呼ばれてももう遅い。

背中にぶつかる船の柵、浮いた足に私の体は船の外に向かって動いている。

アヌビス様が伸ばす手をぼんやりと眺めてしまう。







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