16
朝日に紛れ、アヌビス様が隠れ家へ戻ってきた。
「ドラドラ、お疲れ様」
暖を取るのに抱きしめていたソライロオヨゲナイがまた、驚いた声を上げる。
それを見て、ドラドラは拗ねたような顔をする。
ポンッと煙を上げ、元の小さい姿に戻るとソライロオヨゲナイも落ちついた様子を見せる。
「お前、こんな貴重生物まで飼いならしているのかよ。」
「小さい頃から一緒に育っただけです。」
「ドラドラもだが、青い方もだよ。ばあちゃん、これだろ、前に話してくれた乱獲されたって鳥」
「乱獲?」
そんな話、聞いていない。
ソライロオヨゲナイはこの国の国鳥。
川が干上がり、個体数が減り、湖で保護していると言う話だった。
「この鳥はね、胸に肺や胃とは別に浮袋があるんだよ。そこに空気を入れて水に浮く。砂漠を渡る時は川から川へ移動するときだ。天敵を避けて空を飛び、安全な場所で休む。だが、休む場所には水がない。そこでこの浮袋に水を飲み込み貯めておくんだよ。もし、翼を怪我して歩かなくてはならなくても水さえあれば枯草を食べて生き延びられる。それだけ生命力のある鳥なんだ。昔はあたしの一族と共に生活していたらしいが川が枯れてからは王都に水を没収されたようなものでね。まあ、王都自体も水不足。そこでこの鳥に水を運ばせたんだよ。」
何度も水を汲んでは吐き出さされ、衰弱したら食用にされる。
警戒心がそれまでほとんどなく、簡単に捕まってしまった。
乱獲により調教され、不要になったら食用に回される。
皮を剥ぎ、浮袋は今でも兵士が腰につけ、水筒の替りに使っているらしい。
数年前、国際会議で急激な個体数の原因を問い詰められたウィーンドミレは国鳥に指定し、湖で保護すると約束したらしい。
それでも雛を捕まえ、王都のどこかで調教しているという話もあるらしく、アヌビス様たちはその調査も兼ねて来ていたらしい。
薬箱から軟膏と包帯を取り出す。
アヌビス様に近づき、怪我の手当をしようとするも
「動くな。また毒だったら」
と、側近の男に言われる。
大きな角のあるヤギのテリーのようで、アヌビス様に似た毛色の髪をしている。
今はその綺麗な髪も私のように黒くなってしまっているが、
「毒ではありません。」
軟膏を開け、一すくいを口に含んだ。
「まずい…」
「カフカス、あれは俺が悪かったんだ。」
「この娘がテンパった結果に思えるがな。」
背後に立つ馬のピスティアに言われる。
「メラニンも根に持ち過ぎだ。俺も酔っていたんだよ。一目惚れなんて今までなかったしな。」
目が合う。
アヌビス様の目に吸い込まれそうになり、現実に戻る。
軟膏を塗り、包帯を巻く。
傷からの出血は治まっている。
彼も、さほどのダメージを受けているようには見えない。
「これも飲んでおきな。体力が戻る。」
おばあちゃんが出してくれたものに皆で口を付ける。
王宮の豪華な料理より優しい味がした。
「この後はどうされるつもりですか?」
「移動しながら話す」
荷物を整頓し、アヌビス様の部下、カフカスが持って来てくれた毛布を薬箱に括りつける。
ソライロオヨゲナイとはここで別れ、おばあちゃんに預ける。
「軍がこっちに向かって来ているよ。早くお行き」
「ありがとうございました。」
「お世話になりました。」
疲れたドラドラは引き出しで寝てしまった。