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七つの国に架かる橋《加筆修正作業中》  作者: くるねこ
本編 サンス・オール
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 初戦中盤より、一人のテリーがずっと勝ち続けている。

ライラも見た事がない者と言う事で奴隷の一人ではないかと言う話だった。

身に着けているのはシャツとズボン。

茶色い木のマスクのみ。

マスクには猫の耳のようにとんがったものが二つ付いていることから猫科のテリーなのだろうと勝手に想像する。

本人には猫耳はないが髪色と同じく真っ黒な長いしっぽを付けている。

持っている剣は小ぶりで殺傷能力があるようには見えない。

気が付けば、私はそのテリーに釘付けで、まるで戦いを楽しんでいるようだった。

彼に向けられるブーイングに煮え切れない気持ちを抱き、勝利に喜んでしまう。

どうか大きな怪我の無いように。

そう願っていた。


 朝食から昼食、おやつにそろそろ夕飯が運ばれてくる時間。

テリーの彼は今でも舞台の上にいる。

挑んでくる者をことごとく水に落とし、傷をつけないことにブーイングを受けながらもここまで勝ち残ってきた。

身体のいたるところに切り傷を作り、出血もある。

いつ倒れてもおかしくないだろう状況で、ついに挑戦者が最後の一人となった。

そして、舞台に上がった人物に闘技場内はざわついた。


「何で、アンゴラ様が……」


ライラが驚きの声を上げる。

舞台に上がったのは重厚な甲冑をつけ、大剣を持ったアンゴラ様だった。


「ここまでの健闘、大いに盛り上げてくれたことに感謝しよう。だが、一国の王子が奴隷のふりをして他国の闘技場に入り込むとはな。今までどこに身を隠していた。ずいぶんと探したんだぞ。偵察のスムールは何度か見たが隠れ家へはなかなか帰らない。よく調教されている。」


そういうとフッと笑い。


「まるで我が国の奴隷のようにだな!」


そう言いながら大剣を振り下ろした。

石作りの地面が切れる。

軽装の彼に当たればひとたまりもない。

私は観客席から身を乗り出し、二人を見る。


「この祭事、勝者には褒美が出るそうだな。」

「ああ、だが、お前になんぞ誰が出すか!」


振り回される大剣を紙一重で交わす彼。


「俺は望む。」


大きな声が闘技場に響く。


「お前が婚約したと言い張る娘を貰う。」

「ほざけ!」


大剣が顔面のすれを通過する。

仮面は真っ二つに切られ、地面に落ちた。

そこには冷や汗をかき、顔を引きつらせているものの笑みを浮かべるアヌビス様がいた。

観客が盛り上がるように歓声を上げる。

こんな空間でよく笑っていられる。


 何度も交わる剣。

押されているのはアヌビス様。

朝から戦い続け疲労のピークはとっくに超えているはず、完全アウェーな空間で勝つことなんてできるのだろうか。

たちあがり、手すりに手を付く。


「サンス様、席にお戻りください。」


ライラに言われる。

だが、できない。

今はそんな余裕がない。


「どうやら第一王子妃は赤い尻の猿にお熱のようだな。」


先ほど席の後ろを通った貴族が見下したように言う。


「王子妃って何ですか。私はカルミナからの旅人です。」

「ほお、ケティーナの国交条約のために来た娘ではないのか、それは失礼した。人違いのようだな。こんな小娘が次期王妃とは笑える話だった。」


一々言い方がむかつく。

王妃など、そんな話初めて聞いた。

ライラに視線を向け、聞こうかと思ったが


「サンス様、離宮に戻りましょう。曲者が参加しているようですし」


ライラは知っていたのだろう。

あの貴族の様子、きっと私がアンゴラ様の挨拶で妃と紹介されたことを、この国の言語が解らないのをいいことに好き勝手された。

ならば、こっちだって好きなようにさせてもらう。


 「ドラドラ、アヌビス様を守って、後で合流しましょう。薬箱を持ってリポネームに向かうからアヌビス様もそっちに誘導して、彼一人ぐらい運べるでしょう?」


フーンッと鼻息を吹くとそこには炎が混ざる。

ソライロオヨゲナイが驚いた様子を見せる。

そして、小さかった翼を大きく広げるとどんどんと体も大きく変化していく。

ドラドラは手のひらサイズだ。

だが、それはこの島へやってきた魔術師の魔法によるもので自力でかけられている魔法を解くと、元の姿に戻る。

ライラがしりもちを突き、ドラドラを見上げる。

ドラドラはまっすぐアヌビス様の元へ飛んでいき彼へ振り落とされる大剣をその身で受け止めた。

身体はどんな鉱物よりも固く、強い。必ず、彼を守り、私と合流できるだろう。

そう願い、闘技場を抜け出そうとすると


「サンクトゥス!」


名前を呼ばれ、視線を戻す。

ドラドラにまたがったアヌビス様に呼ばれたのだ。


「お前の荷物はこっちで回収してあるはずだ。外に俺の部下がいる。砂漠で合流するぞ!」

「はい!」

「こいつは借りておく!」


 そういうと、ドラドラと共に、アンゴラ様を始め、加勢に来た兵士をほんろうしていく。


 腰を抜かしたライラの横を抜け、闘技場の廊下から窓の外へ飛び降りる。

三階ほどの高さ下に別の建物の屋根がある。

カルミナの店があったあたりでは一番のお転婆だと言われたがこれがグリゼオの身体能力だ。


この島のはるか東にある小国。

ここと同じ島国で戦が終わり、不要になった薬にも毒にも精通した戦闘要員の一族。

手に余る者が多かったことから奴隷商人に売られた。

抵抗を見せるも一族は全員死ぬか捕まるかで国を離れた。

そう聞いている。

私にも流れる血は血なま臭いことを知っている。

でも、自ら進んでその中に入りたいとは思わない。

きっと母や私の知っている一族のみんなのように優しい人の集まりだったと思う。


 曲面で滑りやすく、踏ん張ることなく屋根から落ちそうになる。

いくら身体能力が高かったと言われてもそれは大昔の話だ。

私はお転婆と言われる程度、戦になんて出られない。

このままでは落ちる。

そう思った瞬間、視界は空色に覆われた。

服の首元をソライロオヨゲナイが咥えているようだ。


「……重くないの⁉」


驚きでその程度の事しか声が出ない。

ファーっと鳴くとそのまま砂漠へ向かって飛んで行こうとする。


「あ、まって、アヌビス様の部下が」


いるはず、そう思い下を見るもそこはもう兵士だらけだった。

皆、私が落下したと思われる場所を探しているようだった。


 その中に黒い馬の影が二つ、燃えるような赤いたてがみが目に付いた。

砂漠に馬は珍しい。

そのうちの一つにまたがる者と目が合った。

背には私の薬箱がある。

その者が腕を体から九十度持ち上げ、まっすぐ指をさす。

その先は黄色い荒野、砂漠が広がっている。


「砂漠に向かって、都を出るところまででいいから」


ファーっともう一度鳴くと翼をはためかせ加速する。


 背後のティアリサム山から父の声がしたように思えた。








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