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七つの国に架かる橋《加筆修正作業中》  作者: くるねこ
本編 サンス・オール
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 アンゴラ様が離宮を離れ、朝食が運ばれてきた。

侍女のライラはこの国の事をよく教えてくれる。


「え、王宮の使用人ってみんな奴隷なの?」

「はい。私は代々王家に使える使用人の家系でライオンのテリーです。私の親や兄たちが奴隷を束ねる役職についています。私も将来は乳母になるべく修行中です。」


彼女は上半身が人間、下半身はライオンの体をしている。

王家の近くにいる者のほとんどが顔は人間に近くなくてはならず。

年々テリーの血が薄れていく彼女の家の者のほとんどがテリーであることが解らないぐらい人間に近い。


「この国ってピスティアが少ないの?」

「そうですね。砂漠に強い者しか生き残れません。水源も力のある者が使えます。そうして上位に君臨し続けるのが我が主の一族です。幾度となく水不足や飢餓にあってきましたが、人間こそ知恵を持った最高位の生き物だと国王様はいつも口にしています。ピスティアは必要ありません。」


ピスティアと人間は等しい知識量が脳に保存できる。

それでも、その知識をうまく使うには二息歩行に五本指の人間だという人が未だにいるのかと驚く。

ティアリサムにいた頃、父が昔話をよくしてくれた。


戦争ははじめ、種族間から始まった。

ほしい食べ物、水、材料をより安定的に手にするためだったという。

そこから領土の奪い合いへ変わり、国家間の争いへと変わった。

国家の中で近隣国と同盟を組み、そこで初めて種族が混じり合ったのだという。

戦争が終わり、今とほぼ替りの無い国境が制定されて以降、問題は種族間の優劣だった。

国際会議で平等と決まるその時まで、テリーは奴隷のように、ピスティアはまるで家畜のように、国民としての権限が全くなかった国も多かったという。

今となってはどの国も隠しきり、誰も知らないような歴史。

親から聞いた昔話。

物語。

その程度としか知られていない。

この国では今でもそうなのではないかと不安になる。


 いつも通りの一日を送り、お湯で身体を拭く。

布団に入り、離れた先にある王宮を見つめる。

そこには、いつもは明かりのついていない部屋がある。

昼間に窓がある事は知っていた。

だが、そこに明かりがついている所は見た事がなかった。

あの部屋は使われていないのだと思っていたが、と、考えている間に明かりが消えた。

消えた。

と、言うよりは雨どいが閉められたように見えた。


 離宮から出られない私には関係の無い事、何か理由を付けて、ここを離れる方法を探さなくては、






 今は数が月ぶりの雨の日。

一週間ほど前から降り続ける雨に空気は冷たくなり、布団から出ず、掛け布団の上にさらに毛皮のコートをかけ、毛布も何枚か貰った。

まるで風邪を引いたかのような恰好ではあるが、それでも寒い。

ドラドラは寒さ、暑さに強い。

その代わり汚れるのを極端に嫌う。

砂浴びや水浴びは身体の汚れを落とす為の行動。

体温も高く、私は布団の中に入れ、暖を取るのに役立ってもらっている。


 「サンス様、お食事をお持ちしました。」


ライラが離宮の壁替わりのカーテンをめくり現れた。

料理からは湯気が立ち込めている。

口から吐く息すら白く靄を作る。


「ありがとうございます。」


私と違い寒くないのだろうか。

と、思わせるいつも通りの服装に


「寒くないのですか?」


と、素直に聞く。


「産まれた時からですからもう慣れています。各家はこのタイミングで多くの水瓶を家の前に並べ水を集めながら、体を洗います。ただの水を温めて飲むのが贅沢だと言われていますから」


私の前にはスープが三種類にパンやサラダが並ぶ。


「すごく贅沢をさせてもらっているのね。」

「王家の食事はもっと豪華ですよ。私たち一族も同席は出来ませんが似たようなものを食べさせて貰っています。」


彼女も貧困、水不足というのを味わったことがないのだろう。

私もない。

想像の範囲内でもこの国での生活が過酷な事を話しからでも察することができる。

それを王家やその近くにいる一族たちは知っているが想像なんてしたことが無いのだろう。

他人事だった。

苦労なんて考えた事も無いのだ。

不憫である。


 食事に口をつけ、鶏肉をドラドラに分ける。

火の通った物でも生でも肉なら何でも食べる。

鳥の種類による好き嫌いはないが、自分より大きな鳥を襲う事はない。

ソライロオヨゲナイが被害にあう事はない。


「そう言えば、ソライロオヨゲナイを見かけなくなりましたが、どこへ行ったのですか?」

「はい。ソライロオヨゲナイは寒さに弱いので岩礁地帯で固まって暖を取っています。砂漠の中ほどにあるんですよ。小山になっているところに洞穴があって、昔からそこで雨の日を過ごしているそうです。」

「そうなんですか。」


あの綺麗な青を見られないのはつまらない。

ここでの生活で提案された暇つぶしは一通りやってしまった。

正直飽きている。

身体もなまっている。

何か面白い事はないだろうか。


 会話が途切れたことにライラは少し困った顔をした。

私が飽きてきていることに気が付いているのだろう。


「では、何かあったらお呼びください。」

「ありがとうございます。ごちそうさまです。」


 すっかり布団の中で過ごすのにも慣れてしまった。

少し腰が痛い。

横を向いたり、

仰向けになったり、

うつぶせたり、

体勢を幾度となく変えているが布団が柔らかすぎて体が痛い。

横を向いている時間が一番長いせいか肋骨が圧迫され、仰向けになった時に痛みがある。

これでは灰魔術師として笑われる。


 起き上がり、布団から出る。

薬箱の引き出しを開け、ケティーナで貰った服に着かえる。

ウィーンドミレの服に比べたら十分寒さをしのげる。


 持ち歩いている傘を広げ、離宮の周りを歩く。


 今日はポルンチュの花が咲いていない。

日光が無いと花開かないようだ。

湖に目をやると、どんよりとした空の色をした湖面の上に青い姿が見えた。

一人で何をしているのだろうか。


「ドラドラ、引っ張ってきてあげて、泳げないのよ。」


クェーっと小さく鳴くと飛んでいった。

そして、ソライロオヨゲナイの頭を足でつかむと引っ張ってきた。

ソライロオヨゲナイは特に抵抗しない。


 離宮に連れて行き、体を拭く。

少し、震えているようで、乾かす為に焚火をする。

焚火用のテントを広げ、その中で常備している少ない木材を燃やす。

熱気が心地よく、ドラドラもソライロオヨゲナイもぬくもりに触れる。


 身体が乾き、元気になった様子のソライロオヨゲナイは離宮の中を動き回る。

その様子をずっと見ているのだが、想像と違う部分に驚いている。


 ソライロオヨゲナイの姿は湖の上に浮いている状態しか知らない。

陸に上がるとその足が想像とはだいぶ違い、長かった。

水鳥特融の水掻きが付いている。

体長は私の胸に頭が付くほど。

首も長いので多少の大きさは想像していたが、身長の半分がたくましい足である事に驚いている。


 「こんなところにいるなんて珍しいな。どうしたんだこれ。」


アンゴラ様が離宮にやってきた。

ソライロオヨゲナイから、私に視線を移すと少し、嫌悪の表情を見せた。

服装だろうか。


「湖で震えていたので連れてきました。あのままでは死んでしまうかもしれなかったので」

「そうか。貴重な鳥だ、ありがとう。」


まただ。

取って張り付けたような笑み。

そこから


「明日には雨が止むとお婆が言っていた。それで、祭事の準備をしている。明日はそこを見学に来るといい。アヌビスもいるがばれない場所に席を作ろう。」

「お婆様?」


誰の事を指しているのか聞き返す。


「お婆はこの国の建国からずっと見守ってくれている国の相談役のことだ。竜王と同い年だそうだぞ。」


そんなことありえない。

そもそも竜王がいくつなのかは誰も知らない。

建国以来となれば体が生命維持のできる状態ではないだろう。

国の歴史はそんなに浅くない。


「そうなのですか。」


当り障りなく返事を返しておく。

お婆様の事は置いておき、祭事とは何なのか聞く。


「雨の後の作物の収穫が実りあるものであることを願う祭事だ。闘技場で戦い、勝者には国から褒美が出る。望んだものをなんでもな。」

「ずいぶん血なまぐさい事をするのですね。何でも貰えるのは魅力的ですが」


そもそも、国際会議で殺人は犯罪だと決まっている。

その為、娯楽の格闘技も禁止されていたと思うのだが、この国は知らないのだろうか。


「楽しみにしておいてくれ、それが終わったら川下りをしよう。」


祭事の事だけが伝えたかったのだろう。

すぐに帰ってしまった。


 私はこの国ついては知らない。

客人である以上、詮索もしない方がいいだろうが、私は今、ここではケティーナの公使として来ている。

特に業務はなく、アヌビス様を避け、砂漠を安全にわたるのが目的ではあったのだが、今となっては離宮でバカンスというありさま。

こんなことをしている場合ではない。








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