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七つの国に架かる橋《加筆修正作業中》  作者: くるねこ
本編 サンス・オール
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 朝早く、庭の散策をしている所に近づいてくる人影を見た。


「おはようございますアンゴラ様。」

「おはよう。いつまでもこんなところに閉じ込めることになり、申し訳ないな。」


そう思うのなら朴っておいてもらいたい。


「いえ、ですが私の方は追手が来ようと逃げるだけなのでいつまでもかくまっていただかなくても」


と、言うとアンゴラ様はどこか勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「そうはいかない。水源条約を結んでいるケティーナからの大事な公使だ。何かあっては顔見せ出来なくなる。もうしばらく、あいつが音を上げて帰るまで待ってくれ。」


水源条約。


砂漠に住む国民は少ない。

だが、昔からの土地を離れることができない者も多いという。

そんな彼らの元へ水瓶を届ける事がある。

だが、湖の水を減らすわけにはいかない。

これは緊急時のための貯蓄なのだという。

王都内もケティーナから運ばれてきた水で生活している家も多い。

島の中で一番国民の少ない国。

それでも、この土地は広大な砂漠。

過去、戦争が行われていた時代でも、国土を犯そうと思う隣国は存在しなかった。

王都を離れれば一日にいくつもの砂嵐が起きる。

数か月に一度の急な雨は永遠を思わせるほど降り続ける。

その水のほとんどが水はけのいい砂漠に吸収されていく。

その水を吸い、一時的なオアシスができるも一週間持たずに消えてしまう。

その一週間の間で種は芽吹き、花を咲かせ、新たな種を作り出す。

実らせた貴重な食糧は長期保存できるように調理され、数か月を過ごすのだという。

王都を離れればこういった生活が当たり前と言われた。

この国には私の知らない植物が多く存在している。


 「カルミナのように地中から水が噴き出せば、もっと土地が潤うのだがな。」


ポルンチュの花畑に座り、話をすることになった。


「カルミナの温泉は数千年前にマグマの下敷きになった湖の水が割れた溶岩の隙間から湧き出たものです。ただの水は川からの水路のみで、この国ほどではありませんが水はとても貴重でした。年中マグマがすぐ近くの溶岩の下を通っていたので、温泉の蒸気と合わさり、とてもムシムシしています。それに比べたら、ここは日差しが強くてもカラッとしていて、過ごしやすいですね。」

「気に入ったか?」

「はい。」


運ばれてくる飲み物に口を付ける。

夜は暖かいものを、昼間はとても冷たい飲み物を出してくれる。


「そう言えば、この国ではいつもこんなに冷たいものが飲めるのですか?」


そう聞くとアンゴラ様はまた、勝ち気な笑顔でにっこりとした。


「それは秘密だ。」

「秘密ですか。こんなに冷たい飲み物、小さい頃以来です。」


ティアリサム山は年中山頂には雪が積もっていた。

湧き水に甘い樹液を溶かし、冷やしたものをおやつの替りに子供たちは飲んでいた。


 湖に首が長く、青い身体にピンクのくちばしをした鳥が泳いでいた。

それをじっと見ていると


「あれはソライロオヨゲナイだ。泳ぐのがとても下手でな。腹部にある浮袋に空気を入れて浮いているだけなんだ。水の流れに身を任せて移動し、水草を食べている。この国の国鳥だ。」

「水鳥なのに泳げないとは、変わった生き物ですね。」

「そうだな。泳ぎよりも歩いたり、飛んだりすることの方が多い。だが卵は水中に産むんだ。国に川が多く流れていた頃は国中にいたんだが、今となっては水源の確保で頭数を減らしてしまった。」

「それでも、彼らはここでの生活を選んでいます。」

「え?」


可哀想。


そういう感想でも待っていたのだろう。

私の反応に豆鉄砲を食らったような顔を見せる。

この顔が彼の本当の顔の一部なのだろう。


「この国を離れて、ケティーナで卵を産むことだってできるでしょうに、それでも、この国に残る事を決めたのは彼らです。国鳥にふさわしいですね。」

「…そうだな。」


最後は明るい顔を見せたがどこか煮え切れない。

そんな顔をしていた。


 警戒心の強いというソライロオヨゲナイの一部が私たちに慣れてきたのか、離宮周辺に顔を見せるようになったのはいいが、それだけ、長い事ここに滞在している。


「あの、アヌビス様はこちらにはいつまでいるとおっしゃっているのですか?」

「君が王宮に現れるまでとのことだ。国にもまだ入っていないと伝えてあるのだが、強情でな。必ず守るから、安心してくれ。」


と、言われても、アヌビス様への警戒はほぼない。

会いたくないというのはあるが、心配する事なんて何もない。

どちらかというと、この離宮からいったいいつ出る事が出来るのかと言う事の方が心配だ。


「アヌビス様は城から出られないのですか?」

「たまに狩りに行っている。スムールがいつも血まみれで戻ってくるところを見ると餌やりを兼ねているのだろう。迎えに行ったあの日も狩りをしていたようで、馬車が追われただろう。」


そんな事もあった。

今では遠い記憶だ。


「私も、国を見てみたいです。少しでいいので出る事は出来ませんか?」

「では、海までの川下りをしよう。あいつが狩りに出ている時を狙って誘いに来る。いつでも出られるように準備をして置いてくれ。」

「……分かりました。」


何だろうか。

アンゴラ様に違和感がある。

いつものにこやかに男らしい笑みを見せてくれるのだが、無理をしているように見える。

私へ言えないことか、アヌビス様へのストレスか、王宮で他に問題が起きているのか、わからないが隠しているのがよくわかる。

この国の第一王子、王位継承権という序列がこの国には無いようで第二王子との派閥争いが王家の恒例となっているらしい。

悩み事の多い立場、体が無理をしていなければいい。

そう思い、


「お体にお気を付けください。」


と、伝えるとありがとう。

そう言いながら頬と頬とをすり合わせ、鼻をくっつけた。

ゴロゴロとのどが鳴っている。

まるで猫のピスティアやテリーのようだ。

人間にもできるのかと驚く。








ソライロオヨゲナイ:フラミンゴの青バージョン。少し頭大き目で想像してます。

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