七玉館殺人事件flag4〜聞き込み:大津三津子
その時。
トゥルルルル……トゥルルルル……。
突然内線電話のベルが鳴った。あわてて受話器を取る。全く、こんな時間になんの用事だ?
「もしもし、風祭ですけ……」
「風祭君!? 大丈夫?」
受話器のむこうから、聞きなれた、しかしだいぶ久しぶりに聞いたような気もする声が聞こえてきた。マネージャーの大津だ。
「どうしたんだよ?」
何もないのに突然「大丈夫?」って訊かれてもな。
「よかった、普通だ。さっきからずっと独り言言ってるし、時々大きな声で怒鳴ったりしてるから、殺人事件があったショックでおかしくなったのかと思ったよ」
「独り言?」
「あ、言い忘れてたですか? 声も物理的影響の一つなので、死神の声、普通の人には聞こえないです。ちなみに姿も見えないです」
大津の質問に、プーシャが補足説明する。つまり、さっきまでのプーシャとのやり取りは全部隣の部屋にいる大津に筒抜けで、しかも独り言に聞こえてたってことだよな。もの凄く危ない人だな。俺。
「あー、なんだ。ちょっと説明しにくいけどな、今の独り言は大丈夫だから。心配すんな?」
死神が現れたなんて説明したら余計心配されそうなので適当にごまかした。
「そう、なんだか解からないけど、本当に大丈夫なのね?」
「大丈夫だって!」
まったく、心配性なんだよな、大津は。
「狼牙さん、これはチャンスなのです! 大津さんから何か気づいたことを聞きだすのです!」
それもそうだな。この密室の中で推理するには、内線電話で聞き込みするしかないし。
「なあ、大津。事件現場で何か気がついたこととか、なかったか?」
「気がついたこと? そうねぇ……」
大津はしばらく考え込んでから続けた。
「私はメイドの九厘さんの悲鳴を聞いてから、現場の大広間に向かったの。私がドアを開けた時は、尾頭君はもう九厘さんの隣にいたと思うけど」
「ああ、それなら俺も見たよ。間違いない」
詳しく説明しておくと、俺の部屋から大津の部屋を挟んで反対側に尾頭の部屋がある。俺の向かいの部屋が先生の部屋で、大津の向かいに空西の部屋。尾頭の向かいは九厘さんがいるスタッフルーム。それで全ての部屋が一本の廊下に面している。で、スタッフルーム側の突き当たりに殺人現場となった大広間、反対側に出入り口。平屋だから部屋はこれで全部……割と単純な構造だな。
「で、私達よりちょっと送れて空西君が来たわ」
もうその頃俺は死体を目にしてパニクってたから、よく覚えてないな。
「凶器は多分すぐ横に転がっていた猫の置物よ。血がついてたし、尻尾のところが持ちやすくなってるから」
俺がパニクってる間に女子がそこまで観察してたとは、我ながら情けない。
「先生はそれで頭と腕を殴られたみたい。腕のほうのけがはそんなにすごくなかったから多分死因は頭のほうだと思うけど。私が覚えてるのはそれぐらいかな」
「記憶違いとか、ないだろうな?」
俺は一応確認しておいた。
「間違いないわ」
「どうだろうな、お前の事だから」
何しろ大津は暗記が苦手で二年から理系に移ったぐらいだし。
「失礼ね! もう県庁所在地ぐらい覚えたわよ!」
「いや遅えよ!」
小学生かよ! そんなレベルでマジで反論すんなよ!
「あ、そういえば……」
何か思い出したのか、大津が突然呟いた。
「どうした?」
「ううん、なんでもないわ。じゃあね。」
俺は聞き返したが、一方的に電話を切られてしまった。全く、情報は少しでも多い方がいいのに、何でまた突然電話を切ったり……。
「隠し事があるって事は、もしかして犯人です?」
「でも大津だけは完璧なアリバイがあるんだよな〜」
「完璧なアリバイです?」
部屋からの外出が禁止になる十時に先生と別れて部屋に戻ってから、死体が見つかる十一時四十分頃まで、大津はずっとお笑い番組を見ていた。笑い声が隣の部屋から聞こえてきたから間違いない。ちなみに、いつも見ているドラマに野球のナイター中継がかぶって中止になったから俺も同じ番組を見ていた。
「この離れ小島で、テレビが見れるのです?」
「内線以外電話もつながらないような島だけど、一応テレビの電波はキャッチしているらしいぜ。まあ、この嵐だからちょっと映りは悪いけど……見る?」
「いえ、けっこうです。確認しただけです」
一応リモコンをテレビに向けたが、断られた。俺としてもノリで聞いてしまったがテレビ見てる場合じゃないし、断ってくれてよかったけどな。
「やっぱり大津さんの証言のみで推理するのは無理そうです。他の人にも話を聞いてみるのです」
それよりプーシャが見てきてくれたほうが早いんじゃあ。
「捜査も自分でやらないと死ぬのです」
そうなのか。やっぱり。
ようやく聞き込み開始ですね。
展開遅くてすみません。
いや、まとめて読めばそんなに遅くない(少なくともラ研では指摘されなかった)んだから
もっとテキパキ投稿しろよって話なんですが。
推理小説は一つの事件を最後まで書いてからじゃないとアップできないので、
次の章を書きためてるんですよ;