結婚式場警視殺人事件flag3~空西の風邪
「おーい、風祭!」
お、入れ違いに大津と空西が来たみたいだ。全く、遅ぇよ、空西!
「悪い悪い」
あれ? ちょっと声おかしくないか?
「実は悪質な鼻風邪ひいちまってな」
ちーん。
「熱とかくしゃみは全然平気なんだけどよ」
ちーん。
「鼻水が止まんなくて」
オイオイ、説明の間だけで二回も鼻かんだぞ。俺と二人で「烏山高校の健康優良児コンビ」として有名な空西にしてはかなりの重症だな。
「今日は風が強いから、無理して来ないほうがよかったんじゃない? 遅刻の原因も薬局寄ってたからなんでしょ?」
「ああ、まだ薬効かねえけどな」
ちーん。
「お大事にするのです」
そう言うプーシャを見て、死神も風邪ひくのかちょっと気になった。今度機会があったら訊いてみよう。
「あ、受付始まったみたいよ」
大津が受付のほうに目をやった。すでに三人ぐらいの短い列ができている。多分三人とも新郎新婦の職場仲間だろう。華々しい席なのに空気が物々しい。
「殺人予告が届いてるからしょうがないけど……なんだか嫌な雰囲気ね」
人を疑うのが職業って人の集まりだからな。ある程度はしょうがないんだろ。
「それは探偵も同じなのです」
ハハハ、俺には向かないけどな。前回の事件じゃそれで苦労したし。
「……でも、風祭君はあんな風にならないでね」
大津がどこか寂しげに呟く。オイ、ソレ、どういう意味だよ。
「だって風祭君があんな風になっちゃったら、足払いかけてもつまんないもん!」
お前は俺を何だと思ってるんだよ!?
「んじゃ、俺が受付済ませてくるよ」
本来ならこういう場合の代表は部長の空西なんだろうが、あの鼻で行かせるのは酷だよな。ってことで副部の俺が受付に向かう。
受付には俺の前に二人が並んでいた。二人とも体格がよくいかにも刑事って感じだが、体育系の同好会に居ればそうそう見ない大きさでもない。
「お名前は?」
「奈原武之と二十大だ」
二人のうち右側にいたほうが告げる。「ナハラ タケシ」に「ハタ マサル」か。こういうイメージ通りの名前を持った人に遇う度、「名は体を表す」って諺を思い出して悲しくなる。どうせ俺はヤムチャだっての。
で、受付嬢が追い打ちをかけるように俺の名前を聞いた瞬間噴き出したりするから親を恨みたくなった。