結婚式場警視殺人事件flag1〜予告状
第二部スタートです。
いわゆる「別の巻」を意識したので、
ここから読み始めても大丈夫になっています。
「僕、これが済んだら彼女と結婚するんだ」
その場所の性質上、ある程度予想はしていた言葉。しかし、その言葉がもたらす不幸を知っている立場から聞くと、言葉自体が持つ甘い意味とは対極の印象を持つ。それは例えるならば、一人の命を一瞬で奪い去ってしまう――銃声。
「ここでいいんだよな」
俺は何度も地図を確認した。依頼の場所、本当にこんな豪華ホテルなのか?
その時。
どげしっ! 突然弁慶の泣き所に鈍い痛みが走った。
「痛ェー!」
「ゴメンゴメン。足下がお留守だったからつい……」
膝を抱えてうずくまる俺の頭上から、聞き慣れたクスクス笑いが聞こえてきた。
「その声は大津!」
俺は声の主を睨みつけた。――大津三津子。俺とは幼馴染兼クラスメイト兼中華拳法同好会の仲間って、「いかにも」な続柄を持つが、実際俺たちの間に浮いた話は一つもない。ヘアバンドがトレードマークの、なかなかの美少女。まな板胸が玉にキズだけどな。
「まったく、もう着いてるのに何度も何度も地図見て、どうしたの?」
「いや、お前の親戚の結婚式にしちゃ豪華すぎるから」
「親戚って言っても従兄弟違だからね。お祖父ちゃんのお葬式以来会ったこともないし」
「従兄弟違?」
「お父さんかお母さんの従兄弟なのです」
誰かが横から付け足した。青いツインテールが印象的な小柄の少女。
「プーシャ!」
「アルシュバルツさん! すごい、外国人なのによく知ってるわね」
彼女はプーシャ・アルシュバルツ。俺のクラスに転入してきた外国人で、最近中華拳法同好会にも入会した。――というのは建前で、実際は人間の生命の重さを学ぶべく人間界に留学してきた死神。冗談みたいだが実話なので信じてもらうしかないな。
「狼牙さんは日本人なのですからちゃんと勉強しないとダメなのです!」
そしてそれ以上に冗談みたいなのが俺の名前。――風祭狼牙っていうんだぜ? 当然小坊の頃のあだ名はヤムチャだった。
この名前で一応一か月ちょい前に殺人事件を解決したことがあったりするから世の中わからない。
「ところで空西は?」
俺はまだ来ていないもう一人の友達、空西悟について訊いた。
「空西君? 多分迷ってるだけだと思うけど、そう言えばちょっと遅いわね。電話してみるわ」
大津は小走りに電波のいい屋外へ移動した。――やれやれ、これでやっと二人で話せるな。
「プーシャ、こっちの生活、少しは慣れたか?」
「はいなのです」
プーシャが死神だってことはもちろん二人の秘密だ。「騒いだら殺す」って念押されてるし。
「それにしても、お前の収入事情ってどうなってんだ? 一人暮らししてんだろ?」
「上からおこづかいが出るのです。……もしかして、自室の押し入れの中に――とか期待してたのです?」
「んなわけねぇだろ」
ってかソレ、お前の配色だと死神というよりむしろ未来の世界のネコ型ロボットだし。
「あの、すみません。もしかして、ミッちゃんが言ってた風祭君にアルシュバルツさん?」
二人で話していると、突然声をかけられた。声の主は純白のタキシードを着た好青年だ。
「あ、申し遅れたね。僕は古間青助。君達を呼んだ張本人さ」
古間青助さん――。ああ、新郎の。確か、職業は警視だったよな。新婦は警部で職場結婚らしい。
「新郎さんです? 新婦さんは一緒じゃないのです?」
「ハハハ、結構ウェディングドレスって、着るのに時間がかかるみたいでさ。先に僕だけでも挨拶をと思って」
「それはどうもなのです」
「あの、気になってたんですけど」
せっかくの和やかムード、多分壊しちまうが、これだけは言わないとすまないからな。
「なんで、殺人予告が来てるのに結婚式を決行したんですか」
――そう、表向きは大津が部活の仲間を招待したって形になってるが、実際俺が呼ばれた理由は殺人事件を未然に防ぐための護衛。
ちょっと前にこの式場に殺人予告が届いたのさ。
「十月十七日の結婚式で誰かが死ぬ」ってな。
っと、言うことで第二部始まりました。
次回からいよいよ警部さんの登場です。
第一部をクローズド・サークルにしてしまったので、
推理物なのにまだ警部さんいなかったんですよね、この小説。