七玉館殺人事件flag1〜死亡フラグと死神
この小説の登場人物は名前が全員「ドラゴンボール」のキャラクターのパロディとなっておりますが、
名前をもじっただけであり、犯人や被害者役のキャラクターに対する悪意はありません。
誰がどのキャラクターかは、犯人を推理するついでに推理してください(笑)
感想ついでに推理を披露していただけるとありがたいです。
名前のみのパロディはファンフィクションに分類されないと思いジャンルは推理とさせていただきましたが、
もし版元様の方で問題がありましたらご一報ください。すぐに変更します。
章ごとに別冊を意識しているので、ここからでなく、各事件の「flag1」から読み始めていただいてもかまいません。
「冗談じゃない!この中に犯人がいるかもしれないんだぞ! 俺は一人で部屋にこもるからな!」
俺はそう宣言して勢いよく自室に入った。大きな音を出してドアが閉まる。俺は後ろ手に鍵を閉めた。殺風景な自室の中を見回す。壁にも抜け穴が隠れていそうな不自然な所はないし、カーペットを敷いていないフローリングの床からも進入は無理だ。内線電話とテレビの置かれた台は壁から二十センチほど離れて置かれているので、裏に隠し通路があったら気がつくはず。バスルームの換気扇はしっかりはまっているから気にしないでいいだろう。まさか海沿いの崖に面している窓から入ってくるなんて事はないだろうが、一応窓の鍵も確認する。――全く、嫌な嵐だ。天気予報では晴れのはずだったのにな。
「よし」
これでこの部屋には誰も入って来れない。ベッドに腰掛けて、俺はほっと一息ついた。さて、テレビでも見るか。
「え……?」
俺は目をこすった。しかし、目の前の異常な光景はなくならない。さっきまで誰もいなかったはずの部屋に、女の子が立っている。中学生……いや、発育のいい小学生かもしれない、それぐらいの少女。無地の黒いパーカーを羽織り、染めているのか青い髪を二つに結んでいる。肩から下げている髑髏マークのついたかばんが化粧っ気のないおとなしそうな顔に不釣合いな印象だ。
「君は?」
常套句だが、それ以外に言うべき言葉がわからなかったので俺はとりあえず訊いておいた。
「えっ!? 私の姿が見えるのです?」
彼女はどこかずれた驚きを見せてから、
「私はプーシャ・アルシュバルツというのです。死神をやってるのです」
ずれた敬語でずれた自己紹介をした。……なんだ死神って。
「えーと、死神は死神です。寿命が来た人の魂をあの世に連れていくアレです」
どうやら字義通りの意味らしい。頭がどうかしているのか? いや、部屋の中に突然女の子が現れたという状況自体どうかしているし、ここで疑う理由もないよな。とりあえず信じることにして思考を再開した途端、俺はあることに気がついた。
「『魂をあの世に』ってことは、まさかさっきの殺人事件の犯人か!?」
犯人が死神だったら密室にこもっても意味が無いじゃないか!
「いえ、違うのです。死神は手続きなしで現世のものに直接物理的な影響を与える事は出来ないのです」
あなたに声が聞こえているのが不思議なくらいなのですと付け加えながら、プーシャと名乗った死神はテレビをすかすか通り抜けて見せた。俺はそれを見て少し安心する。もちろん、自力で調節が出来るのを隠しているのかもしれないが、これから殺す相手に嘘をついてもしょうがないので多分事実だろう。犯人だということがばれたところで多分現世の警察に死神を捕まえる実力はないだろうし。
「じゃあ、その死神さんが俺に何の用?」
「あっ! そうだ、忘れるところだったです。私の目的はこれなのです」
プーシャは急に哀れむような表情を浮かべた。そしてかばんから悪魔的な装飾が施された鏡を俺の前に突き出す。俺の顔を見ろということだろうか。俺はその鏡を手に取った。そして、気づいた。
「……なんか生えてる」
いや、刺さっているというほうが正しいだろうか。とにかく、変な旗が俺のつむじから飛び出していた。端が解れた白地の布に血のような赤で死という文字がプリントされた毒々しいデザイン。そのデザインが理由か、それとも頭に何かが刺さっているという普通だったら命に関わる状況だからか、俺の背筋に寒気が走る。
「何この旗」
とりあえず訊いた。プーシャは知ってて見せたんだろうし。
「死亡フラグです。これが刺さると死因はともあれ次の朝日が昇るまでに肉体が死を迎えるのです。聞いたことあるのです?」
いや、答えになってないし。それに『フラグ』ってもともとプログラムかなんかの用語であって本物の『旗』じゃないんじゃあ……。
「細かい事を気にしてはダメなのです。死神はこれを目印に死にそうな人を見つけるのです。ちなみに、あなたは特殊な体質みたいですけど普通の人には私の姿と同じく見えないので安心するのです」
「つまり、俺は死にそうってことか?」
何となく質問したつもりだったが、口に出すと不安がこみ上げてくる。特別将来の夢があるわけじゃないが、なんとなく「やり残したことがある」という感覚はある。それに何より、生物が本能的に持つ死への恐怖。
そこに、プーシャは見事に止めを刺してくれた。
「多分今晩中に死ぬのです。今日はどしゃぶりですけど雲の上はきれいな満月なのです。素敵な満月の日に死ねてラッキーなのです」
マ ジ か。
「死にたくない……俺はまだ死にたくないぃいいいいいい!!」
俺の絶叫は突然の雷鳴に打ち消された。
これは以前「ライトノベル作法研究所」の夏祭り企画に投稿させていただいた作品を連載用に改稿したものです。
夏祭り期間中に90点、期間後の感想返しで130点と、
プロ志望てない身としてはなかなかの高得点をたたき出すことができました。
連載版の掲載、頑張ろうと思います。