一切れのガトーショコラを
挿絵(写真?)が入っています。
十三時を過ぎた大学内のカフェは、人もまばらで空席が目立つ。そもそも、金曜日に授業のある学生自体が少ないと感じる――実際、私も金曜日は本来終日お休みだ――し、既に午後一番の授業が始まっている時間なのだから、人が少ないのも仕方がないといえば仕方がない。
私は、真っ直ぐにレジへと向かった。レジの横には、サラダやらケーキやらシュークリームやらが入った冷蔵庫のようなものがある。私はその中から、お目当てのものを見つけた。
「ご注文お伺いします」
若い女性スタッフが、そんな声をかけてくる。おそらく、学生アルバイトなのだろう。大学内にあるカフェだからか、年に二回ほど学生アルバイトを募集しており、学内でそんなビラを見かけたこともある。実際、私の知り合いでも数人が、このカフェでスタッフとして働いていた。
「えっと」
もう心は決まっているのに、咄嗟に言葉が出てこない。他人と話すことに対してもだが、私はあまり積極的な人間ではないのだ。この歳になっても、人見知りが直らない。
それでも、買いたいものはとっくに決まっているのだ。
「ガトーショコラ、一つください」
一切れのガトーショコラが入った角皿を持って、四人がけのテーブル席に座る。粉砂糖とチョコレートソースがかけられたガトーショコラは、何度か食べているのでその味を知っているのだが、それでもやはりおいしそうだ。しかし、いつもなら、ホイップクリームが添えられているのに、今回はそれがないのが気にかかった。あのホイップクリームも含めて、私はこのメニューが好きだというのに。
「いただきます」
小さな声で呟いて、手の平を合わせる。そして、その三角形の固まりにフォークを突き立てた。一口大になったそれを、口に運ぶ。少し控えめな甘さが、口の中いっぱいに広がった。
百円硬貨二枚でお釣りが来るほどお手軽な値段だが、私にはこれでいいのだと思った。
自分自身の誕生日を、ひとりだけで過ごすのなら、この甘い幸福を独り占めするのも悪くない。単純だが、そう思えた。
こんにちは、葵枝燕です。
『一切れのガトーショコラを』のご高覧、ありがとうございます。
本日、十月二十七日は私、葵枝燕の誕生日でございます。「なろう」に登録して二度目の誕生日です。というわけで、こんなものを書いてみました。本当に大学内のカフェでガトーショコラを食べるつもりなのかはわかりませんが、「私」=葵枝燕と思っていただいてかまいません。
去年はどうだったか憶えていませんが、何だか今日が誕生日って自覚があまりありません。不思議と、祝ってほしいという思いも薄くて、そりゃまあ祝ってもらえたら喜ぶでしょうし嬉しいのですけど、何だろこの変な気持ちって感じです。
ちなみに、挿絵として入れたガトーショコラの写真は、私が撮影と加工をしています。二〇一七年五月に撮影したものがベースとなっています。
それでは、読んでいただいた方に最大限の感謝を。ありがとうございました!