その忌子、誤解を招く
皆さん六十進法は知ってますか?
凄く身近なものなんですよ。
「少々派手に殺ったが、指名手配されないだろうか……?」
『怖いのか?』
「いや、相手をするのが面倒なだけさ」
フードを深めに被り、街の門の隠れた通り道で外に出る。まともな食事にありつけないから、自分でコッソリ獣肉を調達して、その場で焼いて食うためだ。そして、今の様に街を脱出するためでもある。
「ここから北西へ向かう。国外逃亡さ」
理由は三つある。
一つ、この国が嫌い。二つ、隣国に両親が眠っているから墓参り。三つ、隠した財産の回収。
重要なのは、三つ目の理由だな。何せ、今の俺は一文無しだから。
「まぁ、道中は森ばかりで、食料調達には問題無いだろう。予定より早く出る羽目になったが、大した問題はない。お前らが居るからな」
『随分頼りにしてるな』
「それなりに有用だからな。信頼の分、しっかり役に立ってくれ」
『僕は寝てても良いかな?』
「ちょっと待て、お前らの使い方を教えろ。いざという時の切り札にしておきたい」
と言う訳で、移動しながら説明して貰った。
扱いとしては魔道具とほぼ同じだが、少し強力過ぎて使いどころを選ぶ。消費するのは魔力だが、俺の瘴気で賄えるから実質無制限。ただし、身体の負担を考えて使わないといけない。七つの大罪でも、俺を呪う事はできないようだ。逆に強くするだけだった。
それと、俺の強さに関する事だが、呪われる程強くなる……呪われた物を集めたり、より凶悪な物を手に入れる事で強くなる。スキルも道具から手に入る。
その証拠に、ステータスが変化している。
レイス Lv.Ⅱ【呪Ⅴ】【業壱】《Mia 4B0》
スキル:《瘴気抑制》《怠惰》《憤怒》《夜目》《鑑定》
加護:【死ノ呪イ】
ステータスLv.欄に妙な物が追加されているが、意味不明だ。
それでも強くなったのには変わりが無い。分からない部分は、後々検証すれば良いさ。
ステータスに物を言わせ、それに加えて、何故か記憶にある知識を用いて疾走しながら国境へ向かう。
道中レイスは魔物の襲撃にあったが、血贄の刃によって生贄となった。
青い柄の両刃の剣。刀身は細い長方形で、錆びた様に茶色い。実はこの茶色、錆ではなくこれまでの犠牲者の乾いた血なのだ。生き物の血を吸い上げ、持ち主を一時的に攻撃力、魔力、素早さを強化する。使用者の血でも同じ効果を発揮する。血を吸い上げると、刀身は血流のようにも赤くなる。
デメリットは、最後に斬ってから二分経過すると乾き始める。長時間使用すると、血を求めて誰彼構わず襲いかかる(無効)。使っていなくても、段々と血に飢えてくる(これも無効)。鞘に収めると、およそ十秒で元に戻る。
レイスは剣を抜き身のまま疾走し、出会う魔物を気まぐれに殺していく。剣の練習として、より正確に狙う為だ。一対多数戦と称して、ゴブリンやオークの群れを反撃のみで斬り伏せる。逃げる者は容赦なく殺害し、気まぐれに逃しては後を付け、魔物の集落に辿り着いては皆殺しにしていった。
『お前……乗っ取られてないか?』
「(やってる事は)異常だが、(俺は)正常だ」
『分かった。(お前は)異常だが、(それは)正常なんだな……?』
「そうだ」
全てを殺し終わった後、噛み合っているようで噛み合ってない会話が始まった。
元々、レイスはそこまで口数が多い方ではなく、言い方によっては誤解を受けやすい人間だ。
似たような性格をしているラースも、酷い読み間違えをしている。
『よし、お前はとんでもない殺人鬼だ。今すぐ剣をしまえ』
『流石に……これは僕でも引くよ?』
「ちょっと待て、(精神状態は)正常と言っただろ! 俺は操られてない!」
『あぁ、それ(頭がイカれて猟奇的だ)が、(お前にとって)正常だろうな。だが、これ(死屍累々の惨状)はやり過ぎだ』
「確かにこれ(遭遇率とやってきた事)は異常だが、後々の心配(Lv.と遭遇率低下)の為やっておいて損にはならないだろう? 上質な素材を集めておけば、お金になるし」
レイスは、ただ討伐して回っているように見えて、上質な素材や魔石のみを《鑑定》しながら集めているのである。
国境を超えるにしろ、食材を調達するにしろ、換金できるものが必要なのだ。
『お前……金だけの為にやってるのか!? もう良いだろう!』
「馬鹿が。誰が金だけのためにやってると言った! Lv.と遭遇率低下の為だよ!」
『二人共会話が噛み合ってない……。もう寝る、面倒くさい』
その後もサーチアンドデストロイ+収集をするが、未だ口論状態が続き、うるさくて敵わないスロウスが一から会話が噛み合ってないことを指摘し、最初から聞き直してやっと誤解が解けた。誤解を解くまで、実に四十分は掛かった。
時間に用いられてますからね。
六十秒経つ毎に、1分繰り上がりますから。