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忌子の呪いと、呪われた七つ道具  作者: 沫雪(AWAYUKI)
奴隷から自由になるまでの復讐者
5/14

その忌子、死を否定する

 二つの意味で否定?

 目が覚めた。

 光が差し込まないこの部屋は、時間の感覚が分からず、自分の感覚を頼りに起きなければならない。

 起き上がり、昨日は何が起こったのかを思い出す。


 「……骨が大穴を開けた」


 『悪かったな』


 一瞬、混乱しそうになったが、粗末なベットの隣にある木箱の上に、真っ黒な竜の骨が置いてあることで、昨日は厄日だったのを実感。最悪な道具を押し付けられた。


 「明かりを……」


 『あいよ』


 蒼炎が灯り、視界が更に良くなる。

 焼けて溶かされた石壁が、目の前にある炎がどれほどの威力かを物語る。


 「で、自己紹介がまだだったな。俺はレイス、ここの奴隷さ」


 『七つの大罪が一人、ラースだ。道具になっているのは、ちと訳があってやっている。もう分かっているが、呪われた道具だ』


 「そんな大層な物が、呪われてない筈がない……骨だが」


 『……まだ根に持ってるのか』


 「当たり前だ!」


 大声で即答。それ程にまで、深刻な状態だ。

 半ばヤケになり、頭を押さえて愚痴る。


 「お前のせいで殺されるかもしれんのだぞ。しかも、秘密裏に作った逃走経路を使うとなると、あれじゃぁ直ぐにバレる」


 レイスはベッドから降り、その下に潜って壁の一部を取る。そして、ラースを手に取り、それを見せる。


 『これを一人でか?』


 「他に誰が居るんだ……。一年かけて、石で削って掘ったのさ」


 穴を覗くと、そこには人間が一人通れる程の通路が出来ている。中から水が流れる音がする。

 穴を塞いで、ベッドの下から出る。


 「水路に通じている。ここが地下なら、適当に掘れば何処かにぶち当たるだろうと考えたが、本当にその通りだった」


 『すごい執念だな』


 「扉をぶち抜いてくれたおかげで、発見が速まりそうだがな。多分、五分は速まった。今小さいと思ったろ? この時間内に商業区に行けるんだぜ。それがどれほど重要か分かってんのか?」


 『悪かったって。追手がいれば、俺が焼き払ってやるよ』


 「……良い事思い付いた。お前、ここで囮になれ。どうせ手元に戻ってくるだろうし、そっちの方が上手く時間が稼げそうだ」


 俺の計画では、殺されそうになった時にここへ逃げ込んで、穴から逃げる計画だったが、足止めより殲滅してくれた方が好都合。どの道、逃亡奴隷は犯罪者扱いだし、何人殺しても変わりはしない。あわよくば、死んだ者と扱ってくれれば動きやすいだろう。


 「一つ気になるが、何故俺はあの時燃えなかった」


 『呪いで出来ている……と言えば分かるか?』


 「まぁまぁ」


 『ここからは、お前の呪いについて話さないと分からないだろう。自分の呪いが何なのか知っているか?』


 「【死ノ呪イ】という名前しか知らない」


 『まぁ、普通はそうだろうな。それ以外に、自分がどんなデメリットを受けているか分かるか?』


 少し考え込んだ。これまでの行動や、受けてきた因果、全てを見直しても、レイスには何も分からなかった。

 良くて何も無し、悪くて自覚無し。後に、それが自分の足を掬うかもしれないと不安になる。


 『その呪いはな、お前が死んでいると言う意味なんだよ』


 「……何を馬鹿な事言っているんだ。心臓は絶えず鼓動を打ち、血の流れには濁りなく、飢えれば糧を欲するこの体が、死んでいる? あまりふざけたことを()かすなよ……骨」


 魂が持って行かれるとか、行動に寿命が掛かるなら、まだ理解できる。

 それをすっ飛ばして、勝手に殺されるなど納得が行かない。

 もう一度叩きつけようとするが、左腕が(・・・)振り上がった所で硬直。

 直後、女の声が聞こえた。


 『まぁまぁ、話は最後まで聞いたほうが良いよ? そんなに悪い呪いじゃないし』


 「お前が骨が言っていたもう一人か」


 『骨? 酷い呼び方だね。だったら僕は包帯かな』


 「布目……。突然腕や手に目が浮き出るのは気味が悪い」


 『口の悪さは上等だね、この腕一本貰っても良いかな……!』


 鈍い痛みと主に、腕が音を立てて潰された。肉がはみ出て、折られた骨は剥き出しになり、包帯が赤く染まる。

 手は歪められ、指の骨は曲がってはいけない方向に……。その時に、ランタンを落とした。


 「……勘弁してくれよ。貧血になると、ただでさえ時間感覚が狂っているのに朝は起きにくくなるし、夜の見張りに響くのだが」


 『そこ心配する所かよ……』


 『サボっちゃえば?』


 「無理矢理やらされているとは言え、与えられた仕事は全うする義務が有る。それを、腕一本如きで放棄する訳にはいかない。少なくとも、勝手に殉職扱いされるまではな」


 『社畜の鑑だね……』


 『犬だな……』


 「忠犬というわけじゃない。好きあらば手を噛むつもりさ。俺はその機会を伺っている。盛大に破滅させてやる」


 話している間に、腕が妙な動きをしているが、観察すると元に戻っているようだ。


 『君は痛みを感じないのかい?』


 「感じない訳じゃないが、生まれつき鈍痛だな」


 激痛を味わう光景だが、俺には鈍い痛みにしか感じない。何度蹴られても、何度殴られようとも、苦しみ悶えることはなかった。十歳までは、どうしてそれぐらいの事で痛がるんだ、と本気で思った程だ。

 腕は原型まで修復された。しかし、腕は上がったままだ。

 それでも、次の質問がくる。


 『じゃあ、命の危険があると思う、最低限の状況を思い浮かべて』


 「……集団に刃物を向けられ、逃げ場が無い状況」


 『少しスケールを小さくしてくれないかな……?』


 「剣や槍が三本以上貫通したままの状態」


 『『(ズレてる、いや、次元が明らかに違う……)』』


 普通は通り魔や、馬車に轢かれる光景を思い浮かべるだろう。

 彼は、明らかに手遅れな状況でも余裕があると言っている。


 『体験した暴力の中で、死んだな、と思った状況は?』


 「連続で、腹部に五十三発、フルスイングした鈍器で頭を殴られた事、後……テメエ等に腹を刺された事」


 『『(だいぶ根に持ってる……。しかも細かい!)』』


 「今なら百回以上は行けそうだな」


 『やらなくていい……』


 ラースは百回以上殴られるレイスを想像してみた。普通のアンデットよりたちが悪いと思い、途中でやめた……。


 「それより、こんな質問して意味あるのか?」


 完全に元の状態になった腕を降ろし、開いたり閉じたりして調子を確かめる。

 動作は良好。壊れる前よりも動かし易く、利き手と同じような感覚だ。


 『この様子だと、君は三、四回は死んでたのかな』


 「死んでない」


 『黙って聞いたほうがい、お前は特殊だ。文句があるなら、理由を聞いてからにしてくれ』


 舌打ちの代わりに、無表情になる。骨のクセにウザい。


 『一回目は死産だったはずだよ。何かそういうふうなのは聞かされてなかった?』


 「出産に関する話は聞かされなかったね。二人共、話すのを嫌がっていたし、それ以上追及する気にもなれなかった」


 あからさまに嫌そうな顔してたし、相当思い出したくないような事だったんだろう……。


 『二回目は餓死……相当彷徨ったんじゃないの?』


 「……あ~、この街に流れ着いて、一度地図を見る機会があったな……。六日間は歩いてばかりで……行き倒れの所拾われたな、奴隷商人に」


 『待て、お前はどんな身体をしてたんだ』


 「七歳の糞餓鬼だったが何かある?」


 『どういう教育受けてんだ!?』


 「いや、普通だろ?」


 『『どこがだ!』』


 二人は思った。身なりや身分、境遇を考えれば、両親は常識を教える前に他界してしまった事が考えられる。後から、歪な情報が常識として身に付いてしまったのだろう。

 ただ、逃走中の行動、動作は問題は無い。ラースの視界を一時的に阻む時に黒衣を使った事や、逃走経路の把握……その計画性と言い、常識以外なら必要な情報には通じていると言える。挙げるなら、呪いの性質を理解している事だろう。


 『三回目は、急所をしつこく殴られたり蹴られたりされた時だね。普通なら、君が死んでいる事に気付く筈だよ』


 「馬車に轢かれても、普通に生きていたからな……多分それが原因で、このくらいなら大丈夫だろうとか思ってるんじゃないの?」


 『普通逆だろ……』


 「あの時は衝撃緩和と、受け身を上手く取れたからな」


 『どこで覚えた……』


 「ぶっつけ本番」


 『『よく生きてた|ね』な』


 その時に、中にいた人達に顔を覚えられたな。中には、なかなか目の鋭い武人と、好好爺に見えて油断ならない執事と、俺と同い年だったら辺境伯の御令嬢(三年前だったから当時は十一歳だった筈)とその父親の当主。

 貴族だからヤバイと感じて、直ぐに謝罪をしてその場を急いで立ち去ったな。武人が好奇心から尾行していたようだが、あの程度、直ぐに撒く事ができた。

 が、その後日、呪われた物を押し付けたハンターの次に、門の外で再び出会った。

 その日は何もされなかったが、後日令嬢と同伴して、俺に会いに来たのは流石にびっくりした。

 まぁ、もう会うこともないだろう。俺が忌子だから。


 『それとー……最後なんだけど……』


 『ん、どうしたスロウス。歯切れが悪いな』


 『あと一回死んだ記憶、もしくは、生まれる前? に死んだ経験が有るはずなんだけど……分からない』


 「……」


 レイスは顔を逸した。幾つか理由があったが、どれも確信が持てない。

 そこを目敏くラースが指摘する。


 『ほう、何か覚えがあるようだな』


 「一応……憶えはあるが、確信が無い。それと、話はそこまでだ。アイツ等が来た」


 そらしたし先の先、廊下には足音二つが響く。

 気になったけど……皆さんって、どうやってこんなマイナーな作品探せたの?

 何て検索したら引っかかったのか気になる……。

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