転生者、目覚める
短めです。
「僕の花があああああ」
レイスは飛び起き、喚き叫ぶ。その後に何かを探すように部屋を漁り回り、ふと、気付いたように止まる。
「ここ、何処?」
「気がついたようじゃな」
「……誰?」
取り敢えず状況を整理するか。先ずは自分。
僕は来清 春真。二十四歳の花屋。
そしてこの部屋、訳が分からない。いつもは、花で満ち溢れていた店内が、用途不明の道具で埋まっていて、変なローブを着た老人が一人。拉致……?
「いや違う。僕のお店は放火魔によって焼かれて……そのまま花と心中。え、ここは冥界?」
「いや、ココは冥界の様な平和な世界じゃないな。先ずは落ち着いて、過去を遡ると良い」
老人は僕に手を伸ばし、額に触れた。その瞬間、様々な記憶が流れる。
そうだ。僕はレイシア・イルフとして生まれ変わり。その二人の両親と暮らしていた。
色々省いて、悲劇が起きた。そして、僕は転生前を含め四度死んだ。死ぬ毎に前世の記憶が失われていき、三度目にしてレイシアの名前を忘れた。4度目にして殆どの記憶を失ったが、レイシアの執念によって家族を奪われた記憶と復讐は決して忘れなかった。名前は継ぎ接ぎでしか思い出せず『レイス』となった。
「どうじゃ、上手く行ったと思うんじゃが?」
「全部……思い出しました」
「そうか、それは良かった」
どうして忘れたんだろう。大切な事のはずなのに、ずっと忘れてたんだ。
改めて自分の状況を確認する。思い出す前は復讐だけを考えて旅に出た。その後、ギルドに加入し、呪術師の依頼を受けた。それが好都合だから。
で、今の自分はと言うと、思い出しても以前とは変わらない。変わったとすれば、復讐が終わった後に貴重な花を集めて育てたり、花屋さんをもう一度やろうかと。
「それより、何で僕が転生者って思った?」
「お主の呪いは、まず普通ではかけることができない。その呪いは、一度死を経験し、記憶を持ったまま生まれ変わることで稀に発生する。そして、死ぬ度に黄泉がえり、記憶を失っていく」
「それって人間なの?」
「人であるには変わらないが、理からかけ離れている」
つまり、人だけど人間としての本筋から離れてる。それって、化け物で良いんだよね。
「さて、そろそろお主は選ばねばならぬが……良いか?」
「はい」
「まず、諦めて儂の修行を受けず帰るか、それとも、ここで修行をするか」
「レイスは、引き返す道が無い。だからこそ、僕は呪術師になろうと思う」
「うむ、ならば良い。さて、次の問だが、お主はまだ『人』で在りたいか?」
「……え?」
「ここでは、お前のやりようによっては『人間』ではなくなる。悔いのない選択をしてもらおう」
振り返って思ったが、実質四回も死んで蘇るのは人間じゃないけど、飽くまでも人間であるようだ。いや、今更だけど五回は死んでるよね。
でも、まだ人間であるなら、花屋さんはやっていきたい。
その旨を伝え、ハッキリと拒否した。
「そうか。ならば、あれは教えるべきではないな」
「……?」
『あれ』とは何かと聞こうとした時、「知らない方がいい」と言った。
「『アレ』は知ること自体が禁忌じゃ。名を忘れられ幾千年、形を無くし幾星霜。そこまでしなければならない物じゃった。一言で表すなら【人間や世界の闇を掻き集めて煮詰めた物】【アカシックレコードの出来損ない】じゃろう」
「それは僕が知っても大丈夫なの?」
「ホッホッホ、案ずるな。この位程度、お主が知っても何の影響もない。じゃが気をつけろ、これを下手に口にすると……常人であれば発狂するじゃろう」
まずいものを知ってしまった。本能的に『知りたい』と思ったが、同時に危険を強く感じた。
それこそ、死ぬどころでは済まされない、もっと異常なものだ。
「さて、人間云々の話はここまでにし、お主はここで呪術を会得して貰う。忌避される我々が、最も強くなる術じゃよ」